2113.ニーアの悩み
ソフィはニーア達と共に屋敷を出た後、再びグランの町の景色を眺めながら歩いていたが、ニーアがこの後も冒険者ギルドに用があると口にした為、そこで彼とも別れる事にするのだった。
「ニーアよ、このまま別れる前に一つだけ良いだろうか?」
別れの挨拶を終えてそのままギルドの方へと向かおうとしていたニーアだったが、ソフィのその言葉に直ぐに足を止めて頷くのだった。
「今お主が悩んでいる事とは、お主がリーダーを務める『紅蓮の魔導』というパーティの事なのだろう?」
「えっ……!?」
すでに露店市場での一件もあり、ニーアが『紅蓮の魔導』に思うところがあるというのはソフィにも気づかれているというのは分かっていたが、その後にも特に言及されなかった為、あえてこの問題に関しては口を出される事はないのだろうなと思い始めていたニーアだった為に、こうして別れ際に切り出された事で思わず想像以上の驚きの声を上げてしまうのだった。
「先程の様子を見るに、お主は高ランク冒険者パーティの常識というものが、我と同じでこれまでよく分かっていなかったのだろう? 実際にパーティを組んでいる内に、お主が考えていたものとは違うと理解をし始めたが、すでにその頃には『紅蓮の魔導』はAランクパーティとしてしっかりとしたモノに出来上がってしまい、今更責任感を人一倍持っているお主が、リーダーの座を務めているという事もあって、とある事を言い出せずにいる状態なのだと我には感じた……のだが、間違ってはおらぬか?」
ソフィの話に耳を傾け続けていたニーアだが、その言葉の途中から俯き始めていて、返事をせずともソフィにはニーアの考えている事が伝わってしまうのだった。
「そうだね。でも勘違いして欲しくないのは、このパーティのメンバー達は何も悪くないんだ。全員が任務の時には、全力を出して達成しようとする気持ちがヒシヒシと伝わってくるし、実際に手を抜く者は一人もいない。僕も実際に何度か助けられているし、逆に助けたりも出来ていると思うし、その時は心を通わせられているなってパーティの仲間たちにも素直に感謝しているんだ。でもね、やっぱりギルドでの任務を済ませると、皆すぐに解散して去って行っちゃうんだ。僕は最初はやっぱりリーダーなんだから、自分から言わなくちゃと思って、任務終わりに皆に反省会をしようと切り出した事があるんだけど……」
これまでも不満そうな表情を浮かべて喋っていたニーアだが、そこから更に彼の表情が沈んだものに変わっていく。
「そう言う反省は失敗だと全員が感じた時にすればいいだろって、無事に任務は達成出来たんだから、何も反省する必要もないし、自分がリーダーだからって勝手な都合で皆の予定を潰すような提案は今後はしないでくれって釘を刺されちゃってね……。それからはもう僕からは何も言えなくて……。でも、今は任務もある程度は上手くいっているけれど、段々と昔よりパーティの連携のようなものが上手く行かなくなっているように感じられて、このままだといつか取り返しのつかないミスが起きるんじゃないかと、少しばかり悩んでいるんだよね。あはは……、こんな事を言っているのをパーティの皆に聞かれたら、また気にしすぎだって怒られちゃいそうだけど」
どうやらこれまで高ランクの冒険者が少ないグランの冒険者ギルドに在籍し、ニーア自身も勲章ランクが他の『紅蓮の魔導』のメンバー達よりも低かったという事もあり、ニーアと他の勲章ランクが高いメンバー達との間で、考え方の相違が顕著に表れてしまっている状態なのだろう。
「ふむ……。どうやら我の想像以上にお主は思い悩んでいたようだな。しかしニーアよ、何故そこまで悩みを抱きながらも、まだパーティリーダーを続けておるのだ? 無理に続けずとも合わぬのと感じたのであれば、お主ならば十分に一人でもやっていけるのではないか?」
ニーアと同じ勲章ランクAに先になっていた『リディア』や『スイレン』、それに後からニーアのように勲章ランクを上げてAになった『リマルカ』もまた、パーティを組まずにソロで活動を続けている。
もしニーアが自分一人でランクAとして冒険者活動が続けられず、パーティに寄生しなければ生活を安定させる事が出来ないというのであれば、それは仕方のない事ではあるが、どうもリマルカと比べても遜色のない程にニーアは『魔力』も高まり、強くなっているようにソフィにも感じられている。
このミールガルド大陸の冒険者の枠組みでは、間違いなく勲章ランクAとしてやっていけるだけの強さにはなっている筈である。
つまり、ニーア自身がこの『紅蓮の魔導』を離れずにリーダーを続けようとするのには、また別の理由があるのだろうとソフィはアタリをつけたのだった。
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