2062.精霊女王と悪魔精霊
ヌーとの『念話』でのやり取りや、ミューテリアと話をしている間に日が変わり、すでに『リラリオ』に向かう当日の日に変わってしまっていた。
朝でも昼でも薄暗い『アレルバレル』の世界だが、流石に深夜ともなると一層闇が深くなっていて、森の中は魔族でなければ何も見えなくなるぐらいになっていた。
そんなミューテリアの管理する精霊の森の中、ソフィ達がちょうど話を終えて外に出てきたとき、目的の『魔族』が『死神貴族』と『悪魔精霊』を連れ立って姿を見せた。
「よう、待たせたな。色々あって少し遅れちまった」
そう言ってヌーが一歩前に出ながらソフィ達に告げると、ミューテリアがソフィより先に口を開くのだった。
「よく来てくれましたね、魔族ヌー。貴方が今回私たち精霊族の為を思い、こうして配慮を行って頂いた方を精霊達の女王としてとても喜ばしく思っています。多大なる感謝を申し上げます」
そう言って精霊女王であるミューテリアが精霊達を代表して頭を下げながら感謝の言葉を告げると、直ぐにヌーは姿勢を正して視線をソフィからミューテリアに移した。
「精霊女王、頭を上げてくれ。元々こっちの都合でアンタに迷惑を掛けようって言うんだ、それくらいの事をするのは当然の事だ。それにアンタの『理』は今でも多くの連中の助けになっている。まだまだ精霊連中には消えてもらうわけにはいかねぇってのが本音だ」
精霊女王のミューテリアに頭を下げられた事は、この世界の最上位に居る大魔王ヌーにも相当の衝撃だったようで、直ぐに頭を上げさせようと口を開いてそう告げたのだった。
ミューテリアはそのヌーの言葉に頭を上げると、頭を下げるのとは違う形で感謝を伝えるように微笑んで見せるのだった。
彼もまた幼少期の頃は、他の人間や魔族達と同様に、ミューテリアの編み出した精霊の『理』を学び、多くの魔法を習得するに至っていたのだ。今でこそ、そんなヌーも『アレルバレル』の世界で一、二を争う程の大魔王へと変貌を遂げる事となったが、初めて『魔』の概念に触れた時の事を未だに覚えている程で、その時の苦労の印象が如実に残っており、精霊の『理』に世話になった彼は、その『理』を編み出した精霊女王ミューテリアを尊敬の対象として今でも捉えているのであった。
だからこそ彼は、精霊の『理』を編み出した精霊女王に恩を持っており、ミューテリアが居なくなった後の森や『精霊樹』の管理をすると言い出したのである。
つまりそれは大魔王ヌーが認めている僅かな対象の中に、精霊女王『ミューテリア』が入っているという事の証左でもあった。
ミューテリアの微笑みを見たヌーは、照れを隠すように横に居る『悪魔精霊』の『ダークスピリット』を前に出しながら再度口を開く。
「それでよ、こいつがアンタの代わりに管理を行う元精霊で今は『悪魔精霊』の『ダークスピリット』だ」
横で他人事のように話を聞いていたダークスピリットは、突然にヌーに精霊女王に紹介されて慌てた様子でミューテリアに頭を下げるのだった。
「あ、えっと……! じょ、女王様! その、あまり自信はありませんが、こ、今回は、精一杯務めさせて頂きます!」
今はもう『理』違いの『魔』の概念技法を用いる『悪魔精霊』ではあるが、それでも元は精霊であり、その頃は精霊女王に対して気軽に声を掛ける事は出来なかった為に、今こうして面と向かって直接会話をする事に緊張感を隠し切れない様子だった。
「まぁ、貴方が……。今回は無理をさせる事となってごめんなさいね。よろしくお願いします」
「えっ……! あ、頭をお上げください、女王!」
そう言ってミューテリアが協力をしてくれる相手である『ダークスピリット』に頭を下げると、あまりの驚きからか、絶句した後に慌てふためく『悪魔精霊』であった。
かつては雲の上の存在であった精霊達の女王が、元は一介の精霊であった自分に頭を下げたという事実が更なる動揺を招いたようであった。
「精霊女王。こいつはこんな姿をしているが俺が見込んで契約した『悪魔精霊』でな。アンタらの『理』を十分に理解している上に相当の『魔力』を持っていやがるんだ。一度しっかりと管理が出来るか見てやって欲しい」
どうやら『悪魔精霊』が緊張とあまりの慌てように何も言えない状態なのだと察したヌーは、実際には使える奴だという事を伝えようとしたのだろう、そう言ってダークスピリットを持ち上げて有用な者だという事をミューテリアに告げるのだった。
「分かりました。それではえっと……『ダークスピリット』と呼んでもいいかしら?」
「は、はい! 何とでもお呼び頂いて結構です」
「それでは、ダークちゃん。これから『精霊樹』で実際に妾の代わりに力を示してくれるかしら?」
「だ、ダークちゃん……。わ、分かりました!」
悪魔精霊は予想していなかった呼ばれ方を精霊女王にされた事でどう反応していいのか分からず、その後もずっと苦笑いを浮かべ続けていたのだった。
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