2074.監視者と力の魔神
唐突に『次元の狭間』の中に現れた影は、ソフィ達が今向かっている『リラリオ』の世界に居るという『超越者』を監視する為に『天上界』からやってきた神々なのだと告げた。
どうやら自分の監視対象である『超越者』に対して、別の『超越者』によって干渉させるのを避けたいという考えでソフィを遠ざけようとこの場に現れた様子である。
しかし同じ世界に『超越者』が二体以上現れる事は今回が初めてというわけでもなく、すでに『ノックス』の世界でもソフィと王琳という二体の『超越者』の戦闘が先日にも行われたばかりであった。
そちらの戦いではこの目の前に居る影のように『天上界』から神々が現れるという事はなかった。
もちろんそれはソフィと契約状態にある『力の魔神』の影響があった可能性も大きいが、目の前の影のようにいち個人の『超越者』のみの監視に力を注いでいて、それ以外の『世界に齎す脅威』に対しては、意欲的に動かない者も居るという事なのだろう。
その辺は直接『天上界』に関係のある者達に聞かなければ真意を得られはしないだろうが、この影が『ノックス』の世界に現れなかった頃や、ソフィという『超越者』が『リラリオ』の世界へ向かうのを制止しようとしている事から踏まえても、この影の監視対象に対してだけはその本気度が窺えるのであった。
「シギン殿、助けてくれて感謝する。だが、もう大丈夫だ」
そう言ってソフィはシギンに感謝の言葉を口にすると、そのまま一歩前へ出て直接『影』と相対するのだった。
「――」(最初は全く私の干渉に気が付かずにいたというのに、もうこの場所で当たり前のように仲間たちと話を行いながら動く事を可能とするようになったか。全く『超越者』というのは、どいつもこいつも厄介な連中ばかりだな)
影は溜息を吐きながらそう言葉を吐き出すが、当然に神格を有していないソフィには、影の言葉を理解出来ていない。
「ふむ……。お主の言葉を理解出来るテア殿がこの場に居るのは分かっておるが、お主が何なのかまではテア殿も分かってはいなさそうだからな。ここはあやつに通訳を頼むとしようか」
そう言ってソフィが『魔力』を用いて『詠唱』を開始すると、この『次元の狭間』にソフィが契約する『力の魔神』が出現を始めるのだった。
見目麗しい魔神がこの『神々の通る道』の中で顕現を果たすと、召喚を行ったソフィに笑みを向け始めようとしたが、そこでソフィと対峙する形で存在している影に気が付くと、そのままその笑みを元に戻しながら、彼女は眉を寄せるのだった。
「――」(何故、貴方がここに居るのかしら? ソフィの事については『上』の取り決めで全て私に一任されている筈、たとえ貴方であっても勝手な干渉は許されては居ない筈よ?)
力の魔神の影に対しての言葉遣いを聞いていたソフィは、まるで彼女が対等以上の存在に話し掛けているかのように彼には聞こえた。
どうやら『天上界』でもそれなりの地位に居て、神格の神位も相当に高いという事だろう。
「――」(別に本気でその『超越者』を相手にしようとしたわけではない。今の私には別の『超越者』の監視もある事だしな。ただ、その『超越者』にいつものように目印をつけておこうと出向いたまでだ。何をしでかすか分からないのが『超越者』だ。その事はお前自身が一番よく分かっているだろう? 上の世界の『守りの要』とされていたお前なら……な)
流暢に喋る影の言葉に、気に入らないとばかりに顔を歪める『力の魔神』であった。
「――」(目印というのは貴方が監視する世界に居る間、強引にソフィの姿を変えさせているアレの事ね?)
「!?」
影との会話の中で魔神が出した『姿を変えさせている』という言葉に反応するソフィであった。
「――」(ああ。本来は対象者の『力』を制御する優れた『技法』だが、そこに居る『超越者』相手にはほとんど効力はないからな。あくまでこの私がすでに意識しているのだと、派遣される他の執行者たちに伝える意味合いの方が強いと言えるが、これに関してはお前も今まで何も言ってこなかったのを見ると、私が目印を付ける事にお前も反対ではなかったという事だろう?)
「――」(勝手な解釈をしてもらっては困る。賛成していたわけではない……が、確かに貴方が目印を付ける事で『上』も必要以上にソフィに対して干渉を行おうという気が削がれているのは確かのようね)
「――」(そうだろう? それにあくまで私が受け持っている世界に居る間だけの話だ。その『超越者』の元の世界や、他の世界に渡った時に私は一度も目印をつけてはいないし、そやつと顔を合わせる事すらしていないというのも改めてこの場で明言しておこう)
「――」(それは分かっている。だが、貴方に一つだけ言っておく事がある……)
「――」(……何だ?)
「――」(次から勝手に私の契約者に干渉すれば、この私が全力を以て貴方を消滅させる)
これまで黙って影の話を聞いていた力の魔神だが、ここで場の空気が一変する一言を言い放つのだった。
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