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2086.サイヨウが式にしている妖魔と、シギンの心境

 ラルグの塔でレルバノンと再会の挨拶を果たした後、ソフィはディアトロスやサイヨウ達と『ノックス』の世界であった話や、この『リラリオ』の世界であった話を互いの耳に入れて情報を共有し合うのであった。


 そして話題はサイヨウが現在面倒を見ている『リディア』や『ラルフ』の話となり、これまで無言で黙って話を聞いていた彼らもまた、真剣な面持ちになって背筋を正し始めるのだった。


「リディア殿は元々エルシス殿に『力』のコントロール法を学んでおったようなのでな、小生の元ではどちらかと言えば剣士としての腕前を伸ばす方向というよりは、小生達『妖魔召士』が使う『()()』を学ばせる方面で研鑽を積ませる事にしたのだ」


「ほう……? 前回の鬼人族との試合を見たのが最後だったように記憶しておるから、それはまた予想外だったな……」


 ソフィがそう告げると、サイヨウは得意気に笑みを浮かべるのだった。


「実際に今のこやつと手合わせを行えば分かる事だが、戦い方を見てもきっと予想外だと思えるだろう」


「ふむ、そんな話を聞かされては、気になるではないか……!」


 サイヨウとソフィが笑みを浮かべ合っていると、自分の話をされていたリディアが口を開くのだった。


「俺なんざまだまだだ。今の力量で偉ぶれるとは少しも思っていない」


 ソフィは今のリディアの言葉を聞いて、少し前まで自信に満ち溢れていた彼と少し別人のように感じられたのだった。


「お主も少し変わったか? やけに謙遜するようになったではないか」


「ふんっ、どうだろうな……」


 ソフィの言葉に少し不貞腐れるような態度を取り始めたリディアだったが、それを見ていたラルフが口を開いた。


「彼は毎日サイヨウさんの『式』にボコボコにやられていますからね。それは口が裂けても強くなったとは自分では言えないでしょう」


「おい、ラルフ。コイツの前で余計な事は言うな! お前だってサイヨウの『式』の妖狐に毎日惨めにやられているだろうがっ!」


「……お言葉ですが、貴方程に惨めにやられているつもりはありませんよ? 貴方は『紅羽(くれは)』さんとの戦いの中、翠虎明保能(すいこあけぼの)を持ち出されたら、逃げ腰一辺倒ではないですか。また最初の実戦時みたく、怯えて戦意を喪失するのではないかとヒヤヒヤしていましたよ」


「何だと……? お前こそまぐれであの妖狐に一度勝ったきり、一度も勝てていないだろうが。木刀を握る『紅羽』といい勝負が出来ている俺の方が、お前よりは何十倍もマシだろうが」


 話を聞いているソフィ達をそっちのけで、リディアとラルフは突然に言い争いを始めるのだった。


 どうやらこの二人はサイヨウの元で修行を始めるようになってから、相当に仲が良くなったらしい。


「クックック、仲がいい事は良い事だな……ん? どうかしたか、シギン殿……と、ヒノエ殿や六阿狐殿もか?」


 ソフィの隣でサイヨウ達の話を聞いていた面々が、いつの間にか難しい顔をしているのに気づいたソフィがそう言って訊ねるのだった。


「いえ……。もちろん『紅羽(くれは)』殿の名が出た事にも驚いたのですが、私はどちらかと言えば『紅羽』殿と同じく『式』にされているという妖狐の方が気になりまして……」


「六阿狐殿は妖狐だからそっちが気になるのも当然か。私ら人里で生活していた者達にとっては、やはり『紅羽』の方がどうにも気になっちまうのは仕方ねぇ事だな……」


 どうやら六阿狐とヒノエは、サイヨウが『式』にしている妖魔達の存在と名が出た事で表情を変えたようであった。


 そこでようやくソフィもサイヨウが『式』にしている鬼人族が、ノックスの世界で耳にした『妖魔団の乱』の関係者だったと思い出したのだった。


 そしてソフィは『紅羽』と『妖魔団の乱』の内容を思い返した後、そのサイヨウの『式』の事でこの世界にやって来た筈の『シギン』に視線を移したが、どうやら鬼人の『紅羽』に対しては、そこまでの興味があったわけではないようで、ヒノエや六阿狐達のような驚きは見受けられなかった。


