2106.グランの冒険者ギルドの実状
ディラックと話を終えて別れた後、キャリーと呼ばれていた女性職員に教えてもらった二階の職員用の出口から外へ出たソフィ達は、そのまま冒険者ギルドを後にするのだった。
「久しぶりにソフィ君と会えて相当に嬉しかったんだろうね。あんなに元気そうにしているギルド長は久しぶりに見たよ」
「ふむ? 確かに笑顔も多く見られたが、我がこのギルドに居た頃は、いつもあんな感じだったように思うがな……」
「最近はここも一気に人が増えたからね。人が増えれば当然色々と問題も増えるし、それに対応する職員も他の町と比べるとまだ全然少ないんだ。それにまだ副ギルド長も居ない状況だから、ひとたび問題が起きればディラックギルド長が直接対応に出なければならない。表面上は元気そうに見えるだろうけど、精神的には相当に疲弊しきっているんじゃないかな」
人が増える以前からこの『グラン』の冒険者ギルドに所属していたニーアは、過去と現在の状況を正確に理解している。そんな彼が今のような事を口にするという事は、実際にディラックは相当に大変な状況なのだろう。
「確かに昔に比べて冒険者は多くなったが、ギルドの職員達はあまり増えておる様子ではなかったな。そう言えば前に我がここに来た時、入ったばかりだという新人が居たが今日はそやつの顔はなかったな。やはりもう辞めてしまったのだろうか」
ソフィが言っている新人のギルド職員は、ソフィに会えていなければもう辞めようと思っていると口にしていた。もしかするとソフィに会えた事で満足してしまい、そのまま辞めてしまったのかもしれなかった。
「どうだろう……。確かにここ最近はギルド職員も入れ替わりが激しくて、新しい人が居るなと思っても結局は直ぐに居なくなっているように思う。結局定着しているのは、対抗戦以前からここで働いている人達ばっかりだと思うよ」
ニーアの言葉を聞いたソフィは、少し前にディラックに話をした事を思い出すのだった。
(ふむ……。あの頃は確かに人が一気に増えた事でディラックも浮き足だっていた。あの新人の職員が辞めようとしていたのを見て、我も色々とディラックに忠告したように思うが、あまり意味を為さなかったのかもしれぬな。しかし今日のディラックは普段通りに見えておったし、もしかすると今回ばかりはディラックが原因だというわけではなく、そもそもが人手不足が問題なのかもしれぬな。そもそもが他の町と比べて冒険者が少ない町のギルドだったのだから、現在の冒険者の増加の規模を考えれば、明らかに職員が少なすぎるのだろうな。今度来た時はその辺の話をディラックとした方が良さそうだ)
「さて、それじゃ今度はソフィ君の言っていた『おやじ』さんの商会の場所を案内しようか」
ソフィがグランの冒険者ギルドの事を考えていると、ニーアは当初の予定通りに露店の『おやじ』が居る場所へ案内すると口にしてくれたのだった。
「おお、そうであったな。しかし今更だが、お主も忙しいだろうに良いのか?」
「構わないよ、さっきも言ったと思うけど、任務以外では大抵宿で横になっているか、買い出しに出るくらいしかやることがないからね。それに今回は大きな仕事の後だから当面は暇なんだ。ソフィ君と一緒に居た方が気分転換にもなって逆にありがたいくらいだよ」
そう言って笑うニーアを見たソフィは、本心からそう言っているのだろうと感じた為に素直に頷く事にしたのだった。
「お主らも構わぬか? もしあれだったら先に屋敷に戻っていても良いのだぞ? もうリーネ達も話は済んでいるであろう……っ」
「いえいえ! 俺は最後まで付き合いますよ! 気になさらないで下さい!」
「う、うむ、そ、そうか……。六阿狐も構わぬか?」
ブラストに食い気味についてくると言われたソフィは引き気味に頷き、そして同じ事を六阿狐にも尋ねるのだった。
「もちろんです! ソフィさんが居るところが私の居場所ですから! 私の事も気になさらないで下さい!」
「ふふっ、流石は六阿狐殿だな。ささ、それではソフィ様のお知り合いの方の元へ参るとしましょう!」
「分かった。それではニーアよ、案内の方をよろしく頼む」
「任せてよ」
ソフィとブラスト達が行うやり取りを温かい目で見守っていたニーアは、改めてにこりと笑って返事をするのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!