2079.ソフィの忠告と、念押しの言葉
ヌーからとんでもない言葉を聞かされたソフィだったが、流石に冗談だろうと判断してそれ以上は話を広げるでもなく、帰ってきたリラリオの世界の風景を眺め始めるのだった。
今ソフィ達が居る場所は海辺の砂浜であり、辺りは見渡す限りの大海が広がっていた。
ここへ辿り着く為には予め座標を指定しておかなければならない為、つまりヌーは最初からこの場所を選んでいたという事である。
大魔王ヌーがこの海辺を選んだ理由だが、当然この海の風景を楽しもうと考えて選んだわけではない。
遠くまで見渡せる水平線をバックに、辺りに隠れる場所のない砂浜を選ぶ事で、たとえ『概念跳躍』で辿り着いた先に襲撃があったとしても、直ぐに対応が行えるという判断で選んだ場所なのであった。
そしてこの場所は海を挟んではいるが、ヴェルマー大陸が比較的近くにある場所である為、当初の目的であったソフィの居る『ラルグ』魔国の襲撃を行うのには、まさに持ってこいの場所でもあったというわけであった。
「ソフィ、ひとまずはここから別行動でいいな? リラリオにさえ辿り着ければ、お前なら『高等移動呪文』を用いて何処にでも行けるだろう? 俺は今日一日を使ってこの世界の地形や、地理などをもっと詳しく頭に叩き込んでおこうと考えている。連れてきた連中の環境を整えられたらまた『念話』で呼び出せ。いいな?」
「うむ、分かった。だが、一つだけお主に伝えておかねばならぬ事がある」
ヌーはもうこの後直ぐにテアと共にこの場所を離れようと考えていたが、そんな彼に待ったをかけるように、ソフィはそう告げるのだった。
「何だ……?」
真剣な目をしているソフィを見て、また何か厄介事を口にされると考えたヌーは、身構えるようにしてソフィの言葉を待つのであった。
「我達がこの後に向かう海の向こうの『ヴェルマー大陸』の反対側、こちらの方角の海の先に、人間達が暮らす『ミールガルド』大陸がある。お主がこの世界を空を飛んで見てまわるつもりならば、その『ミールガルド』大陸にある『クッケ』と言う町付近の山には気を付けるのだ……というか、最初から近づこうとせぬ方が良いな」
「人間達の住む大陸にある『クッケ』……か。しかし今の段階じゃ、どの国にあるどの町が『クッケ』なのかすら分かっちゃいねぇからな。近づくなと言われても困るんだがよ……」
ヌーはソフィの言葉に逆らうつもりではなく、抱いた本音をそのまま告げたのだった。
「まぁ確かにそうだな……。ミールガルド大陸には大きく分けて二つの国が存在していていな、我が近づくなと言った『クッケ』の町は、その大国の一つである『ルードリヒ』王国の管轄する町なのだ。まぁ、詳しい事はミールガルド大陸のあらゆる国々に設立されている『冒険者ギルド』で詳しく話を聞くと良い」
「ちっ! 訳の分からねぇ事ばっかり言いやがって……。まぁ、てめぇがそこまで真剣な表情で伝えてくる程だからな。ここは素直に従っておいてやるよ。ひとまず『冒険者ギルド』ってのが何なのかを調べるところからだな。それにてめぇも環境を整えるのに時間が掛かりそうだしよ、こっちもそれに合わせて好きに動かせてもらう」
「うむ、そうすると良い。万が一にも『クッケ』近くの山脈で面倒事が起きた時は、直ぐに我に知らせるのだぞ」
「考えておいてやるよ」
何度も念を押すように告げられたヌーは、相当にこの『クッケ』という町近くの山には危険が隠されているのだろうと判断した様子であった。
そして砂浜にソフィ達を残して、さっさとヌーは『ミールガルド』大陸のある方角へと向かって飛び立っていった。
少し前のヌーであったのならば、飛び出った方角の先から省みてソフィの忠告を無視したのかと思えたが、今のヌーであれば先の話に有った『冒険者ギルド』の方を優先したのだろうとソフィには考えられた。
そしてその考えに至った事でソフィは、自分の中でのヌーの印象がここまで変わっているのだと改めて自覚して、一人笑みを浮かべて小さくなっていくヌー達の姿を見送り続けたのであった。
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