2114.やるせない気持ち
「僕はね、この町でまだCランクだった頃、当時のAランクの方々が高ランクのギルド指定魔物を討伐しているところを見る機会があってね。その時にパーティの連携の凄さを目の当たりにして、いつか僕もこんな風に魔法使いとして活躍の出来る高ランクパーティの仲間入りをしたいってずっと考えていたんだ。だから『リルド』や『エレナ』の居る『紅蓮の魔導』でリーダーを務めさせてもらっている現状を手放したくはないんだ」
どうやらニーアは高ランクパーティで活躍するという事に大きな憧れを抱いていたようで、ようやく自身もAランクとなって念願のAランクパーティに入れた事で、今の立場を逃したくないと本音では考えているようであった。
しかし全てが憧れ通りだったというわけではなく、頼れる仲間達と作戦終わりの反省会をしたり、上手くコミュニケーションを取って次に活かしたり出来るような話し合いが出来ず、歯痒い気持ちを抱きながらこのパーティにしがみついている様子のようであった。
「ふーむ……。これは中々に難しい問題のようだな……。依頼をこなす時は思い描いた通りのパーティに参加してはいるが、それ以外のところでは上手く行っておらず、お主なりに改善しようと仲間に声を掛けてみるも、パーティ仲間からはそんなものは常識外れだと拒否されてしまっておるというわけか」
ソフィ自身もこの世界の高ランク冒険者の常識というモノを理解しておらず、初めて加入した冒険者ギルドが弱小で高ランクどころか、Cランクの冒険者すらあまり居なかった頃の『グラン』のギルドであった為、今のニーアと似たような事しか経験してきておらず、リーネやラルフとパーティを組んだ時も反省会とは……、言えるかどうかは分からないが、それでも話し合いはしていたように思えた為、高ランクの者達の組むパーティの付き合い方というのがイマイチ分からずにアドバイスのしようがなかった。
「ギルドで受ける依頼や、任務自体は上手く行っておるのか?」
「そうだね……。今までパーティを組んで失敗した事はないよ。正直、リルドかエレナだけでも何とか出来るようなクエストばっかりだし、たまに今回みたいなギルド指定の討伐依頼もあるけど、僕達全員でかかれば難しくもないからさ……」
「そうか……」
難しいクエストに当たれば、もしかすると苦戦して思い通りに行かず、仲間内で話し合うキッカケにもなるのではないかと考えて質問を行ったソフィだが、そもそも高ランクの冒険者が一人居ればあっさりと達成が出来るような依頼ばかりのようで、反省会になる以前の問題のようであった。
「まぁ、確かにリマルカの奴も我の屋敷に来た時、こちらの大陸とヴェルマー大陸では、魔物自体の強さがまるっきり違っていて驚かされたと言っていたしな。お主らもヴェルマー大陸の方に遠征する事があれば、色々と変わるのかもしれぬが」
「そう言えばリマルカさんは、ルードリヒ王国から指名依頼を受けて、ソフィ君の居るヴェルマー大陸に向かったんだっけ。同じAランクパーティの僕達の元にも、リマルカさんの噂は色々と届いているよ。でも僕達が聞いた話では、こちらで指定ランクAに認定されている魔物達をバッサバッサと魔法で薙ぎ倒して大活躍をしていたって噂では聞いていたんだけど……」
噂とソフィから直接聞かされた話に乖離が見られた為、首を傾げるニーアであった。
「ニーア殿、そんな噂は信じない方がいい。俺が見たリマルカって野郎は相当の臆病者だった。庭に居るソフィ様の配下の魔物達にさえビビっていてな。玄関から出る時に、ずっと俺かチビッ子にしがみついて近寄ってこないかどうか辺りを見回していたような奴だった」
そう言えばリマルカが屋敷に訪れた時、こやつも一緒に暮らしていたなとソフィは今の話で思い出すのであった。
「そ、そうなんだね……。でも遠征……か。確かに僕達にも何か指名依頼が来れば、リルド辺りが喜んで受けたいと口にするだろうけど、通常の依頼ではこの町から、ヴェルマー大陸に向かうような依頼は持ち込まれないかなぁ」
ニーアは反省会と言う名目でコミュニケーションを取るにしても、あまりにも可能性のなさすぎる話だと考えた様子であった。
「まぁ、お主がこのまま高ランクパーティで続けていこうと思うのであれば、ある程度は折り合いをつけていかねばならぬだろう。どうしても我慢出来なくなった時は、その時に抜けるなり考えるしかあるまい」
ニーア自身が今のパーティを嫌で抜けたいと考えているわけではない以上、直ぐには解決案が出せないと判断するソフィであった。
「そうだね……。屋敷でリーネちゃん達が待っているんだろう? 時間を取らせてごめんね……」
「謝らなくてよい。我とお主の仲ではないか。何かまた相談したい事があれば、いつでも我を頼ってくれて構わぬ。我と直接連絡を取りたい時は、いつでも『おやじ』の元に居る我の仲間の魔物達の元に向かうが良い。屋敷に派遣させる予定の配下は、人間の言葉を話す事は出来ぬが、聞き取る事は出来る程の知恵は持っておる。お主の事はあやつらにも知らせておくのでな」
「ありがとう……。君に胸の内を聞いてもらえたからかな? とても気持ちが楽になった気がする。今日は本当に色々な意味で君に会えて良かった。それに嬉しかったよ、またいつでもグランに戻ってきてね? 任務が終わった後は、いつも僕は冒険者ギルドに顔を出しているからさ」
それはニーアがパーティリーダーとして、次の依頼をいち早くチェックしているからなのだろう。
パーティのリーダーである以上は、確かにそういった面でも動く事は当たり前の事なのかもしれないが、先程の様子を見ていると、全てをニーアに任せっぱなしで自分達は遊びに行ったり、部屋で寛ごうとしている様子だったのが容易に見て取れた。
ニーアはパーティの為に頑張っているというのに、彼のパーティ仲間達はニーアと話の一つも付き合う真似もせずに、彼に気苦労を重ね続けている。
ソフィ達に別れを告げた後、そのままギルドに向かおうとするニーアのやつれた顔を見て、ソフィは何ともやるせない気持ちを抱くのだった。
「ニーア殿があんな面子と共に居続けようとする気持ちは理解出来ませんが、昔からの憧れが今なのだとすればどうにもなりませんね、ソフィ様……」
「うむ、そうだな……。あやつが今のパーティを抜けたいと考えておるのであれば、いくらでも助けになるのだがな……」
「この世界の人間の方々は、色々と難しい考えを持って生きておられるのですね。見ていて色々と勉強になります」
結局ニーアの後ろ姿が見えなくなるまで、その場から動かずに眺めていたソフィ達だったが、やがてソフィ達はリーネ達の待つセグンスの自分の屋敷へと戻る事にするのだった。
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