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2120.罠

「ふんっ、お前がここで一番偉い野郎ってわけか。だったら最初に言っておくが、俺は別に冒険者ってやつになりにきたわけじゃねぇし、ここにいつまでも長居するつもりもねぇ」


 ヌーは『レビア』の自己紹介の後に差し出してきた手を取らず、一方的にそう告げるのだった。


「おやおや、これは中々に手厳しい御方ですね……?」


 人当たりの良さそうな若い青年である『レビア』は、そう告げた後にチラリとミハエルの方に視線を向けた。


 どうやらレビアは、早々にヌーという男がどういった性格をしているかを察した様子であり、事情を本人からではなく、ここまでヌー達を連れてきた元ギルド職員であるミハエルから聞こうとしたようであった。


「レビアギルド長、申し訳ない。実は彼を連れて来たのはワシの勝手な都合でしてな、当人が口にした通り、この町で冒険者になりにきたというわけではないのですよ……」


 少しだけ慌てている様子を見せながらそう告げたミハエルだが、レビアギルド長はそのミハエルの態度は演技であり、本音では全く慌てていないというのを理解した上で改めて口を開き始める。


「そうなのですか? しかしここの職員を辞めた貴方が、わざわざ私に直接会わせにくる程の事情です。まずは詳しく話を聞かせてもらうとしましょうか」


 そう言ってレビアはこの場に居る者達に椅子に座るように促すのだった。


 ここに長居するつもりはないヌーだが、それでもここまで来た以上は約束を果たすまで居る事に決めたようで、促されるままに椅子に座るのだった。


 ヌー達が素直に椅子に座ったのを確認した後、レビアも自分の執務中に座っていた椅子に再び腰を下ろすのだった。


「まず最初にお伝えしておきますが、彼は何処の冒険者ギルドにも加入しておりません。というより、そもそもが冒険者ギルドが何たるかという事すら存じてはいなかったようです」


「……ほう? それは今時とても珍しい事ですが、では何故彼をここへ連れてこようと思ったのでしょうか? あの一件以来、自分の『魔』の概念の研究以外に興味を示さなくなった他でもない貴方が」


 レビアはヌーの素性よりも先に、ミハエルがヌーをここに連れてきた事に大きな疑問を抱いていた様子でそう質問をするのだった。


「それはですな、彼が大変に優れた『魔力』を持っていて、尚且つ『漏出(サーチ)』といった失われた筈の根源魔法の事を知っている事、それに加えて……」


 そこでミハエルは一度言葉を切り、目を鋭く細めながら改めてレビアを見た。


「どうやら彼は、あの『破壊神』と知り合いのようなのです」


「!?」


 レビアはミハエルの言葉に驚くように目を丸くした後に絶句する。そして彼は、先程までとは異なる種類の視線をヌーに向けるのだった。


「おい、ここに来ればその『破壊神』ってのが何なのかの説明をするって話だったよなぁ? さっさと説明しやがれや」


 ヌーはそう告げると同時、組んでいた長い足を椅子の前にあるテーブルの上に乗せ始めるのだった。


 そんな失礼な態度を取り始めたヌーから、再び視線をミハエルに移したギルド長のレビアだが、その視線の先のミハエルが大きく頷いた事で口を開き始めるのだった。


「実は……――」


 ……

 ……

 ……


 ギルド対抗戦がどういうモノなのかの説明から始まり、かつてこの町に居た才能に溢れる魔法使い『ルビア』の話、更にその『ルビア』がした事に激昂したソフィが『ルビア』を秘密裏に処刑した事をヌーに説明するのだった。


 当初ヌーは長い脚をテーブルに投げ出したまま、腕を組んでつまらなさそうに話を聞いていたが、ルビアという男がギルド対抗戦でソフィの怒りを買って、処刑されたという事を聞いて嬉しそうに笑うのだった。


「ギルド対抗戦では我々のギルドが勝利を収めたのですが、どうやら『破壊神』は大会運営の決定に納得がいかず、それでこの町期待の魔法使いであったルビアを殺めたので……――」


「違うな――」


 ソフィが大会の決定したルールに納得がいかず、それで直接の原因であったルビアを逆恨みして手を出したのだと告げようとしたレビアだったが、その言葉を最後まで言い切る前にヌーは言葉を挟むのだった。


「ソフィの野郎は自分達のギルドが敗れたから逆恨みをしたんじゃねぇよ。奴と一緒に参加した仲間って奴が正々堂々と戦った上で負けたのなら、あの野郎は納得して大会の定めたルール上での敗北を受け入れていた筈だ」


「……ですが、実際に我がギルドに所属していたルビアは、破壊神に殺されているのですよ?」


 思ってもみなかったヌーの反論に、レビアはこれまでのような柔和な態度を取らずに言い返す。


「ククククッ! それはソフィが納得出来ないやり方で仲間を傷つけられたからだろう? ルビアって野郎がどれ程の『魔』の概念理解者だったのかは知らねぇが、あの野郎に真っ向から喧嘩を売るなんざ正気の沙汰じゃねぇよ。そのルビアって野郎だけが殺されるだけで済んで良かったな? 下手すりゃその大会の運営ごと、この町の関係者全員が皆殺しにされててもおかしくはなかったぜ?」


