2056.突然の襲撃者
ヌーは契約を交わしている『悪魔精霊』に対して、わざわざソフィに連絡せずとも良かったと愚痴を零していると、隣に居たテアが何かに気づいてそちらに視線を送り始めた。
「テア、どうした?」
そしてヌーは『悪魔精霊』の相手をしながらも、目聡くテアの挙動に気づいて声を掛けるのだった。
「――」(気を付けろ、ヌー。何者か知らないが、大勢こちらに向かって近づいてきているようだぞ?)
「何……? 俺には何も感じられねぇが……っ、そうか『隠幕』か!」
『隠幕』の魔法は『レパート』の世界の大魔王である『フルーフ』によって、元となる『ハイド』の魔法に改良が加えられて新魔法として誕生した『魔』の概念技法であり、姿だけではなく『魔力』そのものも完全に遮断して、相手の『魔力感知』や『魔力探知』といった探知系の概念技法から身を隠す『魔法』である。
当然、かつてはこの魔法を扱える者は『レパート』の世界のフルーフ達だけに限られていたが、煌聖の教団の総帥であった『ミラ』にフルーフが捕まり、長きに渡り洗脳が行われた後、フルーフの持つ多くの『魔』の概念技法は、ミラによって奪われてしまい、更にはそこからミラによって新たに発動羅列ごと作り変えられて、誰にでも簡単に扱えるようにされてしまったのだった。
つまり、煌聖の教団が扱っていた作り変えられた『隠幕』は、アレルバレルの多くの大魔王達にも伝わっていってしまっているというわけであった。
そして作り変えて誰にでも簡単に扱える『隠幕』であっても、効力は確かなモノのままであり、それが証拠にテアが居なければ、気づく事が出来ない程のものだった。
もちろん攻撃が行われていれば流石にヌーも気づけただろうが、包囲される前に気づけたという事が大きいのであった。
これがヌーと同等クラスの力量若しくは、少し劣る程度の力量を有している者であれば、当然に先程の無防備状態であれば、ヌーであっても相当の被害を被っていた可能性が高いからである。
しかしテアのおかげで周りに何かが居るという意識を持てた事で、直ぐにヌーは戦闘態勢を取り始めた。
――三色併用。
次の瞬間、大魔王ヌーの戦力値、魔力値が共に跳ね上がるのだった。
「ちっ……! 気づかれては仕方あるまい! だが、まだ全員の居場所が特定されたわけではないっ! 一斉に極大魔法を放つのだ!」
未だに姿が見えず、指示を出す声だけが周囲に轟くと、直ぐに『極大魔法』が至る所から発動されるのだった。
「ちっ!」
『漏出』を用いて居場所を特定しようと考えていたヌーだったが、あまりにも多くの場所から『魔法』が発動された事により生じる光が生み出された事で、回避行動を優先させられたのだった。
突然の事に慌てふためいていた『悪魔精霊』だが、ヌーがその身体を遠くの空へ向けて大きく蹴り飛ばして助けると、近くで死神の鎌を取り出してこちらも戦闘態勢を取り始めていたテアの肩を掴み、ヌー自身も空へと転移を行い始める。
「――」(わわっ!?)
誰よりも早く気配を察していたテアは、その居場所までを探ろうとしていたところをヌーに摑まれた為、驚きの声を上げながら非難めいた目をヌーに向け始める。
「我慢しろ。お前の代わりに俺が直ぐに全員の居場所を探ってやる!」
テアが何かを言う前に、その視線だけで彼女が何を言いたいのかを察したヌーは、テアを一瞥した後に直ぐに迫ってくる『極大魔法』に目を向けるのだった。
「ふんっ! アイツらの攻撃に比べたら、止まって見えやがるぜっ!!」
――魔神域『時』魔法、『多次元防壁』。
転移して遠くの空へと移動を開始したヌーに向けて、次々と放たれた『極大魔法』の数々だったが、ヌーの間合いに近づいた瞬間、そのいくつかの極大魔法がヌーによって生み出された『時魔法』によって呑み込まれると、瞬く間の内に消滅していった。
そしてただ消滅されただけではなく、後方から更に迫って来ていた『極大魔法』の前方に再び光が灯ると同時に、先程『多次元防壁』によって呑み込まれて消えた筈の相手の『極大魔法』がこの場に現れ始めて、後方から迫って来ていた別の『極大魔法』と正面からぶつかり大爆発を引き起こすのだった。
これは大魔王ヌーの狙い通りであり、ノックスの世界で編み出した彼の新たな防御策の一つであった。
相手の『極大魔法』や『殲滅魔法』といった破壊力が伴った『魔』の概念技法そのものを呑み込み、自身に迫る脅威を打ち消した後、今度は相手の『魔』の概念技法そのものを自分が操って見せて、詠唱者自身に向けて跳ね返す事を可能とした防衛と攻撃を同時に行う事が出来るヌーの新たな『時魔法』である。
『魔界』の西側大陸の空の上で激しく大爆発が生じる中で、大魔王ヌーはその目をそちらには向けず、今度こそ確実に襲撃者達の居場所を探ろうと視線を動かし続けていた。
「居やがった……!」
空の上で大きく移動する事によって生じる空気の流れや、大爆発の余波の影響を受けないルートを選んで飛行している存在達に気づいたヌーは、今度は彼の方から手を出し始めるのだった。
「誰に手を出したかを分からせてやるっ!」
――逆転移。
「「!?」」
次の瞬間――。
一斉に見えざる手に摑まれたような感覚に陥った襲撃者達は、一斉にヌーの眼前に転移させられたのだった。
「自分から姿を見せた奴だけ生き残らせてやる。猶予は三秒だ。一、二……――」
大魔王ヌーの言葉に、咄嗟に迷いが生じた襲撃者達だったが――。
結局転移させられた襲撃者全員が、この場で姿を現し始めたのだった。
だが――……。
――魔神域魔法、『普遍破壊』。
現れた魔族らしき者達全員が、血をまき散らしながら粉々に砕け散っていくのだった。
「ククククッ! 馬鹿な奴らだぜ! この俺様が律儀にそんな約束を守るわけねぇだろうがっ!」
鋭利な犬歯を覗かせながら、笑みを浮かべてそう告げる大魔王ヌーであった。
……
……
……
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