2117.教わる身でありながら、教える者
結局声を掛けた二人組には逃げられてしまい、ヌー達は『冒険者ギルド』が何なのか分からずじまいのままとなってしまうのだった。
「まぁ、今の奴らの口振りから『魔』の概念に関する座学を行う施設か、はたまた研鑽を積む場として用意されているような訓練場施設のようなモンなんだろうな。別にそれさえ分かれば後はもうどうでもいいが、一応もう少し調べてみるか?」
そう言ってヌーがテアに話し掛けていると、そんな二人に遠くの方から走りながら近づいてくる人影が見えた。
「――」(おいヌー、何かこっちに向かって来るぞ?)
「ああ……。だが殺気みたいなモンは一切感じねぇ。別に構える必要すらねぇだろ」
アレルバレルで襲撃が行われた時と比べると、二人は落ち着いた様子を見せながら近づいてくるローブ姿の中年男性に視線を送るのだった。
ヌーは近づいてくる男に一応は『漏出』を用いたが、大したことがないと分かるや否や、そう言って戦闘態勢を取る事すらせずに男が到着するのを待つのだった。
そして血相を変えながら走ってきた中年男性は、息を切らしながらもようやくヌー達の前へと到着を果たすのであった。
「はぁっ、はぁっ……! あ、あんた! さっき若いカップルと何やら揉めていたようだが、立ち去る彼らに対して放とうとしていた『魔力』……! あ、あれは一体どういう事だ!?」
どうやらヌーが先程の二人組に声を掛けていた時から様子を見ていたらしく、男はヌーが『魔力』を高め始めた瞬間を目撃して驚き、ここに来た様子であった。
「あ? どういう事って何がだよ? 別に誰も殺ってねぇし、そもそも何も関係ねぇテメェに文句を言われる筋合いもねぇだろうが!」
どうやらヌーは自分が先程の二人組を殺めようとしていたのを目の前の男に見られた事で、この後に注意されるのだろうと判断し、先に釘を刺すようにそう口にするのだった。
「ち、違う! 私はあんたらが揉めていた事に注意をするつもりで呼び止めたんじゃない! あんたの信じられない程の滑らかな『魔力』のコントロール具合と、高めた膨大な『魔力』の凄さに驚いて、こうして声を掛けたんだ! あ、あんた一体何者なんだい!? そ、それにさっき私にも『漏出』を使っていただろう? この魔法都市と言われている『ニビシア』以外の町から来た者が、どうして失われた根源魔法を使えるんだ……!?」
「あぁ……!? テメェは一体、何を訳の分からねぇ事を言っていやがる。別に今は『三色併用』を使っていたわけじゃねぇし、そこまで複雑な『魔力コントロール』をしてねぇよ。ただ単に『極大魔法』を放とうと、発動に必要な程度に『魔力』を高めただけだろうが……。それに『漏出』は確かにさっきテメェに使ったが、別にこんなモンはそこらのガキでも使えるだろうが……! 何が失われた根源魔法だよ、そんな呼び方されるような代物は『ミラ』達が使っていやがる『神聖魔法』以外にねぇよ」
大魔王ヌーはこの『リラリオ』の世界の常識をよく分かっておらず、少し前にこの世界に来た時に相対した『魔王』レアや、レパートの魔族達がこの『リラリオ』の『魔』の概念の基準値だと結論を出していた様子であり、それでも程度の低い世界なのだと意識付けていたのであった。
だからこそ、目の前の男が『漏出』や、ヌーが先程『極大魔法』を放とうとした時の『魔力』に驚き、こうして声を掛けてきたというわけなのであった。
「な、何だって? 『三色併用』……、それに『神聖魔法』だって……? な、なんだそれは!? ワシにも分かるように一から説明をしてくれないか!? お前さんはこのワシから見ても、この魔法都市『ニビシア』の者達よりも『魔』の概念理解度が遥かに高いように感じられる! さっきの『魔力』の高さが良い証拠だ!」
中年男性は興奮した様子で矢継ぎ早にそう口にすると、ヌーを逃さぬようにとばかりに両肩をしっかりと掴み始めるのだった。
「テメェ……ッ! 何を勝手に触っていやがる!!」
男に両肩を掴まれたヌーは、怒り心頭とばかりに男の手を強引に引き剥がすと、そのまま首を掴んで持ち上げ始めるのだった。
「かはっ……! ま、待ってく……、れっ……っ!」
「そのまま死ね」
「――」(おい! さっき私が注意したばかりだろっ! そのままソイツを殺せばまたソフィさんや、ソフィさんの仲間達に呆れられて馬鹿にされるぞっ!)
「ちっ……! わぁってるよ、うるせぇな」
確かにヌーは男の首を絞め落とそうとしていたわけではないようで、軽く掴んで持ち上げただけの様子であった為に、すんなりとそのまま首から手を離すのだった(※しかしそれでも十分に男の首は締りかけていたようで、テアがもう少し注意が遅ければ、力を抜いた状態であっても絶命していた)。
どさりっ、と音を立てながら尻餅をついた男は、慌てて自分の首を擦りながら荒い息を吐くのだった。
やがて息を整え終えた様子の男は、ゆっくりと立ち上がりながら、尚もヌーに怯む事なく声を掛けるのだった。
「か、勝手にアンタに触れた事は謝る! そ、それにさっきアンタが口にしていた『冒険者ギルド』が何なのかも詳しく教える! だ、だから、アンタの知り得る『魔』の概念を少しでいいからワシにも教えてくれんか……!?」
どうやら男は本気でヌーに対してそう言っているようであり、余程に『魔』の概念理解度を深めたい様子なのが言動からも感じられた。
「ふんっ、まぁ『冒険者ギルド』ってのを一から説明しやがるなら、少しだけなら教えてやる。といっても、俺も『魔』の概念に関しては、人から教わる身だからな。大した程度の事は教えられねぇが、それでもいいのかよ?」
「い、良いのか!? ああ! ワシはかつてこの町の冒険者ギルドの職員だった男だ! ギルド長にもアンタを紹介出来るし、場所も案内してやる! だからワシに『魔』の研究をさせて欲しい!」
そう言って男は嬉しそうに、自分より遥かに長身であるヌーを見上げながら、そう口にしたのだった。
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