「……」


 ヌーの言葉を最後まで黙って聞いていたレビアだが、その顔は憤怒に染まっており、先程までの優男の姿は何処にもなく、凄い形相でヌーを睨みつけるのだった。


 そしてレビアは怒りの表情を浮かべたまま、何とか絞り出すように彼は口を開くのだった。


「……成程。ここまで彼が『破壊神』の事に詳しいという事は、どうやら相当に『破壊神』と親しいようですね。ミハエル、貴方が彼をこの場に連れてきた理由を理解しましたよ」


「ええ、その解釈で合っていますよ、ギルド長。当初は本当に彼の『魔力』の高さと『魔』の概念理解度に惹かれてワシも近づいたのですが、話を聞いている内に想像以上にあの『破壊神』と相当に親しい間柄のようだったのでね、何とかしてこの場に連れてこなくてはと思ったのです」


 レビアとミハエルはもうヌー達の方を完全に無視して、二人で話し合い始めるのだった。


「彼がヴェルマー大陸の大国の王の座を退いたとはいえ、今でも表立っては『破壊神』の仲間達に手を出す事は容易ではありません。ですがこの御方個人であれば知っている者も限られているでしょうし、せいぜい利用させて頂くとしましょうか」


「ええ、すでに表にワシの手の者を集結させています。何も知らないのは現行の職員と冒険者くらいのものですが、この時間に居る冒険者は大した人数でもありませんし、勲章ランクも大したことありません。それは長年このギルドに勤めていたワシにはよく分かっています。ですのでさっさとこやつらを捕らえて『破壊神』をおびき寄せるがよろしいかと」


 淡々と話が進んでいるのを横で聞いていたヌーは、訝しむように眉を寄せながら口を開いた。


「おいおい、俺を無視して何を勝手に話を進めてやがる? 一体どういう事なのかをしっかりと説明しやがれや」


 ヌーはレビアとミハエルに敵意を向けられながらも、平然とそう口にするのだった。


「察しが悪いですね。貴方は利用されたという事ですよ。実は私は『破壊神』に殺められた『ルビア』の実の兄でしてね? こうしてこの町の前ギルド長を亡き者にして、新たに私がギルド長の座についたのも全ては復讐の為にギルドを利用する為だったのです。冒険者ギルドの管理を任されていれば、いつかはあの『破壊神』と親しい冒険者と巡り合えるとは思っていましたが、まさかこんなに早く目的が達成出来るとは思ってもみませんでしたよ。得意気になって弟を貶しておられましたが、彼と親しいという情報を我々に出したのは失敗でしたね。さて、弟を貶して笑った報いも同時に受けて頂きましょうか」


 ヌーは呆れた目をしながらレビア達を眺めていたが、やがて視線をテアに移して溜息を吐くのだった。


「――」(おい、ヌー? 一体こいつらとどんな話をしているんだ? 何だかさっきまでと明らかに空気が違うようだけど、何かあったのか?」


「ああ。どうやらこいつらは相当に馬鹿だったようだ。俺を捕らえてソフィを呼び出す為に利用してぇんだとよ」


「――」(へぇ……? じゃ、こいつらは敵って事で処理していいか?)


 テアは目の前の男たちがヌーに仇なす者と聞いて、声は変わらず冷静なものだったが、その表情は先程のレビアと同じく怒りに満ちているものに変わっていた。どうやらヌーが目の前の人間達に手を出されようとしていると知って我慢ならなかったらしい。


「ふふっ、その少女の言語から省みるに、どうやらミールガルド大陸の人間ではないようですね? 貴方たちは『破壊神』の治めていたヴェルマー大陸の国の魔族達という事でしょうか?」


 ヌーとテアの会話を聞いていたレビアは、どうやらヌー達をヴェルマー大陸から来た魔族達だと勘違いをした様子であった。


「何を勘違いしていやがる? 俺もこいつも、ソフィの野郎もこの世界の出身じゃねぇよ。それより、俺らを捕えようって話は本気なのか?」


「ふふふっ、どうやらこの部屋に迫って来ている者達の事を察して怖気付いたようですねぇ。先程のミハエルの言葉からどうやら少しは『魔力』が高く、それなりの実力者のようですが、私はいち都市の冒険者ギルドを預かるギルド長の立場だ。残念ながら使える手駒は豊富に揃っていましてね、残念ですがもう逃げられませんよ?」


 レビアが言い終えると同時、入り口の扉が開かれて大勢のローブを着た人間達が入ってくるのだった。


 どうやらこの場に現れたローブ姿の男たちは、ニビシアの中でも勲章ランクが高い魔法使い達のようであった。


「ハハハハッ! 『漏出(サーチ)』を使えるなどという話は流石に信じてはいませんが、腕にそれなりの自信があるというのは本当の事なのでしょう。でしたらある程度は彼らの実力も理解出来るでしょう! ここに現れた者達はルビアには及びませんが、この町が誇る第一級の魔法使い達なのです! さぁ、貴方達! ここに居る彼らを捕らえて……――」


 レビアが最後まで言い終わる前に、大魔王ヌーの目が金色に輝き始めたかと思うと、周囲にキィイインという音が鳴り響いた。


「――自決しやがれ」


 次の瞬間、この部屋に入ってきた魔法使い達は、次々と自ら舌を噛み切っていき、あっという間に全員が床に倒れ伏してしまうのだった。

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― 新着の感想 ―
ソフィの事を全然理解していないが故の愚行だったな… ソフィがとびっきりの実力者であり、そのソフィに対する印象等をよく知っているヌーに対してそれなりの実力者程度で納めてしまったのはあまりにもバカな奴らだ…
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