2112.今後についての話
久しぶりに会った露店の『おやじ』や、ニーア達と話で盛り上がるソフィ達であったが、後ろに立ってこれまでじっと話を聞いていたブラストは、丁度会話が途切れたところを見計らい、そっとソフィに『念話』で語りかけるのだった。
(ソフィ様。久しぶりに会われた方々との語らいの最中に申し訳ありませんが、屋敷を出られてから相当の時間が経っております。これ以上は流石にリーネ様達をお待たせするのも如何なものかと……)
(むっ! もうそんなに時間が経っておるのか……。いやはや楽しい時間というのは本当に過ぎるのが早くて困るな……。ブラストよ、よくぞ教えてくれた。リーネ達を喜ばせようと『レグランの実』を求めてきたというのに、待たせすぎて機嫌を損ねさせては意味がないな。ここらで区切りとするとしようか)
(その方が宜しいかと。特に先程の話の様子では、今後はカーネリー殿とはお会いする機会も増えるようですしね、またその時にゆっくりとお話をされては如何でしょうか?)
ソフィはブラストの『念話』の言葉に同意するように頷くと、そのまま『念話』を切るぞという合図を視線で送る。
するとそんなソフィの視線を目聡く見ていた『おやじ』が口を開くのだった。
「どうやらお前さんはこの後にも予定が控えているようだな? そうだと知らずに長く引き留めさせてすまなかった」
そう言って『おやじ』はソフィ達に頭を下げるのだった。
「いや、こちらこそすまぬな。本当はもう少しここで『おやじ』や『ニーア』と話を続けて居たかったのだが、屋敷にリーネ達を待たせておるのだ。今日戻って来たばかりでまだあやつともしっかりと話が出来ておらぬのでな。悪いが続きはまた今度という事に……ん?」
ソフィは最後まで言い終わる前に、目の前に居る『おやじ』や『ニーア』達が信じられないとばかりの表情を浮かべてソフィを見ている事に気づいて、最後まで言葉を言い切る事が出来なかったのだった。
「ば、馬鹿野郎! それを早く言えよ、ソフィ! 久しぶりに会えると楽しみにずっと待ち侘びていたであろう嫁さんを屋敷に待たせたまま、呑気にこんなところで喋ってんじゃねぇ!」
「そ、そうだよ、ソフィ君! きっとリーネちゃんは君が戻って来るのをずっと待っているよ! 早く戻った方が良い!」
「う、うむ……。悪いがまた今度ゆっくりと話そうではないか。今回はお主らと話せて本当に良かった。今度会う時にまた商会の件や、ニーアの行った『魔法』の研鑽の事をじっくり聞かせてくれ」
「ああ、もちろんだ。しかしそうなると、お前さんと直ぐに連絡を取れる手段を考えなくてはならないな。これからは俺もずっとこの屋敷に居るわけにもいかないしな……」
どうやら『おやじ』は自分が露店稼業を辞めた事で、ソフィが自分を訪ねてきた場合に備えてこれまではこの屋敷に居たようだが、こうして無事に会えた事で今後は本格的に勲章ランクを上げるために活動を再開しようと考えているようだった。
「ふむ……。お主さえ良ければ我の配下の魔物を一体、お主との伝令役に付けても良いがな」
「そ、そう言えばお前さんは、かつてこの大陸に攻め込んで来た『魔族』連中を相手に、魔物達を従えて対抗してみせたんだったな……」
それはかつてヴェルマー大陸から、このミールガルド大陸に攻め込んで来たシーマ達の事を言っているのだろう。
「ああ……。まぁ、そういう事だな。間違いなく我の配下の魔物達は、人を襲うような真似はせぬと約束する。お主が良いのであれば、直ぐにお主の元に送らせようと思うが、どうする?」
魔物と聞いて最初は驚いた『おやじ』だが、信用するソフィが人を襲わないのだと告げた事で『おやじ』は直ぐに了承するのだった。
「うむ、それでは後日この屋敷に連れてくるとしよう。もしお主が居なければ……」
そこでソフィはちらりと青年たちの方に視線を向ける。
「わ、我々はずっと屋敷におりますので、その際は責任を以て預からせて頂きます!」
「いつでもお待ちしております!」
徒弟の二人は直ぐにソフィに向けてそう返事をするのだった。
「うむ、ではその時はよろしく頼む」
そう言ってソフィは『おやじ』に挨拶をして、そのまま屋敷を後にするのだった。
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