2118.ヌーの呆れた目と、程度の低い話
冒険者ギルドが何なのかを知る為にこの町に来たヌーは、このニビシアで出会った元ギルド職員だったという男の案内で、ニビシアにある冒険者ギルドの前に辿り着くのだった。
「ここがニビシアの町の冒険者ギルドだ! 他の町から訪れる冒険者もそれなりに居るが、この町で育って冒険者になった連中の大半が魔法使いだ」
「何だ? この施設全体が『魔』を学ぶ施設っていうわけじゃねぇのか」
「そ、そりゃお前さん、ここは冒険者ギルドだからな……。というかお前さん、冒険者になりたいから冒険者ギルドを探していたんじゃないのか?」
ここまで案内してくれた男はようやく、ヌーが単なる冒険者志望ではないという事を理解した様子であった。
「別にそういう理由で探していたわけじゃねぇ。単に『冒険者ギルド』ってのが何なのかを知る為に来ただけだ。それでここが『魔』の概念技法を学ぶ為の施設じゃねぇって事は分かったが、結局何をする為の施設なんだ? 何故人間共はここに大勢集まってきやがる?」
ヌーがここで男と話をしている間にも、ヌー達を邪魔そうに思いながらギルドの中から出てきたり、外から中に入っていく人間達を見て、何がこんなに人気なのかと更に疑問が深まるヌーであった。
冗談でも何でもなく、目の前の長身の男が『冒険者ギルド』自体を何なのか把握していないのだと理解した元職員だったという男は、ギルドの事を『冒険者ギルド』の入り口で一から説明し始めるのだった。
それはかつてソフィが露店の『おやじ』から教わっていた時と、全く同じ展開が繰り広げられたのであった。
…………
「ちっ! ようは生活の為ってわけかよ。金が欲しけりゃいちいちこんな面倒な手順踏まなくてもよ、さっさと金や物資を持っているやつから奪っちまえば良いだけの話だろ。人間共は本当に頭が良いんだか悪いんだか、また分からなくなってきちまったぜ」
ブツブツと愚痴を零し始めたヌーを見て、男は唖然とするのだった。
「全く、ソフィの野郎も期待させやがって。俺に『冒険者ギルド』を調べろって言いやがるから、どれだけ今の俺に必要なモンなのかと思えば、全くどうでもいい話じゃねぇか、期待して損したぜ。おい、テア! 俺はもうこの町にも『冒険者ギルド』にも興味は失くなった。さっさと戻るぞ!」
「――」(えっ!? 今からここに入るんじゃないのかよ! じゃあ一体何しにここにきたんだよ……)
「うるせぇな。ソフィの野郎にまんまといっぱい食わされちまったんだよ。今夜会ったら野郎に文句の一つでも言ってやらねぇとな……」
そう言ってヌーはテアと共に元来た道を引き返し始めるが、それを見た元職員の男は、慌ててヌー達の背中に声を掛けるのだった。
「ちょ、ちょっと! ワシに『魔』の概念を教えてくれる話だっただろ! そ、それにソフィってどういう事だ!? お、お前さんはあの『破壊神』の坊主と知り合いなのか!?」
あっさりと約束を反故にしてこの場から去ろうと考えていたヌーだったが、男の口から『ソフィ』と『破壊神』という言葉を聞いて、ぴたりとその足を止めて振り返るのだった。
「あ? お前、ソフィの事を知っていやがるのか? ここはあの野郎が支配していた国とは全く異なる大陸のようだが、何故てめぇがソフィの事を知っていやがる? それに『破壊神』って一体何の事だ?」
どうやら『冒険者ギルド』については完全に興味を失った様子のヌーだったが、男の話すソフィの事に関しての内容には、これまでにない程の興味を示すのだった。
「お前さんが知りたい事は、中でゆっくりギルド長を交えて話す! だ、だから中でワシに『魔』の概念の事を教えてくれ! と、特にさっきの『漏出』の事を詳しく訊きたいんだ。ワシらや町の研究者達が頭を悩ませて辿り着いた『漏出』の研究成果では、失われた根源魔法である『漏出』は、確実に『開示』の延長線上にある『魔』ではなく、完全に独立を果たした似て非なる『魔』の『概念技法』なのだと結論が出た! つまりは隠蔽を行うにしても『開示』と同じ要領ではなく、対策も全く異なるものとして研究を続けなくてはならぬのではないかと思っておるのだ……が、その辺はお主はどう思う!?」
男はそう熱弁しながらヌーに意見を求めたが、肝心のヌーは眉を寄せながら溜息を吐くのだった。
「お前、どれだけ程度の低い話をしていやがんだ……?」
心底呆れたような目で男を見つめながら、ヌーは信じられないとばかりに『冒険者ギルド』の施設の前でそう言葉を告げたのだった。
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