 しかしそのまま注意深く見ていたソフィは、シギンが先程までとは明らかに異なる目をしている事に気づくのだった。


 その事に気づいたソフィは、ようやくシギンがサイヨウの『式』の話題になっても、全く何も言わずに黙っている意味を理解する。


 シギンは『紅羽(くれは)』や『朱火(あけび)』ではなく、煌阿(こうあ)と同じ例の『(ぬえ)』の話をサイヨウと直接二人で話をしたいと考えているのだろう。


 だからこそソフィは、本来であればこのままこの話題を続けて『リディア』や『ラルフ』がサイヨウの元でどれだけ強くなったかの話を聞こうと考えていたが、それをあえて止める事にして話題を切り替えようとばかりに視線をレルバノンの方へと向けるのであった。


 そしてレルバノンの方も直ぐにそんなソフィの視線に気づき、意図を察した様子で他の者には気づかない程度に、首を小さく縦に振ってソフィに向けて頷くのだった。


 そのままレルバノンは部屋の入り口に立っている部下に視線を送ると、部下の方も恭しく主に頭を下げるのだった。


「皆さん歓談中に申し訳ありません。どうやら皆様の部屋の準備が整ったようです。この後に食事のご用意もさせておりまして、ここら辺で一度部屋のご確認も兼ねてお開きにさせて頂きたいと考えているのですが、如何でしょう?」


「ふむ、ではそろそろ我も自分の屋敷に戻らせてもらおう。ラルフにリディアよ、また我はここに戻って来る。その時にまた改めて話をしようではないか」


「分かりました、リーネさんによろしくお伝え下さい」


「お前が忙しい身なのは分かっている。当面は俺もサイヨウ達と共にここに世話になる予定だ。また落ち着いたらゆっくり話をするとしよう」


 そう言ってラルフとリディアは空気を読んで、ソフィを最愛の妻の元に送り届けるような発言をしてくれたのだった。


「うむ。それではお主達も済まぬな」


「いえ、気にしないで下さい。ブラストの馬鹿にもよろしく言っておいて下さい」


「クックック、分かった。お主がブラストと会いたがっていたと伝えておいてやろう」


「お、親分……!?」


 ソフィの言葉と慌てるようなイリーガルの表情を見て、九大魔王や他の面々も笑い始めるのだった。


 そして改めて挨拶を済ませた後、ソフィが当初の予定通りにヒノエと六阿狐と共に、セグンスにある自分の屋敷へ『高等移動呪文(アポイント)』で転移を行おうとした時、事の成り行きを見守っていたシギンが、ゆっくりとソフィの元に近づくのだった。


(さっきレルバノン殿にお主が目配せをしているのは気づいていた。すまぬな、ソフィ殿。私がサイヨウと直接二人で話をしやすいようにしてくれたのだろう?)


(お主がこの世界に来た理由は知っておるからな。皆が居る前では色々と喋りずらいだろう。後はサイヨウとゆっくり話をするがよい)


 こそこそとソフィとシギンは小声で会話をするのだった。


(恩に着る。サイヨウから『真鵺(しんぬえ)』の現状を聞いた後は、お主にもしっかりと伝えるとしよう)


(ふむ……。我は『真鵺』とやらの事は良くは知らぬが、サイヨウの『式』について知っておくのも悪くはない。改めて聞かせて欲しい)


(承知した……)


 そして話を終えた後、シギンは直ぐにソフィの元から離れて行った。


「では先に失礼する。ヌー次第ではあるが、時間が許せばまた直ぐに戻って来るとしよう。それではな」


 そう言って改めてこの場に居る者達に挨拶を行うと、そのままソフィはヒノエと六阿狐を連れてこの場から去って行くのであった。


 ……

 ……

 ……

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