2058.襲撃者達の魂の行方
「さっさと言いやがれや。てめぇは誰の指示で俺を襲ってきやがった?」
襲撃者はこのまま放っておいても『金色の目』を用いられて、ヌーに強引に喋らされるという事を理解しているようで、重苦しくはありつつもその口を開き始めるのだった。
「お、お前を葬るようにと指示を行った御方は……、ぐっ!?」
このままだとヌーに殺られるだけだと観念した襲撃者は、自分だけは何とか生き残る為に洗いざらい話そうとしたその瞬間に口から声が発生出来なくなり、驚きで目を丸くするのだった。
「どうした……? 指示を行った野郎は誰なんだ?」
襲撃者は再度訊ねたヌーの前で口角を震わせながら驚愕に染まる様を見せ続けていたが、やがて唐突に目の焦点が合わなくなっていき、最後には眼球上転を引き起こすのだった。
「あ? おい、どうした? 何をやってやが……っ!?」
次の瞬間、襲撃者の顔が急に膨らみ始めたかと思えば、顔から眼球を弾き飛ばしながら風船が破裂したかのように、首から上がはじけ飛ぶのだった。
「ちっ……!」
ただ単に男が絶命するだけとは限らないと即座に判断したヌーは、この後にまだ何かあるかもしれないと判断して、テアと『悪魔精霊』を掴んだまま、後方へと思いきり後退るのだった。
……
……
……
突然に大魔王ヌーの元に現れた襲撃者達だったが、今のヌーとは圧倒的な力の差があった為にあっさりと勝利を収める事に成功はした。
しかし最後の一人だけを生き残らせたヌーが、誰の指示で自分達を襲ったのかを訊ねようとした瞬間、突然に首から上が膨らみ始めた後、風船が割れるように顔がはじけ飛んで絶命を果たすのであった――。
「どうやら遠くから俺達を狙っての攻撃……というわけでもなさそうだな……」
襲撃を行った男の体内に遠隔操作式の爆弾などが埋め込まれていたのかと考えたヌーは、この後にも追撃があるのかもしれないと用心を行ってみせたが、その後に続く攻撃が行われなかった為に、どうやら男が指示を行った者の名を口にしようとしたり、正体を明かそうとしたりすれば、勝手に自爆するような仕掛けを用いているだけのようだと判断したのだった。
「――」(こんな風に他人の命を簡単に操作して弄ぶなんて……。やっぱり死神より魔族の方が、よっぽど怖いぞ)
どうやらテアにも襲撃者の男が爆発四散した理由に思い至ったようで、あまりに残酷な出来事に思わずそう呟いたようであった。
「ふんっ、こいつらは間違いなく魔族だが、指示を出したやつがまだ魔族とは限らねぇだろうが……」
『煌聖の教団』の総帥であった大賢者ミラは、元人間の立場で数多くの魔族や魔王達を従えていた。それに伴って魔族達の使役する『悪魔』や『魔物』といった者達も当然にミラが従えていた為、同様にヌー達を襲ってきた魔族達に指示を出した者も『人間』の可能性があるとヌーはテアに諭すような言葉を口にしたのであった。
(しかし今の俺から見れば大した事のない連中だったが、それでもソフィの魔王軍の序列部隊に匹敵する程の力量を有していたのは間違いねぇ。今の時代でソフィの魔王軍や、煌聖の教団に属する連中以外でここまでの強さを持った連中に指示を出して自由に動かせる野郎なんざ、直ぐには思いつかねぇのも確かだ。何故俺を狙いやがった……? クソッ、こんな事になると分かっていたらコイツだけを残すんじゃなく、もっと他のやり方で全員生かしておけばよかった。もうこいつも他の連中にも魂は残っていな……っ!? そ、そうだ、テアがいやがるんだった!)
本来であれば、すでに魂を失った者に『救済』の魔法を行っても蘇らせる事は不可能だが、今この場には魂を司る『死神』であるテアが居る。その事に思い至ったヌーは、惨い事をしやがるとばかりに顔を顰めていたテアの方に勢いよく顔を向けて口を開くのだった。
「おい、テア!」
「――」(わわっ! 何だよ急に……! こんな出来事があった後に近くで大声を上げるなよ! びっくりしちゃうだろうっ!)
「死神が何を宣っていやがる……。いやそんな事は今はどうでもいい、お前ならコイツの魂を戻す事が出来やがるだろう?」
「――」(あ……? まぁ魂なら何とか出来るけど、コイツの身体まで元に戻す事は出来ないぞ? 魂だけ戻しても、身体がすでに死んでいる者を蘇らせるのは無理だ。それにコイツの首から上、もうなくなっちまってるしな……)
「身体の心配はしなくていい。魂さえ何とか出来るなら、俺の魔法で身体の方は何とでもなるからよ」
「――」(あ、そっか。お前やソフィさんはそんな『魔』の技法を扱えるんだったな。全くとんでもねぇ話だよな。この世の『理』に反しすぎていて、私たち『死神』は商売上がったりだよ……)
「そんな話はいいから、さっさとしてくれや」
「――」(はいはい、全く死神使いが荒い奴だなぁ……)
他者に告げるよりは、幾分優しめに頼むヌーであったが、それでもテアは愚痴を零しながら黒い鎌を出現させるのだった。
だが、いつもであれば鎌を出した瞬間に魂を呼び起こすテアだが、いつまで経ってもこの場に魂を呼び起こさずにいるテアであった。
「……どうした? エイジの時は直ぐに魂を呼び戻して蘇らせただろうが。何故起こさない?」
「――」(ヌー……、悪いがコイツの魂は私ではどうにもできない)
「何? いったいどういう事だ」
「――」(魂自体がもう『幽世』にも失くなっているんだ。存在がないものをこの場に呼び起こす事は『死神』にも出来ない)
「魂自体がない……? だが、こいつが絶命した時に魂の動きはなかった。魔王共が使う『代替身体』を使用する時は必ず魂の移動が行われる。あの時に逃さねぇようにしっかりと見ていたが、魂が移動する動きはみられなかった。間違いなく用意されたであろう『代替身体』へは移動していない筈だ……」
同じ『代替身体』を扱う魔王として、ヌーはこの襲撃者の魂が『代替身体』へ移動していないと明確にこの場で口にするのであった。
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