2064.大魔王ヌーのソフィに対する心境の変化
「あくまでそういう可能性もあるという話だ。同盟関係というのは、互いの組織の利害が一致している時は心強いものがあるが、一転して状況が変わって同盟関係が切れる事になれば、同時に隠しておきたかった大事な情報が相手側の組織に渡ってしまい、それが決め手となってウィークポイントを相手側に作ってしまったり、今回のように同盟関係がなくなれば、もう関係ないとばかりに遠慮なしに襲ってくるような輩も居る。同盟関係というのは非常に厄介なものでな、一時的な仲間となる心強さとは裏腹に、油断を生む危険性も孕まれておる。同盟関係にあったあやつは顔も知っているし安心だと、全面的な信頼を置く事で裏切られた時の失望感や、被害の痛手は計り知れぬものがある」
流石に長年このアレルバレルの『魔界』を治める立場にあったソフィは、かつてのあらゆる大陸の組織の者達と同盟を結んだ関係もあり、その辺の事情に詳しい様子でヌーに語るのだった。
「ちっ! クソ雑魚共が調子に乗りやがって……! 成程な、確かに『煌聖の教団』の残党共だったとしたら、何かしらミラの『魔』の技法が伝わっていた可能性もありやがるってわけか。それだったら連中の魂の所存が掴めねぇっていうのも繋がりが理解が出来やがる!」
そのヌーの言葉に、ソフィは引っ掛かるものを覚えるのだった。
(確かにあやつはこの手で何度か絶命させたが、何事もなく目を覚ましておった。しかしそれはあくまで転生に近い『命』の話であって『魂』というわけではなかったように思うがな……。あの時は我も怒りで『魂』ではなく、数多あったあやつの『命』を対象に全てを根こそぎ奪い尽くしたが、本来『終焉』はあやつの『命』に拘らずに『魂』そのものを浄化させる事可能とする……。これはミラの奴が関係しておるとは思えぬのだが、だが煌聖の教団の連中が全く関与していないのかと問われれば、関係はないとは断言が出来ぬ。我もこれは何処かで煌聖の教団と関わりがあるようには感じられるのだが、何かミラの奴とは関係がないようにも思える。一体この違和感は何なのだろうか……?)
ソフィはヌーと並び歩きながらも、独自に深い思案の海に潜り始めるのだった。
そして同時に横に並ぶヌーは、まるで自分の事のように考えているソフィを見て続けようとしていた口を噤み、じっとそのソフィの横顔を見ていた。
(こいつは確かにいつかはぶった倒す目標にあるのは違いねぇが、別にこいつ自身が気にくわねぇってわけじゃねぇ。それはコイツと長い間『ノックス』の世界で一緒に居てよく分かった。今もこいつは俺の問題だというのに、真剣に考えてくれてやがる。何よりこいつが信じられると思えるのは、コイツが俺なんかよりも遥かに強いというのが根本にあるからだ。コイツはいちいち俺の機嫌を取る必要性はないんだ。もし俺が気にくわねぇと感じていたなら、いつでもあっさりと俺をこの世から消し去る事が出来やがる男だ。それなのにそんな事を一切しようとする素振りがないって事は、本当にコイツは俺を憎いとは思っちゃいねぇんだろう。ま、そもそも眼中にないだけなのかもしれねぇが、それでも話の本質は変わらねぇ。別にこいつに取り入ろうなんざ、全く考えちゃいねぇが、これまでのように『敵』としてだけで見るのはもう……止めにしてもいいのかも、な)
ノックスの世界に居た時の後半にはもう、ソフィに対してこれまでの蟠りなどは消えかけていたが、今回のアレルバレルの世界での襲撃の件を境にして、遂にソフィに対して明確な『敵』という考えそのものが薄れている事を自覚した大魔王ヌーであった。
そしてそれは盲目的な実感ではなく、ノックスの世界で色々な話を交わした事で互いの事をある程度知るに至ったという事からも、正しい実感へと繋がっているようであった。
「おいソフィ、今回フルーフの奴と決着をつけた後、俺はシギンやあの妖魔神の野郎から色々と学ぶ事にする。もちろん学んだからといって直ぐに何かが変わるとは思っちゃいねぇが、それでもこのままずっと停滞し続けるつもりはねぇ。だからよ、お前が暇な時でいいから普通に相手をしてくれねぇか? 殺し合いではなく、シゲンの奴が行ったような腕試しみてぇな軽い奴だ……」
独自の思案の海に潜っていたソフィは、真剣な目をしながら話を伝えてきたヌーの言葉に、目を丸くして驚くのだった。
「うむ……。それは構わぬが、まさかお主が我にそのような事を口にするとは思わなかった」
「ふんっ、よくよく考えてみたらよ、近くにいつでも戦える手頃な『最強』が居るんだからよ、利用しない手はないと考えただけだ。精々俺に利用されやがれや!」
「クックック……! 我に利用されろときたか。お主も底のない遠慮なしだな。まぁその返事はフルーフの一戦が終わった後にしてやろう。今は要らぬ事を頭に入れずにやるべき事をやるのだな」
「もちろんだ……。フルーフや使役する『死神皇』も厄介な野郎共だが、最後に勝つのは俺達だと決まっているからな」
そう言ってヌーは、ソフィと逆隣に居るテアの肩に手を置くのだった。
「――」(『死神皇』様が相手になるんだから楽勝だとは言えねぇが、それでもお前に恥をかかせない程度には活躍してやるよ!)
「ふっ、期待しているぞ」
突然のヌーとテアとの掛け合いだったが、テアの言葉が分からずともソフィは、笑みを浮かべて頷きを見せるのだった。
「クックック、本当にお主らは仲が良いな。いっそのこと生涯の契約者にでもなったらどうだ?」
「ああ、それもいいかもしれねぇな。よし、テア! 今回の一件が片付いたらお前は生涯俺の隣に居続けろ。もう俺以外の奴とは契約を行うな」
「――」(は、はぁっ!? そ、それはどういう意味で言ってんだ!?)
ソフィはテアの言葉は分からないが、彼女が何を驚いているのかは、当然に今のヌーの言葉から伝わるのだった。
(痛快なまでの告白だな。だがこやつらしいと言えば、こやつらしいがな)
その後はヌーとテアが色々と騒ぎながら会話を行っているのを隣で聞き、ソフィは温かい目をしながらその様子を見守るのだった。
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