2070.玉座の間にて
「それでお前はさっき何かに思い当たった様子を見せていたが、コイツが使う『呪法』は誰から得ていやがった? もうそいつは死んでいるのか?」
「い、いえ……。まだ死んではいない筈です。あ、あくまで私は『煌聖の教団』でもそれなりの地位でしかなかった為に、最高機密の情報を得ていたわけではないのですが、我々『アレルバレル』の世界の魔族達は、呪法師と言えばコイツしか居ないという奴の事を嫌という程理解しております」
「ほう……? そんな奴らがお前らの世界に居たのか。ソフィにしてもそうだが『アレルバレル』という世界は、相当に面白い世界のようだな。部下共だけじゃなく、俺自身もいつか向かう事にしようか」
そう告げる彼の中では、もう『アレルバレル』の世界に攻め込む事を決めた様子であった。
「あ、いや、その呪法師は大魔王フルーフという魔族なのですが、実は『アレルバレル』出身の魔族というわけではないです。別の世界『レパート』というところから『アレルバレル』の世界に乗り込んできた大魔王でして……」
「別の世界から……? なるほど、それでソフィに返り討ちにあったというわけか」
まだソフィにやられたとはマルクスも口にはしていなかったが、もうレキの中では『アレルバレル』の世界と言えば、大魔王ソフィのモノであるという事を疑ってはいないようで、その世界に乗り込んできた大魔王をあのソフィが見過ごす筈はなく、結局は世界を取れずに敗北を喫したのだろうとアタリをつけて口にした様子である。
「あ、えっと……」
しかしレキの言葉を聞いたマルクスが言い淀むのを聞いて、どうやら自分の考え通りではなかったようだと気づくのだった。
「違ったか。それではソフィ以外の奴にやられでもしたのか?」
「は、はい……。大魔王フルーフを無力化して見せたのは、わ、我らが総帥であるミラ様です」
そう言ってレキの……いや、レキが奪った大賢者ミラの顔を見ながら告げたマルクスだった。
「くっ……、ククククッ! ハッーハッハッハ! そうかそうか、コイツは愉快な話だ。さぞお前は俺を滑稽な目で見ていたのだろうな? 誰がやったと口にする俺自身がそのフルーフとやらに手を掛けた張本人だったというわけだ!」
「うぐぁっ……!?」
レキは笑いながらも蟀谷に青筋を浮かべて、マルクスの首を右手で掴みあげるのだった。
「誰がやったとこの顔で口にしていた俺を見て、お前は腹の中で笑っていたのだろう?」
「そ、そのような事は……っ! うぐぐっ……」
レキに首を絞められていたマルクスは、何とかその手を引き剥がそうとするが、人間の身体であった筈のミラの手を振り解く事が出来ず、少しずつ抵抗力が弱まっていき、手をぶるぶると震わせながら口から涎を出して目がゴロゴロと動き始めて白目を剥き始めていく。
そしてあわやというところでレキは、その手をマルクスの首から外すのだった。
「かはっ……!!」
レキが手を離した瞬間にマルクスはどさりと音を立てて床に崩れ落ちた後、慌てて地を這いずりながら呼吸を行い始めるのだった。
「さっさとフルーフって野郎の詳細を吐け。今すぐに言わねば殺すぞ?」
「はぁはぁっ……、お、お待ちくださ、こ、呼吸が……、ぐぁっ!!」
レキに背を向けたまま、床を這いずって離れ始めていたマルクスの左足をレキは、真っ白い光のレーザーで吹き飛ばすのだった。
――これは大賢者ミラがダールの世界に顕現した『魔神』から奪った『力』の一端である。
「あまり俺を煩わせるなよ? こっちはお前を殺して別の奴に話をさせてもいいんだ。使える奴と踏んでお前を有効活用してやっている俺に見限られたくなければさっさと言え」
「はぁはぁっ、わ、わかり……、ました……、だ、大魔王フルーフは……」
……
……
……
ミューテリアが今後の『精霊樹』と『森』の管理をダークスピリットに詳しく話し始めたのを聞き、彼はもうこのままここに居ても邪魔にしかならないと判断した様子で、また明日迎えに来るとだけ伝えて自分の城へと戻るのだった。
そして再び自分の城に戻ると、彼は自室ではなく再び玉座の間に足を運んだ。
「ここで我は勇者マリスと戦い、そして『リラリオ』の世界へと赴く事となった。思えばそれも『煌聖の教団』の策中だったという事を踏まえると、本当に我は『煌聖の教団』とは切っても切れぬ縁があるようだな……」
まだヌーを襲撃した犯人が『煌聖の教団』とは限らない状況ではあるが、それでも十中八九関係がある筈だと何故か確信めいた考えが過っているソフィは、玉座の上で誰もいない部屋の中で独り言ちるのだった。
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