2060.精霊族の森と、保護を行う魔族の歴史
ソフィは中央大陸にある自分の城から少し離れた森の中に居た。
少し前にヌーからの『念話』で精霊樹の管理が行える『悪魔精霊』を『精霊女王』の元に連れていきたいと告げられた為、事情の詳細を『精霊女王』である『ミューテリア』に伝えようと彼は精霊族達の森に足を運んだというわけである。
ソフィが森の中に入ると直ぐにそれに気づいた精霊達が集まってくる。
前回アレルバレルから離れる際に会話を交わした人間の子供ぐらいの大きさの精霊や、ソフィの手に乗せられる程の小さな精霊など、色々な種類の精霊がこの森に居るのだった。
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本来は大陸別に生息していたこの精霊達だが、過去の魔族たちが行った苛烈な戦争の多くによって次々とその数を減らされてしまい、もうこの中央大陸に居る精霊族以外に『アレルバレル』の世界には生息をしていない。
だが、大魔王ソフィが精霊族を保護すると決めてから、精霊女王を含めた精霊達の数は一体たりとも減っていなかった。
そもそもこの中央大陸自体に他大陸から魔王達が襲撃に現れない以上は、外的要因で精霊達がその数を減らす理由がないのだった。
これまでの長い歴史で精霊達を保護すると決めてから、この中央大陸に襲撃があったのは『第一次魔界全土戦争』の発端となった、大魔王『ロンダギルア』の中央大陸襲撃事件だけである。
あの時はまだソフィも『魔界』を統治する立場になく、あくまで中央大陸で静かに仲間達と暮らしているだけであった為、今のように中央大陸に張られているような大規模な『結界』などもなかったのである。
だが、前例が出来てしまった事でこの中央大陸の安全の見直しが行われて、今の態勢が築き上げられたというわけである。
しかし実際にはこの中央大陸の安全性を見直されなかったとしても、この大魔王ソフィの居る場所を襲撃してやろうと考える魔王は居ないに等しかっただろう。
もちろんこのロンダギルアの戦争以降に出来た組織である『煌聖の教団』や、その『煌聖の教団』の傀儡となったダイス王国の勇者たちによる襲撃などは行われはしたが、魔界の中で常に起きているような日常的な戦争に関しては、この中央大陸だけは確実に標的にされる事はなかっただろうという話である。
かつて『魔界』に存在する東西南北の各大陸の代表たる『支配者』達は、大魔王『ダルダオス』による最古の種族間戦争時に大魔王ソフィという『存在』を知った。
そして次にその各大陸に居る一般的な魔族達に周知されるに至ったのが、大魔王『ロンダギルア』による『第一次魔界全土戦争』。
このたった二つの出来事で、大魔王ソフィとそのソフィの居る中央大陸を襲えば、返り討ちに遭うどころの騒ぎではなくなるという事を痛い程に魔界全土中の生物達に知れ渡ったのであった。
つまり中央大陸を襲うような真似さえしなければ、普段は温厚である大魔王ソフィが動く事はない。
その事を学んだ『魔界』の全土の者達は、何があろうとも中央大陸にだけは手を出さないし、他の者達にも出させないようにする事が近代の暗黙の了解となっていたのである。
『煌聖の教団』とその総帥である大賢者『ミラ』という、まさに『ソフィ』の居る中央大陸を除いた『魔界全土』全てを掌握できる程の規格外な存在が誕生しなければ、今も『魔界全土』の暗黙の了解は変わらずに、中央大陸の平和は保たれ続けていた事だろう。
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ソフィが森に来た事で多くの精霊達が嬉しそうに集まってくる。そんな精霊達を可愛がりながら、ソフィはミューテリアの元に足を運び始める。
やがて森の中でも一際目立つ程の大きな一本の木の前に、目的の精霊女王が立っていた。
「あら、出発は明日じゃなかったの?」
来訪者がソフィである事をすでに森に入った時点で分かっていたのだろう。ミューテリアはそう言って微笑みながら、手に乗せている精霊を撫でているソフィを嬉しそうに出迎えるのだった。
「うむ。出発の前にこの精霊の森の管理に関して、お主に話をしておくべき事が出来たのでな」
「この森に関して……? どうやら真面目な話のようね。お茶を淹れるからついてきてちょうだい」
ソフィの話が大事なものであるという事を知り、ミューテリアは話をしやすいように部屋へとソフィを案内するのだった。
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