2052.魔界の西の大陸にある森の中
――アレルバレルの『魔界』にある西方の大陸。
草木が生い茂る森の中、大魔王ヌーはテアを連れて森の奥へと歩いて行く。
この森の中は常に瘴気が立ちこめているが、魔王領域以上の強さを持つ魔族達にとっては、心身に何の影響も及ぼさない為、ヌーは何も対策を取る事もなく普段通りの表情で歩いている。
その隣に居るテアは『魔王』ではないが、彼女は『死神貴族』と呼ばれる幽世の存在である『死神』である為、こちらも森の中に生じる瘴気を一切気にせずにヌーと行動を共にしているのだった。
この『魔界』の西側の大陸はかつてヌーが支配していた大陸であり、煌聖の教団と同盟を結ぶ前までは、この大陸を拠点としていたのである。
大魔王ヌー達がソフィ達の魔王城から遠く離れて、この西側の大陸に来た理由とは、彼がソフィに告げた通りに『精霊』の森を管理させるのに適した『悪魔精霊』と呼ばれる悪魔と会う為であった。
「――」(この世界は前の世界に比べて全体的に暗くて良いな。私たち『死神貴族』はこっちの世界の方が好みだ!)
森から見える空を眺めながら、満足そうにそう口にするテアであった。
「お前が居た世界もこんな感じなのか?」
「――」(ああ。常に闇に覆われていて、冷たい空気と瘴気が立ちこめていて……、そうだな。こことよく似ているよ)
「ふんっ、まぁ俺も色んな世界を渡り歩いたが、ここ程に『邪悪』と呼べる世界は見た事がねぇからな」
「――」(さっき空の上から景色を見渡したけど、森の先にも町なんかが全く見えなかった。ここら辺一帯は元々廃墟か何かだったのか?)
「ここら辺一帯というか、魔界の大陸中の何処を見渡してもだいたい似たようなもんだ。昔から魔王共がそこら中で戦争を行っていやがったからな。建物なんざいくら立て直したところで直ぐに壊れるから、最低限生活が出来れば後はそのままってのが常だな」
「――」(とんでもねぇ話だな……。あ、ちょ、ちょっと待ってくれよ! もしかして食べ物なんかも森の中で自足的に木の実とか取って食べる感じなのか!?)
「ククッ、お望みならそうしてやろうか? まぁ、安心しやがれ。今日だけ我慢すりゃ、どうせまた別の世界だ。まぁ、フルーフの野郎の根城へ向かえば直ぐに戦いが待っているだろうからな、まずは向こうの世界で美味いもんでも探してみるか」
「――」(あ、ああ……。しかしあれだな、故郷の世界へ戻ってきたっていうのに、なんか寂しくなるような話だな……)
食べ物一つとっても、別の世界の方がいいとヌーに遠回しに言われた事で、この世界が如何に閉塞的なのかというのを知ったテアであった。
「……ここはあくまで戦地の世界だからな。平和な場所なのはソフィの居る『中央大陸』か、人間共の居る『人間界』くらいだろうな。その『人間界』もソフィのおかげで今は何とかなっているが、ミラの奴の目論見通りにソフィが別世界から戻れなくなっていた場合、直ぐに『人間界』もここ『魔界』と何ら変わりのない『廃墟の世界』へと変貌を遂げていただろうよ。それなのに『人間界』の人間共は、ソフィが元凶だと思い込んで何とか討伐してやろうとか考えていやがるから救えねぇ話だ」
「――」(ふーん、なるほどな。でもそこまで言うなら一度は『人間界』の様子も見てみたいな)
「行ってもいいが、今は本当につまらねぇぞ? 煌聖の教団の残党共が王国中を操っていやがるし、ディアトロスの野郎も居ない今では、ダイス王国全体が病んでいる状態だろうしな。まぁ今後はまた戻ってきたソフィが何とかするだろうが、正直言って現状を維持するのがやっとだろうな。あんな場所よりまだ『魔界』に居た方が気分が晴れるぜ? ま、てめぇが行きてぇっていうなら、一度くれぇは連れて行ってやってもいいがよ」
行っても大した事はないと告げるヌーの言葉に、テア自身もだんだんと行く気が失せていくのであった。
「――」(美味しいものが食べられる場所に行きたい……)
「クククッ! そうだな。またその内、美味い魚をたらふく食わせてやるからよ)
「――」(ああ、それを楽しみにしておくよ!)
自分の好きな魚料理をテアも気に入ってくれている様子なのを見て、満足そうに頬を緩めたヌーであった。
「さて、着いたぞ。ここに目的の奴が居る筈だ」
そして遂に目的地である森の中にある湖に辿り着いたヌー達であった。
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