2098.グランの町のAランクパーティ
「おい! いったい、何の騒ぎだ!」
先程、冒険者ギルドから出てきた数人の冒険者達がソフィ達の居る露店まで辿り着くと、一段と周りがざわつき始めるのだった。
「お、おい、あいつらはAランク冒険者が三人も所属する『紅蓮の魔導』だぞっ!」
「きゃー! リルド様よ! 今日もかっこいい!」
「エレナちゃんだ……! へへっ、相変わらず背が小さくて可愛いな。少しでいいから、こっちを見て手を振ってくれねぇかな」
どうやら騒ぎを聞きつけてここにやってきた冒険者たちは、この町では相当に有名な冒険者パーティのようであった。
この場に居た野次馬達は、もう誰もブラストや露店主の方を見ておらず、現れた『紅蓮の魔導』と呼ばれていた冒険者パーティの話ばかりで盛り上がっていた。
(ほう……。我が居た頃とは違って、この町の冒険者ギルドにもAランク冒険者が多く集まっているようだな!)
かつてはこの町の冒険者ギルドに在籍し、優勝候補であったサシスのAランク冒険者の『リディア』を倒して『破壊神』という異名を手にしたソフィは、あの頃は無名のいち冒険者ギルドだった『グラン』に三人もAランク冒険者が集まっていると聞いて嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
「どうやら君が騒ぎを起こした張本人のようだな! なるほど、露店主がここまで怯えているところをみるに、脅して売り上げ金でも巻き上げようとしていたといったところかな?」
先程野次馬の一人が『リルド』と呼んでいた金髪で顔が中々に整っている杖を持った若い魔法使いが、ブラストの方を見ながら勝手な事を口にし始めるのだった。
「何を憶測でふざけた事を言っていやがる。俺は別にコイツを脅してなんかいない。勝手に話しかけてきて、勝手に驚きながら倒れて怯えやがっただけだ」
「暴れる奴らはだいたいがそういう事を言うんだ。さぁ、今ならまだ悪いようにはしない、奪ったものがあるなら直ぐに露店主に返して謝罪を行え!」
「だから俺は何もやってねぇし、物を取ったりもしていない! あんまりいい加減な事ばっかり言っていやがると今すぐにでもてめぇらを消し炭に変えるぞ……」
『九大魔王』の中でも残忍な性格で有名な大魔王ブラストは、これまではソフィの前だからというのもあって必死に暴れるのを堪えていたが、流石に憶測で物を言われた挙句に、公衆の面前で一方的に謝罪しろと要求されて我慢の限界が訪れ始めている様子であった。
「ほう? どうやら俺たちの事を知らないようだが、相当の田舎から最近になって出てきたってところか? 少し身の程を分からせてやった方がいいみたいだな」
「はぁっ、全く……。疲れる遠征の任務を終えて、ようやく報告も終わってゆっくり休めると思っていたのに、面倒くさいわねぇ」
先程エレナと呼ばれていたこちらも『魔法使い』の恰好をしている女性が、大きく溜息を吐くと同時に強く杖を握りしめ始めるのだった。
どうやらこのエレナもまた、先程のブラストの言葉を全く信じてはいないようであり、暴れる前に捕まえてギルドにでも突き出そうと考えている様子であった。
この両者以外の他の『紅蓮の魔導』のパーティの人間達も全く止めようとする素振りを見せず、むしろニタニタと笑っていてこの状況を楽しんでいるみたいだった。
ソフィは仕方ないとばかりに溜息を吐いて、この場を収めようと口を開きかけた。
――その瞬間であった。
「リルド、エレナ! 君達は町の中で一体何をしようとしているんだ! 早く杖を下ろしなさい!」
そう声を掛けてきたのは、ブラスト達がこの冒険者達が揉め始めてからようやくギルドから出てきた男であった。
どうやらその男もこの『紅蓮の魔導』パーティのようだが、金髪の男の魔法使いや、背が少し小さなエレナと呼ばれていた女性とは異なり、この場で起きようとしている喧嘩を止めようとするのだった。
「む、お主は……、ニーアなのか!?」
そしてソフィがその仲裁に現れた男の顔を見たと同時、思わず驚きの声を上げてしまうのであった。
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