2069.レキが見せる恐ろしい形相
レキが大賢者ミラの身体を奪った一番の理由は、レキの元の魔族の身体に罹っている『梗桎梏病』という魔族にだけ影響を及ぼす『魔力』を上手く使えなくなる病気を治す手立てを見つける事にあった。
大賢者ミラが他者の命を奪う事で、そのまま自分の『死』を一度分に扱えるという珍しい『魔』の技法に最初は惹かれたレキであったが、それよりも『リラリオ』の世界でソフィや、内なる大魔王を飼いならせてはいないが、才ある魔族である『シス』と戦いの最中に見せていた大賢者ミラの数多の『魔』の技法に更に興味を示したのである。
その中でも特にレキが関心を抱いたのは、呪法と呼ばれる『魔』の技法の類であった。
『呪法』は自身の能力の向上などには全く役に立たない『魔』の技法ではあるが、他者に対しては恐るべき効力を発揮するものが多く、中には呪法をかける対象の今世だけではなく、転生を通した来世以降の未来にまで効果を持続させる程のものまで存在する。
大賢者ミラは戦闘の中でそのような呪法を用いている場面はあまりなかったように見えるが、レキは数々のミラが行った戦闘を見ていて直ぐに、彼が扱う『魔』の技法には『呪法』の効果影響が大きい事を見抜いたのであった。
ミラが現在使っている『魔法』の中に少しだけ、基は『呪法』でそこから進化させた『魔法』だという事に見当をつけたのである。
単なる超越魔法から神域魔法、そして魔神域魔法と呼べる代物に進化させるのには相当の苦労を要するが、一定以上の『魔神級』クラスの存在であれば、その世界の『理』に関与が出来る程の才を見せつける形で成し遂げる事を可能とする者が居る。
特に大賢者ミラは完全なオリジナルとなる『理』を生み出す事までは出来なかったようだが、基となる『理』に改良や改変といった具合に変化させる事までは可能だったようで、その領域にまで達していれば、単に『呪法』の効果を『新魔法』として誕生させる事も不可能ではない。
(大賢者と呼ばれていただけあって、こいつの能力は相当に使える。あと数千年は早くこいつの身体を奪えていれば、俺の本体ももう少し『魔力』を自由に扱えていただろうに。今となってはコイツを使って『呪法』の原理から新たに新魔法を解明して誰か他の奴にその魔法を使わせて、俺の罹っている『梗桎梏病』を何とかしてもらう他にない……)
本当であれば魔神に敗れてあの『梗桎梏病』が蔓延した洞窟の中に幽閉された時点で、魔族である『レキ・ヴェイルゴーザ』はその生涯を終えていた筈だった。
しかし彼の生への執着心はとんでもない程で、普通の魔族ならば精神から摩耗を始めて、今頃は生きていたとしても少しずつ廃人とって、物を言わぬ骸へと成り果てていた事だろう。
だが、魔力が上手く扱えなくなって数千年が経った今でも、まだ『高等移動呪文』程度なら発動が出来る状態であり、代替身体から本体へと復活を果たす事を諦めない状況にあった。
この『レキ・ヴェイルゴーザ』であれば、新たに大賢者『ミラ』の身体から『リラリオ』の世界を支配する大魔王へと復活を果たす事も出来るは出来るのだが、残念ながらこの身体では大魔王ソフィまでは倒す事は出来ない。
彼自身、ソフィと戦った事で大魔王ソフィがどれだけ厄介な存在なのかという事を把握しており、元の身体の本来の力を取り戻さなくては、勝つどころか戦いにすらならないとよく理解している状態なのであった。
(ソフィが『終焉』と呼んでいた、あの魂そのものを浄化する技法さえなければ、コイツの『不死』に近い能力で如何様にも対抗が出来ていたのだろうがな……。アイツは少なくとも俺の考えている『魔神級』の物差しでも最上位の存在で間違いない。当時の俺の同胞共でも大魔王ソフィを討ち取るのは至難だった事だろう)
大賢者ミラの顔で怒りに震えるような形相をしているレキを見たマルクスは、その恐ろしさから脂汗を浮かべ始めるのだった。
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