2093.リーネとヒノエの自己紹介
「では、改めてお互いの自己紹介から始めましょうか」
「ああ、そうしましょうか。まずはお互い自分の口から名乗るのが礼儀ですしね」
いつまでもピリピリとした空気の中で、このまま無言で居るわけにもいかないというのは互いに分かっている為、お互いまずは自分の口から自己紹介を始める事にするのだった。
「まず、私の名はヒノエ。元々は『ノックス』の世界で妖魔退魔師組織に属していて、そこで戦闘隊の組長を務めていた」
「妖魔……、退魔師?」
「ああ、そうか。そう言えばこの世界では、妖魔というのは存在しないとソフィ殿も言っていたっけか。えっと、こちらの世界では確か『魔物』というのが居るんでしたっけ」
「え、ええ。確かに魔物はこの世界にも居るけど、その口振りではそちらの世界では魔物は居ないという事かしら?」
当然『ノックス』の世界の常識が分かるわけもなく、リーネはヒノエの先程の戦闘隊という言葉から、どうやら『ノックス』の世界では『魔物』の代わりとなる存在が居て、その代わりの存在から身を守る為の討伐を行う組織に入っていたのだろうとアタリを付けた様子であった。
「ああ、その通りだ……です。私らの世界では『妖魔』というのが居て、かつては人里を攻め滅ぼそうと、山から徒党を組んだ妖魔達が町中を暴れまわっていた時代もありましてね。そこで人里を守るために、私ら人間達が立ち上がって里を守る為に結成されたのが『妖魔退魔師』っていう組織なんです。他にも『妖魔召士』っていう妖魔退魔師と同じように、妖魔から人里の人々を守る組織も別にあるんですが、私はそちらではなく妖魔退魔師組織に属していました」
「なるほど。貴方は先程組長って言っていましたけど、つまりはその妖魔退魔師組織の中で、一番偉い御人だったというわけでしょうか……?」
「あ、いえいえ! 妖魔退魔師組織には三つの『組』というのがありまして、もちろんその組の中の一つである『一組』では私が一番偉い立場だったんですけど、私より上の立場の人がちゃんと居てまして、三つの『組』を束ねる組長の上に、副総長の立場の人間と、組織全体を束ねる総長が居ました。組織全体で言えば『最高幹部』の座辺りですかね。ま、もうこの世界に来る事が決まってからは、当然に妖魔退魔師組織も抜けちまったんですがね」
(妖魔退魔師組織っていうのが、まだノックスの世界でどれ程の規模の組織なのかは分からないけれど、妖魔っていうのから身を守る組織の中で『総長』『副総長』を除けば、少なくとも三番目に偉いっていう事よね……。何でそんな偉い人をソフィは連れてくるのよ! というよりそんな人を連れてきてしまって、残された『組』の人達は大丈夫なのかしら……?)
リーネは想像していたよりもヒノエが、とんでもない立場の人間だった事に驚きを隠し切れずに色々と考えが深まっていくのだった。
ヒノエは自己紹介を終えた後にじっとリーネの方を見ていたが、何やらそのリーネは考え事を始めた様子で、自分の視線にすら気づいていない様子であった為に、このまま見ているかそれとも促した方がいいのかでこちらも悩み始めていた。
「あの……」
「え? あっ! ご、ごめんなさい。では次は私の番ですね……」
「は、はい。よろしくお願いします」
結局はいつまでも思考の海に潜ったままで、戻ってこなさそうだったリーネに、ヒノエは声を掛けて促すのだった。
「私の名前はリーネです。もう貴方も知っての通りだとは思いますが、ソフィの妻です」
こちらはヒノエのように深く説明する事もなく、あっさりと自己紹介を終えるのだった。
しかしヒノエはあっさりと自己紹介を終えたリーネにも、しっかりと頷いて見せた。
「ええっと、それじゃ改めてお聞きしますけど、どうやってヒノエさんはソフィと知り合い、こ、こうしてここに来る事となったのかの経緯を教えてもらってもいいですか?」
いつの間にかリーネは庭での勢いも失ってしまい、自己紹介を終えた今ではすっかりと普段通りに戻ってしまうのだった。
…………
ヒノエはリーネの質問に目を閉じ始める。
どうやらそれはソフィとの過去を思い返しているようだった。
やがて目を開けたヒノエの口から、ソフィと出会った頃の事から順々に包み隠さずに語られていくのであった。
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