2053.悪魔精霊と大魔王ヌー
「俺の魔力に気づいているんだろ? さっさと出てきやがれ『悪魔精霊』」
ヌーの言葉に反応を示し始めたのか、木々に囲まれた大きな湖の中央から突如として黒い渦が発生したかと思うと、その場所から人型の姿をした『精霊』が姿を現すのだった。
その『悪魔精霊』と呼ばれた精霊は、ソフィが保護する中央大陸の精霊達とは全く姿が異なっており、全身を禍々しいオーラが包み、目は黒く口から鋭利な牙を生やしており、一見すると精霊というよりは、魔物に近い出で立ちをしているのだった。
「これはこれはヌー様、お久しぶりでございます。ここに来られるのは何時ぶりの事でしょうか?」
「ああ、久しぶりだな。ちっとてめぇの力を借りたくてな」
「なんなりとお申し付けください」
『悪魔精霊』は湖の上に佇んでいたが、ヌーに話し掛けられると直ぐにヌーの居る場所まで転移を行い、その場で跪きながらそう告げるのだった。
「これから当面の間、中央大陸からソフィ共がこの世界から居なくなる。当然ソフィの野郎が保護している『精霊族』も一緒にこの世界から消えやがる事になるんだが、その間はてめぇが『精霊女王』の代わりに精霊樹の面倒を見てやれや」
「は、はい……?」
「てめぇも元々は『精霊』だ。それに今のてめぇは俺と契約を交わしていやがるから、相当の『魔力』を持っていやがるだろう? 精霊女王には及ばねぇだろうが、今のてめぇなら十分に管理が行える筈だ」
「そ、それは問題ありませんが……、何故ヌー様は、奴らに協力するような真似をなさるのでしょう?」
「アイツに別世界へ向かうように告げたのが俺だからだ。さっきも言ったが当然にソフィが出ていけば、精霊女王達も精霊樹から離れなくてはならなくなる。俺の都合で追い出す以上は、その間の面倒を俺が見てやるのは当たり前の事だろう?」
当然の事だとばかりに告げる大魔王ヌーだが、彼と契約を結んで長い『悪魔精霊』の『ダークスピリット』は、信じられないとばかりに目を丸くしながら呆然とヌーの姿を眺めるのだった。
「何を黙っていやがる? まさかとは思うが、俺に逆らうつもりなんじゃねぇだろうな?」
「ハッ!? い、いやそんな、め、滅そうもない……。わ、分かりました。ですが私はあくまで『元』精霊の身で、今は純粋な『精霊』というわけではないですし、精霊女王が治めている状態のまま管理を行えるわけではないのですが、それは良いのでしょうか……」
「具体的にどう変わる?」
「木々に関してはそこまで変化は生じないでしょうが、我々の魔素が森に交ざる事で『精霊』達が戻ってきたときに奴らの『魔力』に少しばかり影響を及ぼす事になるでしょう。端的に申し上げて、今精霊達が扱っている四大元素の『力』が長い目で見れば更に弱まる事に繋がるかと……」
『悪魔精霊』の言葉に、ヌーは眉を寄せるのだった。
「それはてめぇらが管理を終えた後にも影響は続くのか?」
「今の精霊女王の『力』では、元の状態に戻す事は難しいかと思われますので、魔素が完全に抜けきるまで数百年はかかるかと……」
「ちっ! 簡単に行く問題だと考えていたが、そうなってくると話は別になるな。かといって精霊樹や奴らの森を放置しているとまずいんだろう?」
「常に精霊族の者が樹に『魔力』を注ぎ込まなくては直ぐに枯れ落ちるでしょうし、そうなれば『精霊』達は『魔』の概念技法を用いられるなくなるどころか、あっさりと絶滅してこの世から完全に消え去る事となるでしょう」
「仕方ねぇ……。精霊女王の元へ確認を取りに行くか。お前もついてこい」
「はぇっ!? わ、私が精霊女王のところにですか……っ!」
「てめぇが森を管理する事になるかもしれねぇんだ。当事者が行かなくてどうすんだよ?」
「し、しかし、精霊女王や今の精霊達にとっては、悪魔の力を宿した今の私は忌むべき存在の筈なので、出来れば奴らの前に姿を晒したくはないのですが……」
「忌むべき存在だろうが何だろうが、お前が居なければ今後奴らの生存は難しくなるんだろ? だったらお前が協力してやる事で奴らはお前に感謝するしかなくなるだろうが。これは良い機会だと考えて、今後の為に奴らに恩を売ってやればいい」
「わ、分かりました……。貴方に従いましょう……」
「それでいい。上手く行ったらてめぇの支配地域を増やしてやる。何ならてめぇもソフィと契約をさせてやろうか? 今とは比べられないくれぇのとんでもない力を手に入れられるかもしれねぇぞ」
「め、滅そうもない! あんな化け物と契約を交わせば、精神が摩耗するどころの話ではございませぬ。どうか今のまま、貴方様と契約を続けさせてください……」
「ククククッ! そうか。強くなれるっていうのに欲がない事だな。まぁいい、直ぐに中央大陸に向かうからよ、お前も準備を始めやがれや」
「御意……」
そのヌーの言葉に、ほっと一息をつく『悪魔精霊』であった。
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