2110.商人ギルドと露店の店主の過去
「だが、お前さんの力になるのにも、まずこの作ったばかりの商会に実績を作り、地盤を固める必要がある。ひとまずはこのケビン王国領内で商売を行い、商人ギルドで地道に勲章ランクも上げていこうと思っている」
色々と計画を立てている様子の『おやじ』の言葉を聞いたソフィは、ふと昔露店で『おやじ』が言っていた言葉を思い出すのだった。
「しかし『おやじ』よ、商売をする為には『商人ギルド』に所属する必要があり、その為にも勲章ランクを上げる必要性があると昔お主は我に教えてくれた筈だが、すでに『おやじ』は自分の商会を立ち上げられている状況にあるのだろう? では今更わざわざ商人ギルドの『勲章ランク』を上げる必要はないのではないか?」
昔『おやじ』が言っていた『商売をする為には商人ギルドに所属する必要がある』という言葉を思い出したソフィは、自らの商会を持つ為にもある程度の勲章ランクが必要になるという事は、ある程度直ぐに理解に及ぶソフィではあるが すでにギルドを通して商売を行える立場にある上で、商会もこうして立ち上げられているのだから、これ以上に商人ギルドに関して『勲章ランク』を上げる必要性が何処にあるのだろうかと疑問に思い、改めて『おやじ』に訊ねたのだった。
「はははは、それは商人ギルドに所属しておらず、冒険者ギルドに属する冒険者のお前さんからすれば、当然の疑問だろうな。昔お前さんに言った通り、町の中で露店を含めた商売をする為には、商人ギルドに所属する必要があるんだが、露店で売るだけなら別にランクを上げる必要もない。ギルドに加入さえしてしまえば、その町でならいつでも好きな時に好きな場所で商売をしても構わないんだ。だが、商人ギルドにも冒険者ギルドと同じく、ランクに分けて行う事の出来る区分というのが設けられているんだ」
「ほう、なるほど……」
実はソフィは冒険者ギルドの勲章ランクに関しても、ランク区分で行える事が出来る内容をよく理解していなかったのだが、それをここで口にしても話が長くなるだけだとばかりに『おやじ』の話に素直に頷くのだった。
「まぁ、お前さんは商人を目指すわけでもないしな。簡単な説明を行うに留める事にするが、まずさっきも言ったようにギルドに加入さえしてしまえば、その加入したギルドの町で露店で商売を行う事が可能だ。もちろん露店に出す時に申請は必要となるが、売った商品の何割かをギルドに渡す等の必要性もないし、売れたら売れた分だけ利益は本人のものとなる。だからこの町の露店市場は、いつでも露店を出す商売人で溢れかえっているわけだ」
「ふむ……。露店を出すにあたっての手数料などもないのか?」
「ああ、別に手数料なんかも出す必要はない。だが、何を売るつもりなのかとか、どういった商品をどれだけ売るつもりなのかというのはしっかりと明記する必要がある。まぁ、何か犯罪が起きた時に許可を出していた商人ギルドが、実は何も知らなかったでは済まされないからそれは当然だわな」
「確かにその通りだな」
「あ、もちろん今話している手数料の問題なんかは、ケビン王国領の商人ギルドに限る話だから、ルードリヒ領内はまた違うという事は覚えておいてくれよ? まぁ別にグランの町やこの辺の町で登録したばかりの最低ランクのかけだし商人には関係ない話なんだがよ、もう少しランクが高くなってくると、登録したギルドがある町だけではなく、遠征を行いながら遠征先の町で商売を行う事も可能になるんだ。そこでもしケビン王国領から、ルードリヒ王国領の国境を越えるような事にでもなれば、さっき言ったような取り決めとは別の問題が生じてくる。だから手数料などの諸々を含めて注意が必要となってくるわけだ」
「まぁ、それも国が変われば当然と言えば当然だな」
「ああ、その通りだ。それで話を戻すが、遠征を行う事を許可される程度の勲章ランク帯になってくると、今度は扱う商品にもその勲章ランクが関わってくる事になるんだ。駆け出しのGランク商人ぐらいなら、別に届け出さえしっかりしてしまえば、町の中で売るのは自由と言えるんだが、国境を渡るようなベテランクラスになってくると、当然にそこら辺をしっかりと管理しておかなきゃ、どこもかしこも犯罪の温床になっちまうからな」
「それで勲章ランクを上げる必要性があるというわけなのだな」
「そうだ。ざっくり言ってしまえば、遠征の際の扱う商品の種類と数に対して勲章ランクの高さが関係してくると思ってくれていい。ああ、それと俺がしたみたいに商会を立ち上げるのも勲章ランクがある程度高い必要性があるわけだ。商人ギルドに登録している以上は、これもケビン王国領の商人ギルドに周知させる必要性があるわけだな」
納得がしやすい内容の話ばかりである為、ソフィも初めて説明された事に関しても楽に頭に入れる事が出来たのだった。
「ふむ、それでお主はどれ程の勲章ランクなのだ?」
当然にさっきの話と照らし合わせれば、商会を立ち上げられる程の勲章ランクである為、目の前の『おやじ』がGやFランクではないという事は直ぐに分かったソフィだが、実際に『おやじ』がどれ程のランクなのかがソフィは気になったのであった。
「ああ、そういえばそんな事すら、お前さんには言ってなかったっけ。俺は十数年前の時点で勲章ランクBだったんだ。これでも一応はケビン王国領内の商人ギルドでは有名どころだったんだぜ?」
ソフィは『おやじ』の勲章ランクがBと聞いて、流石にFやEではないだろうとは思っていたが、それでも想像よりも高い勲章ランクであった為に素直に驚くのだった。
「それは……。冒険者ギルドと同じように、商人ギルドも一番上がAなのだろうか?」
「ああ、その通りだ。それももう少しでAに上がれるところまで行っていたんだがな。ちっとばかし遠征中に魔物に襲われて焦ってヘマをやらかしちまってな。結局依頼も失敗して多額の違約料も支払わされて、俺自身も大怪我を負っちまって、何もかも失ってそのまま引退同然のまま、この町に流れ着いたってわけさ。まぁ、それでも生きていく為には食い扶持分くらいは稼がなきゃならねぇしな。でも昔みたいにバリバリやろうって気が起きなくてよ、長年腐ってたところだったんだ」
過去に絶望していた自分を思い出したのだろう。そう話す『おやじ』の目がこれまで見たことがないような憂いを帯びたモノに変わっていたのだった。
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