2126.真夜中の夫婦の会話
セグンスにある自分の屋敷で仲間達と食事を終えたソフィは、ヒノエと六阿狐達に使っていない空き部屋を案内した後、リーネと共に久方ぶりの夜を過ごしたのだった。
夕食の時に何やら話があるような事を言っていたリーネだが、結局二人は寝室に入るや否や、これまで会えなかった時間を必死に埋めようとするかの如く、二人は抱き合うようにベッドに倒れ込んだ。
…………
そして寝室に入る前はまだ日が変わる前であったのが、今はもう夜も更けて深い時間になっているようだった。
相当な時間をソフィと励んでいたリーネは、まだ起きていて意識もしっかりとあるようだが、精魂尽き果てたといった様子で額に玉のような汗を浮かべながら横になっていた。
ソフィはいつでも話を聞く準備はしていたが、それでもこのままリーネが疲れて寝てしまっても構わないといった様子で時が流れるのを待つのだった。
やがてソフィが結局はヌーから『念話』はなかったなと考え始めた時、そっと隣で横になっていたリーネに手を握られるのだった。
「……眠れぬのか?」
「逆よ、さっきから寝落ちしそうになっているのを必死に我慢しているところ」
そう言ってリーネはもぞもぞと布団の中で移動を行いながら、ソフィの顔が目の前に来るところまで移動をしてくるのだった。
「……ヒノエさんに告白された時、どう思った?」
唐突にそう口にしたリーネの真剣な顔を見て、直ぐにこれが話したかった本題なのだろうと察するソフィであった。
「まず、お主の事が頭に浮かんだな」
「え……!? そ、それは、あ、ありがとう……。でも私が聞きたかったのは、そ、そういう事じゃなくてね? ヒノエさんを一人の女性として見た上で、告白されて貴方はどう思ったのかを聞きたいの」
そう告げるリーネだが、ソフィが告白されて直ぐに自分の事が頭に浮かんだと聞かされた事で、胸中では嬉しさがこみ上げてきてしまい、自然に笑顔になるのを堪えるのに必死になるのであった。
「ふむ、確かに嬉しいという気持ちはあったが、お主に対して想うような気持ちを抱いたというわけではなかったというのが本音なところだな。だがそれでも他の者達と比べれば、ヒノエ殿を好む気持ちは大きいというのも否定は出来ぬ」
ソフィの返答を聞いたリーネは、視線をソフィから天井に向けると、一人悩むような表情を浮かべ始めるのだった。
(どうやらソフィさんは告白されたことに関しては嬉しかったみたいだけど、だからってそれだけでヒノエさんの印象を変えるまでは行かなかったって事でしょうね。まぁ、その気がないのにいきなり告白されたから好きになるって言うのも変な話……かな? でも私もヒノエさんと同じように、先にソフィを好きになったんだよね……。きっとその頃はソフィは私の事を好きじゃなかったと思うし、最終的にソフィから告白されたけどそれってやっぱり、長く一緒に居たからこそ、お互いの事を理解出来るようになって、それでソフィも私の事を気に入ってくれたって事なんだと思う。ヒノエさんとも長く居れば考えが変わるかもしれないけれど……。でもなぁ、今は私がいるのだし、そもそもソフィにそういう気がないのなら、うーん……)
ソフィは隣で何やらリーネが天井を見ながら悩み始めたのを見て、先程口にした返答が彼女の望んでいたものではなかったのだろうかと思い始めて、彼もまたノックスの世界でのヒノエとの思い出を思い返し始めるのであった。
何度か場所の移動の際に、ヒノエにせがまれて『高等移動呪文』を用いてやった時の彼女の驚きながらも楽しそうにしていた表情。コウヒョウの町で一緒に食べ歩きをした時に感じた楽しいという自分が抱いた感情。そして妖魔山の道中では、かつてヒノエに対して約束を行った、妖魔山の空の上での景色を見せてやった時の彼女のとても嬉しそうな表情を見た時の充足感。特に最後の山の上での景色を見せた時に、ヒノエから感謝の言葉を告げられた時、ソフィも嬉しい気持ちになったのを思い出すのだった。
そうして大きい出来事の思い出を振り返る内に、今度はコウヒョウへ向かった時の空の上や、わざわざ危険を省みずに王琳との戦闘の場にまで応援に駆けつけてくれたのだと、エヴィや耶王美から聞かされた話を思い出したソフィは、そこでようやくリーネに抱く気持ちに近しいものを自分の中で感じられたのだった。
どうやらこうしてリーネに訊ねられた事で、自分にはリーネという最愛の妻が居るのだという部分を切り離した上で、ようやく彼は一人の女性としてヒノエの事を考える事が出来た様子である。
これまでは彼の中で、リーネ以外の異性を好きになるという選択肢を自ら放棄して物事を捉えるのが当然のようになっていて、告白されても本気でその想いに向き合う事が出来ず、まるで第三者視点から物事を捉えているかのような状況を自ら生み出していたのだった。
「お主が一体どのような言葉を望んでおるのかは分からぬが、今一度ヒノエ殿の事を思い返してみたのだがな……?」
「! 何かしら!?」
独自の思考の海に潜っていたリーネは、ソフィから続きの言葉があるとは思っておらず、急に喋り始めたソフィに思わず凄い勢いで振り向くのだった。
「う、うむ。いや、そのだな……」
あまりに想像していた以上の反応をみせたリーネに、思わずソフィは用意していた言葉を噤みかける。
「お主に言われてノックスの世界で、ヒノエ殿と接していた時の事を色々と思い出しておったのだが、確かにヒノエ殿に感謝の言葉を告げられる時に見せる笑顔はとても気分が良いものだったと思い出したのだ。見ていて安心させてくれるような笑みでな、我はこれまでもお主から同じような笑みを向けられた時、非常にやる気になれたのだが、それと同じような感覚をヒノエ殿からも感じられたなと、そしてこれからも可能ならば見続けていたいなと思えたのだ」
真剣にヒノエの事を考えた上で結論を下したソフィの言葉に、リーネも満足そうに頷くのだった。
「ソフィ、そう思えるって事は貴方もヒノエさんの事を気に入り始めている証拠よ。私の時もきっと貴方はそうだったんじゃないかしら? ギルド対抗戦に参加した時、強引に貴方達について行って煩いくらい話し掛け続ける私を相手してくれて、そして兄との確執に真摯に向き合ってくれて、私の悩みを聞いてくれて……。お互い長い期間を一緒に居て、色々な話をしていく内に想いが生まれていったのだと思う。最初は誰だって相手の事を知らないし、知ろうと思わなければきっと興味も湧かない筈よ? でも、今の貴方の言葉を聞いて、私は貴方とヒノエさんの間にも絆みたいなものが生まれ始めていると感じた。最初は他愛のない事だったかもしれないけど、きっと
キッカケなんてそんなモノだと私は思うんだよね」
「そうかもしれぬな……」
ソフィはリーネの言葉に強い意志を感じながらも、その先を催促するような真似をせずに、同意をしてみせるのだった。
「だからね……」
そしてとうとうリーネは、ずっとソフィに聞いてもらいたかった言葉を意を決して口にし始めるのであった。
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