2080.焦燥感とは異なる気持ちの変化
「さて、それでは我達も行こうと思うが、お主らも準備は良いか?」
ヌーが飛び去って行く姿を見届けたソフィは、後ろを振り返ってこの場に居る者達にそう告げるのだった。
「そ、その前にソフィさん、出来ればその……。私達にはその突然にお姿が変わられた理由をお話して頂きたいのですが……」
「あ、ああ……六阿狐殿の言う通りだ。さっきまでソフィ殿の故郷の世界に居た時まではいつもの姿だったというのに、移動してここに辿り着いた瞬間に突然にソフィ殿が子供の姿になっていて、一瞬私の頭がおかしくなっちまったのかと思っちまった……。さっきのヌー殿たちの口振りで、ここに移動を行う間に何かがあったという事は分かるが、出来れば触りだけでも何があったのかをしっかりと教えてもらえると助かるんだが……!」
六阿狐とヒノエは突然にソフィの姿が変わった事に疑問を抱き、その両者の言葉に他の面々も同じ事を考えていた様子であり、この場で説明を求める彼女達に反対する声は上がらなかった。
「ふむ……。確かに説明は必要か。本当ならお主らを送り届ける為の移動を行った後に一段落してからゆっくりと説明をしたかったところなのだがな。だが、よくよく考えてみれば、お主らの紹介などを『リラリオ』の者達にする事を考えれば、先にこの場で話を整理しておく方がややこしくならなくて良いのかもしれぬな」
先に説明を行うと口にしたソフィに、説明を求めた六阿狐とヒノエ以外の九大魔王の面々たちも頷いていた。
どうやら先程から口には出してはいなかったが、突然にソフィの容姿が変わった事には疑問を抱き、とても気になっていたようである。
そしてソフィの口から『次元の狭間』で起きた事の説明が行われると、最初はソフィの容姿が変わった事だけに疑問と興味を抱いていた六阿狐やヒノエ達も、起きた事の大きさに絶句させられたのだった。
「そ、そんな事が目の前であったってのに、私らは一切気づけなかったってのかよ……!」
そのヒノエの言葉に、彼女と同じ気持ちを抱いた九大魔王を含めた面々も悔しそうな表情を浮かべていた。
ここに居る者達の大半が、ノックスやアレルバレルの世界では一角の実力者達であり、どんな相手であろうと臆することなく戦える覚悟を持っている者達なのである。そんな者達が、意識がない中でそのような大事があったのだと知らされて何とも思わない筈がなかった。
ハッキリと言ってしまえば、意識がないまま彼らは殺されていた可能性もあったのだ。あくまでソフィの話にあった『変化の魔神』の目的が『超越者』であるソフィ一点に絞られていたからこそ、エイネ達は何事もなくこの世界に辿り着けているが、魔神の気分一つで自分達の命が握られていたと知って、平然としてはいられなかったようである。
特にソフィの魔王軍にして、ソフィを常に守ろうと考えている『九大魔王』達にとっては、次元の狭間で意識を保つ事が出来ない事が仕方のない事なのだとしても、納得は出来ない様子であった。
そしてリーシャにしても、イリーガルにしても、そしてエイネにとっても『このままではいけない』と危機感を改めて感じて、これまでより一層強くなろうと、今回改めて胸中で決意を固めていたのだった。
「あの場所では意識を保つ事は容易ではない。戦力値や魔力値をどれだけ高めようとも、どうにもならぬ事なのだからな。我とて最近になってようやく、意識をしっかりと保ちながら動く事を可能としたのだ。それに心配せずとも現れた魔神は、我を害そうというつもりではなく、あくまで保険のつもりで我に目印を付けたようなのだ。この子供の姿となるのがその目印というわけなのだそうだが、あくまでこの世界に居る間だけのモノだしな。それに元々『リラリオ』の世界では、この姿でずっと居続けてきたというのもあるからな。むしろこの世界の知り合いと会う時に元の姿で会う事の方が、違和感を与えていたかもしれぬ。クックック! まぁ本来の姿で会って、あやつらの反応を見るというのも、それはそれで一興ではあったかもしれぬがな」
魔神の都合で子供の姿に変えられたというのに、その事については何とも思っていない様子で楽しそうに笑い始めるソフィを見て、悔しい気持ちを抱いていた面々は、何処か自分達の気持ちが変化していく様子を感じ取るのだった。
各々受け取り方に僅かな違いは生じてはいるが、共通する物としてはやはり『このままではいけない』と、新たに歩みを進める為の一歩を踏み出そうという意思を持ち始めたようである。
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