2115.ミールガルド大陸の魔法使いの町
ニーアと別れた後にソフィは『高等移動呪文』を使い、ブラスト達と共にヴェルマー大陸のラルグ魔国領にあるセグンスの町の門の前に辿り着くのだった。
「本当は町の外ではなく、そのまま屋敷の前に飛んでも良いのだが、出来るだけ町に居る者達を驚かせたくはないのでな。悪いが屋敷まで少し歩く事になるが、許して欲しい」
このセグンスの町に住んでいる者達は、自分達の町に前ラルグ魔国王であるソフィと、そのソフィの夫人であるリーネの事を大が付く程の歓迎ぶりで、この町の中に直接『高等移動呪文』を使って飛んできても驚きこそはするだろうが、誰も文句を口にする事はないとはソフィも思っているのだが、それでも驚かせる事自体がソフィには思うところがあるようで、わざわざ口には出さないが常にこの町に『高等移動呪文』を使って戻って来る時には自分の屋敷の前ではなく、少し遠回りとなるが町の門前の外に飛ぶようにしているのだった。
「俺達の事は気になさらないで下さい! それよりも流石はソフィ様だ……。町の住民達に対してのソフィ様のお心遣いに改めて感服致しました」
「ブラストさんの言う通り、私達の事は気にしないで下さい! むしろ先程の場所から走って戻ると告げられていても、私は一向に問題ありませんでしたし、こんなに近くにまで運んで頂けるだけで十分過ぎます!」
「いや、ミールガルドのグランから走ってここまで戻るぞとは、流石に口が裂けても言わぬがな……」
六阿狐の性格を知っているソフィは、彼女は冗談で言っているのではなく、ソフィが空を飛ばずに海を泳いで渡ると口にしても平然と頷き、言われた通りに泳いでしまいそうだと考えてそう返事をするのだった。
「さて、すでにリーネ達も話し合いを終えている頃であろうし、このまま屋敷に向かうとしようか」
「そ、そうですね……。さ、流石にこれだけ経てば、リーネ様も落ち着いておられるでしょう……」
ブラストはそう返事をした後、何やら祈りを捧げるように目を閉じ始めるのだった。
そんな様子のブラストを見たソフィは、一体我の知らぬところでリーネと何かあったのだろうかと疑問を抱き始めるのだった。
……
……
……
一方その頃、一足先にミールガルド大陸へと飛び去って行ったヌーとテアは、ソフィが口にしていた『冒険者ギルド』が何なのかを調べる為、実際にミールガルド大陸のとある町の『冒険者ギルド』へと足を運んでいたのだった。
彼らが向かったそのとある町とは、かつてギルド対抗戦でグランの冒険者ギルドが決勝トーナメント本戦で戦った『ニビシア』の町であった。
彼が『ニビシア』の町を選んだ理由は、魔力感知を行った際にこの町が一番『魔力が多い人間が集まっていた』からに他ならなかった。
まぁそれでもこの『ミールガルド』大陸の中ではという話なだけで、ノックスの世界で出会った『エイジ』や『シギン』といった妖魔召士達とは比較にすら出来ない程の差が当然にあった。
「ふんっ、この町の奴らはどいつもこいつも長ったらしいローブを着ていて、見ていて暑苦しいな」
「――」(皆暑くないのかな? 今日も相当気温も高いと思うんだけどなぁ……)
この『ニビシア』は魔法使いの町と呼ばれており、ミールガルドの中では魔法の研究が随一と呼べる程に進んでいる。
その為に住人達もその多くが魔法使いであり、ヌーが見渡す先の目に入る町行く者達全員が、長いフード付きの魔法使いのローブに身を包んでいたのだった。
「ちっ! ソフィの野郎が『冒険者ギルド』とか訳の分からねぇ事言いやがったせいで、気になって探しに来てみたが、やっぱり止めときゃよかったと後悔し始めてきたぜ。全員同じ服装で歩いているところを見ると『煌聖の教団』の信徒の連中を思い出して気分が悪くなってきやがった。テア、もう帰るか?」
「――」(でも夜にソフィさんを迎えに行こうっていう話なんだろう? まだだいぶ時間あると思うけど、何処に行くつもりなんだ?)
「ちっ! そうだったな……。それに俺も余計な事言っちまって、一日、二日延びたって構わねぇって豪語しちまったからな。今更やっぱり早めに行こうとは切り出しずれぇな……。こんな事ならやっぱりソフィの呼び止めの言葉なんざ無視しちまって、アレルバレルの世界で待っていた方が良かったかもな」
ヌーが今もこの世界に残っているのには、もちろんソフィと共に『レパート』の世界に向かう為ではあるのだが、ソフィが『ノックス』の世界から連れてきた仲間達の居場所を作る間、この世界で待つ事となったのである。
そうなった理由は、あのソフィが自分の手が届く範囲で待機していろとヌーに告げたからであった。
いつも以上に本気の表情を見せたソフィにそう告げられたヌーは、渋々とではあったが『リラリオ』の世界に残る事にしたのである。
そして暇潰しにこの町で『冒険者ギルド』とは何なのかを調べに来たというわけなのだが、選んだ町が悪かったのか、行き交う人々全員が照らし合わせたかのように同じ恰好で歩いているのを見て、ヌーはうんざりとしながら町の中を歩いているというわけであった。
「いつまでも目的もなしに歩いているワケにも行かねぇ。とりあえずここの連中に『冒険者ギルド』が何なのかを聞いて回る事にすっか」
「――」(おい、分かっていると思うけど、無駄に暴れるなよ?)
「さてな、それはこの町の連中次第だ」
ヌーが大人しく言う事を聞くとは思っていなかったテアは、返ってくる言葉に小さく溜息を漏らすのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!