2094.リーネの存在感
ヒノエがソフィの何処に興味を抱き、そしてこの世界へと来る事になったのかの経緯をリーネが尋ねると、ヒノエの口からソフィと出会った時の印象から、コウヒョウの町でのデートの一件を通して感じた事、そして何気なく交わした約束をソフィが妖魔山で守ってくれた事などが語られるのだった。
それは言葉で言い表せば、ほんの少しの時間で言い終わってしまう内容ではあったが、そのどの話を切り出す時にもヒノエは本当に嬉しそうに口にしていて、如何にソフィと接していた時間を大事にしていたのかがリーネにも伝わってくる程であった。
「――という経緯があって、最終的に私は自分の直感を信じて、ソフィ殿と共に同じ場所で生きて行きたいと考えてこの世界に来たってわけです」
最後まで話終えたヒノエだが、その顔は途中まで楽しそうに語ってくれていた時とは異なり、とても寂し気なモノへと変わったのを感じ、その理由を鋭敏にリーネは理解したのであった。
(ああ……。この人が私に対してあんな風に楽しそうに説明を行ったのは、私に対して挑戦的な意味を込めたわけではなく、他でもない私ならソフィと一緒に居る時に感じる事の出来る『掛け替えのない幸せな時間』を共感してくれるだろうと考えて、誤魔化すことなくヒノエさんの本当の気持ちを私に知らせてくれたという事ね。そして彼女が話し終えるまで楽しそうにしていたその表情を最後になって寂しいモノに変えたのは、自分でその夢の時間の幕を下ろそうと決心しているから……)
そこまで考えたリーネは、沸々と先程まで抱いていたある感情が、再び自分の胸の内にこみ上げてくるのを自覚し始めるのだった。
「私と同じようにソフィ殿を愛して、そして共に生きていく事を決めたリーネ殿なら、私が『ノックス』でソフィ殿と居た時に感じていた気持ちを理解してくれる筈だ。こうしてこの世界に来て、直接貴方がソフィ殿と再会をした時、貴方とソフィ殿が抱き合う時のお互いの目を見て、そしてこうして直接貴方と話を行い、自分の気持ちを改めて言葉にして他でもない同じ気持ちを共感出来る貴方に伝えられた事で、わ、私は非常に満足を……」
――非常に満足した。やっぱりソフィ殿が選んだ御人は私の思った通りで安心した。
こう最後に繋げようとしていたヒノエだったが、先程思い返したせいで、数あるソフィと共に居た時の思い出がそのまま胸の内に残ってしまっていたのだろう。
そのせいで中々最後の一言が口から出す事が出来ず、喉がカラカラになっている事に気づくヒノエだった。
「本当に満足なの?」
「……え?」
「ヒノエさん。貴方、無理やりに自分の気持ちを押し殺して、私の為にソフィを諦めようとしているわよね?」
「い、いや……、そんなつもりは……。た、確かにソフィ殿と共に居たいと思うのは真の事だが、べ、別に仲間として一緒に居る事が出来れば、それで私は……」
「もう一度聞くわね? それで貴方は本当に満足なの?」
再び同じ質問を行うリーネに、今度はヒノエも目を逸らす事をせずにしっかりと合わせたのだが……。
流石に本音で語ろうとするリーネと、本音を言えずに気持ちを押し殺そうとするヒノエとでは、その覚悟の度合いが違い過ぎたようで、再びヒノエは視線を逸らそうとし始める。
しかしヒノエが視線を外そうとした時、リーネが再び口を開いた。
「全てを投げ打ってこの世界に来れるだけの覚悟がある貴方なら、確かに自分の気持ちから目を逸らしてここでも生きていけるかもしれない。でもさ、それが本当の幸せだとは私には思えないし、いつまで経ってもなれないと思う。貴方がここに来た時からずっと私に視線を向けていたのは、私がソフィに相応しいかどうかを確かめようとしていたんでしょう? そしてその事には結局何も触れずにさっきみたいな言葉を口にしたっていう事は、きっと私は貴方のお眼鏡に叶ったって事なんだよね? でもだからといって、貴方が本音を隠したまま身を引こうとするのをやっぱり私は黙って見ていられない。ソフィには言わなくてもいい。だけど、私にだけは本当の貴方の気持ちを教えてくれないかしら?」
どうやらリーネはヒノエの気持ちを考えた上で、しっかりとヒノエの口から本音を聞き出そうとしているのだろう。
口早に告げたリーネの眼差しは、優しくもあり厳しくもあった。
ヒノエは自分より遥かに年下の少女にしか見えないリーネが、自分なんかよりもずっと現実を見ていて、大人びているように感じたのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




