2100.知られざる高ランクパーティの常識
「えっ!? い、いや、全くソフィくんのせいじゃないよ! 実はこれはいつもの事なんだ。僕ら『紅蓮の魔導』は任務の時は一緒に行動するけど、仕事が終わればそれぞれ別行動でね。ま、まぁ僕も最初は戸惑っていたんだけど、他の町の冒険者ギルドでは高ランクになってくると、こういうのが当たり前で常識なんだってさ……」
「そういうものなのか……? 我もこの町で初めて冒険者となった身であるし、その後は直ぐにヴェルマー大陸に渡ったものだから今まで知らなかったが、これが高ランク冒険者の常識なのだとすれば何とも寂しい話だな……」
「だよね。僕も今でもソフィ君と同じ気持ちだよ。今ではこの町の冒険者ギルドも有名になって、高ランク冒険者がいっぱい増えたけど、あの対抗戦が行われる以前までは田舎の弱小ギルドだったから、勲章ランクがAのパーティなんて全く身近になかったしね」
そのニーアの言葉にソフィは、かつてディラックに指名依頼を受ける以前のこの町のギルドの状況を思い出すのだった。
あの頃はグランの冒険者ギルドで『ギルド対抗戦』に参加出来る冒険者は、せいぜいが勲章ランクCの者達だけであり、その勲章ランクCも目の前に居るニーアぐらいのもので他は、Dランクの『ディーダ』や『ルドマン』がギルドに属する者の中では主流の冒険者だった。
他にも一応はDランクと遜色のない実力者の『両斧のジャック』という冒険者も居たが、結局はあの時にソフィが完膚なきまでに叩きのめしてしまった為に、それ以降はグランの町で活動をしているという話をソフィは一切聞かなかった。
それだけ過去の『グラン』の町の冒険者ギルドは、高ランク冒険者が不足していたという話である。
そもそもディラックが指名依頼でソフィを『対抗戦』のメンバーに選ばなければ、今でもこの町の冒険者ギルドは高ランク冒険者の在籍が無縁の弱小ギルドのままであっただろう。
その頃と比べれば確かにギルド側の意見としては今の方が良いと言えるのだろうが、どうにもソフィは今のニーアが辛そうに見えて仕方がなかった。
「ご、ごめんね? 久しぶりに再会出来たっていうのに、こんな湿っぽい話をしてしまって……! そ、それよりソフィ君の隣に居る方々の紹介をして欲しいな! さっきリルド達と揉めていたようだけど、そこの背の高いお兄さんは凄い『魔力』を持っているよね!」
「あ、ああ……。こやつはブラストと言ってな、我が元々居た大陸の古くからの仲間なのだ」
「ブラストと言います。どうやら貴方はソフィ様と非常に親しい間柄のようですな。どうか一つ、よろしくお願いします」
「こ、これはご丁寧に……。僕はニーアと言います。よろしくお願いします」
ブラストとニーアが挨拶を行っている間に、ソフィは静かに六阿狐の方によって小声で話し掛ける。
(六阿狐よ、出来ればお主が別世界から来たという事はニーアには黙っていて欲しい。実はニーアには我が別世界から来たという事も伝えておらぬのだ)
(わ、分かりました! し、しかし何てお伝えすれば良いでしょうか……。見た目は限りなく人間に近いですが、私は妖狐なので……)
(それは大丈夫だ。この世界には妖魔の代わりに魔物が存在する。そしてすでにニーアは我が魔物を配下にしているという事を知っておる。お主には悪いが、ニーアの前でだけは我が配下にした魔物という事にしてもらえぬか?)
(は、はい! まものですね……!)
ソフィと六阿狐が小声で話し合っていると、どうやらブラストとの挨拶を終えた様子のニーアが、いつの間にかじっとそんなソフィ達が会話をしているのを見ていたのだった。
「むっ、ニーアよ、こやつは六阿狐だ。実は人型を取っていて、人の言葉も分かるのだが、実はベアと同じ魔物の存在なのだ、縁が有って今は大事な仲間となったのだがな」
「六阿狐です。よろしくお願いします、ニーアさん!」
「なるほど。さっきから耳が長いなぁって思っていたんだけど、道理で……。あ、ニーアです。六阿狐さん、よろしくお願いします」
ニーア達の自己紹介を終えた後、ソフィ達はその場から離れてゆっくりと話が出来そうな場所を見てまわる事にするのだった。
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