2073.超越者を監視する者
ソフィ達の前に突如として姿を現した影は、まるでソフィ達の行く手を阻むかのように『次元の狭間』の道の中央に立っている。
その影がどのような表情をしているのかまでは窺えなかったが、どうやらこの場に現れた者達をじっくりと観察しているように思えたソフィ達だった。
やがてその影は静かに口を開き始めた。
「――」(これは驚いたな。再びこの次元の狭間を経由しようとする『超越者』の気配を感じ取ってきてみれば、まさかこの場所でしっかりと意識を保っていられる者達がこれほど揃って現れるとは……。それも種族もバラバラな上に『死神』まで居るとはな)
どうやら観察を終えたこの影は、この場所でも意識を保っていられている者達をしっかりと把握したようで、ソフィ達を順番に見渡した後にそう呟くのだった。
しかしソフィ達はこの影が何を言っているのかが理解出来ず、何かを口にしているという事だけしか分からなかった為に、照らし合わせたかのようにソフィやシギン達は『テア』の方に視線を向けるのだった。
そんなソフィ達の視線を受けながらもテアはそちらに反応せず、守るようにヌーの前に立つと、そのまま影の方に視線を向け続けていた。
「――」(心配せずともお前の後ろに居る魔族に手を出すつもりはない。私がこの場で手を出すとしたら、そこの『超越者』のみだ)
影の告げた言葉はテアにしか伝わらなかったが、どうやらこの影の目的はこの場ではソフィにのみ絞られている様子であった。
「――」(何故ソフィさんを狙う? そもそもアンタは一体何なんだ……? その神格の高さを見るに『天上界』から現れた事は間違いないんだろうけど……)
どうやらこの影が口にした通り、ヌーに手を出そうという様子は全く見られなかった為、彼女も自分の武器である鎌を構えるに留めながら、疑問の言葉を影にぶつけるのだった。
「――」(私はこの道の先に続いている世界に居る『超越者』を監視している者だ。そこに別の世界の『超越者』が入り込もうとするのを可能な限り排除しようと動いている……が、そこに居る『超越者』はすでに前回のやり取りで一筋縄で行かぬ相手だという事は理解している。今ここでやり合うつもりはないが、他の監視者に伝える意味を込めて目印だけはつけておこうとこの場に姿を見せたのだ)
「――」(目印……?)
テアは影の言葉に眉を寄せて疑問を口にしたが、次の瞬間に唐突にその影はソフィに向けて右手を翳し始めた。
当然にソフィも何らかの攻撃が影から自分に向けて行われると気づいたが、この場所ではやはり普段通りに動くとまでは行けず、恐ろしい速度で放たれた影からの『魔』の技法をソフィは避ける事が出来なかった。
――だが、その攻撃がソフィの身体に直撃する寸前、唐突にソフィの姿がその場から消えるのだった。
「――」(何……?)
影はこの場所でまさか自分の攻撃が避けられるとは思ってもみなかったようで、流石に驚きの声を上げるのであった。
そして消えたソフィは、大きな『魔力』の余波を感じさせている人間の傍元に移動しており、どうやら対象であるソフィを移動させたのもこの人間のせいなのだと影は理解するのだった。
「危ないところだったな、ソフィ殿」
――そう口にしたのはノックスの世界で『空間』の『理』を生み出してみせたシギンであった。
『次元の狭間』での移動に慣れているシギンは、どうやらこの場所でも彼の能力を如何なく発揮してみせて、移動術の『空間技法』を用いて影からの攻撃から救うために、ソフィの身体を自分の元へと強引に空間を操って引き寄せたようであった。
「――」(ほう……? この場所で意識を保っていられる人間というだけでも大したものだというのに、まるで自分の生み出した空間と見紛うような真似までしてみせるとはな。しかし『超越者』というわけでもなさそうだが、一体何者だ?)
「一体何を言っているのかは分からないが、私の行いに驚いてはいるようだな。どうやらテア殿と同じく『神格』を有する神々のようではあるが、この空間は私にとっても馴染み深い狭間の世界だ。思い通りにはさせぬぞ!」
このリラリオの世界へと向かう道中の『次元の狭間』の内側で、全く予定になかった展開が唐突に繰り広げられる事となるのであった。
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