2051.ソフィは新たな仲間を得る
「誰かと思ったらお主か、イツキ殿。全く、お主が『隠幕』を覚えた事で、我も身の危険を感じざるを得なくなったではないか」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。殺したところで死ぬ気がねぇ癖によ……。どうせマジに俺が殺ろうと手を出したとしても一瞬で仕留めねぇと、あの緑色の光に包まれた後に直ぐに再生するんだろう?」
「クックック、さてどうであろうな……。良ければ一度試してみるか?」
「……遠慮しとく。せっかく大きい目標を持って、俺の大事な仲間連中とも別れてきたってのに、見えている地雷をわざわざ踏んで無駄にしたくねぇしな」
「ふむ。お主の目標とはヌーを倒す事か? それともその先に何かを見据えておるのか?」
その質問をソフィが行った時、表情は笑っていた時のまま柔らかかったが、目だけは笑っていなかった。
「それを聞いてどうしようってんだ? 悪いが当分はアンタと戦う予定はねぇぞ? 直近で俺が『化け物』だと思っていた連中が、軒並みアンタにボコボコにされてやられてんだからよ。今更ふいをついたところで俺がどうこう出来る相手じゃねぇのは、嫌という程に理解してるしな」
「我も別にそういうつもりで聞いたわけではないのだがな。だが我はお主にも期待しているのだ。実際に手を合わせたという事もあるが、まずお主は『金色の体現者』だ。これまで我の見てきた体現者達は、それぞれが自身の会得した『特異』を活かして強さを証明してみせてきた。もちろんそんな体現者達の中にはお主と同じ『人間』達も居て、種族間の寿命に関係なく世界に影響を及ぼしてきたのだ。そんなわけでお主がいつ化けてもおかしくはあるまい?」
ソフィの口にした『人間の金色の体現者』とは、少し前に戦ったシゲンではなく、大賢者エルシスの事を思い浮かべていた。
ここ最近は一つの世界だけではなく、数多くの世界の者達と交流をする機会が増えた事もあり、ソフィの過ごした過去の数千年よりも幾分かは『金色の体現者』と出会う機会が間違いなく増えてはいる。
だが、それでも『人間』にして『金色の体現者』というのは非常に珍しく、未知なる『力』を持った人間に対してソフィは、非常に期待を有しているのであった。
「そうかよ。ま、アンタが俺に期待していようが、そうでなかろうが俺の知ったこっちゃないが、そうだな……。俺の目標をアンタには教えておいてやってもいい」
ソフィは先程イツキに断られた時点で、もう聞く機会を失ったものだと考えていたが、話の中でその失われた機会をもう一度得る事が出来そうになり、期待する目に変えたのだった。
「俺は俺の手の届く範囲に居る仲間たちの願望を叶えてやれるだけの力が欲しいんだよ。そいつが何かを手に入れたいと言い出したなら、手に入れられるように協力出来るようにな。これまでは他人の力をアテにしている部分が大きかったんだ。だから結局は本当に欲しいものを手に入れるのに時間が掛かった。何でも出来る……自由を手にする事が最善である事には変わりはないが、その自由を手に入れるのには、他人ではなく自分が強くなってしまえば手っ取り早いって事に気づいたんだよ。いや、気づかされたっていう方が合ってるかもしれねぇがな」
イツキにそう思わせたのは誰なのか。その事を彼はわざわざ明言はしなかったが、ここ最近の出会いの中で彼が変わったのだとしたら、おのずと誰の事を言っているのかを理解するのは容易である。
「クックック、お主が強くなりたい理由は仲間の願望を叶える為か。なるほど、どうやら我は期待以上の答えを聞けたようだ。イツキ殿、お主が仲間の願望を叶えられる程の力を手にするまで我の元に居るつもりはないか?」
「は? それはあの女組長のように魔王軍に入って、アンタに仕えろって話か?」
ソフィは何故イツキがその話を知っているのだろうかと少しばかり訝しんだが、今の本題は別にあると考えてひとまずは後回しにする。
「別に魔王軍に入れというわけではない。ただ、お主が今よりも強くなっていく様を見届けてみたいと感じたまでの話だ。我は自身の願望の関係もあって強い者を好む性分だが、それ以上に人間が強くなっていくところを見るのがとても好きなのだ。人間とは魔族に比べて非常に短命な生物だ。それ故に魔族達から見くびられがちではあるが、強くなろうとする者に種族は関係ない。それは我の友やお主の世界に居た者達が証明してくれている。与えられた時間が少ないからこそ、人間達は強くなるのにとても真剣であり、強くなろうとする努力を怠らぬ。だからこそ結果は否応なしについてくるのだと我は考えている。お主は今この場で我に強くなろうとする気持ちを伝えてくれた。何度も言うが、その答えを聞いて我は間違いなくお主は強くなれると感じたのだ。だから可能な限り、お主の成長を見届けたいと願ったわけだ」
ソフィはイツキを見ながらそう告げているのだが、何処かその視線の先には、目の前のイツキだけを見ているのではなく、まるでイツキの未来の姿を見据えているようにイツキ本人には感じられたのだった。
そしてイツキは少しの間、考える素振りをソフィに見せた。
――これはイツキの演技ではなく、本当に彼自身が真剣に悩んでいる姿であった。
「……俺はな、実はアンタが煌阿と戦っている辺りから、ずっとアンタの強さを盗もうと観察を続けてきたんだ。もちろん俺が強くなる為に必要な事だと考えた上での判断だった。しかしこれが中々上手く行かなくてよ、小憎らしい妖魔召士に『意味がない』みてぇな事を言われちまったんだよな」
「ふむ……」
これがどういう答えの前置きなのか、まだソフィには分からなかったが、イツキが真剣に悩んだ末の言葉なのだと判断し、答えを急がせるような催促じみた言葉などを口にせず、ソフィも真剣に耳を傾けた末に相槌を打った。
「だからよ、次にそいつに会った時に、実力で証明してみせてやりてぇと思ったわけだ。そいつはこの世界にいねぇからよ? 俺がどうやって強くなってもそいつには確かめようがねぇだろう? だから――……」
「盗み見るだけじゃなくて、アンタの傍でじっくりと観察させてもらう事にするよ。それくらいいいよな? アンタが俺の強くなっていくところを見たいって言うんだったら、その手伝いを他でもないアンタ自身に協力してもらう事にするよ」
それは遠回しではあるが、ソフィの元に居る事に決めたのだとこの場で口にしたのであった。
「クックック……! お主は本当に面白い言い回しをする奴だな。よかろう、我の力を得たいと言うのであれば、盗み見るのではなく、堂々と観察をさせてやろうではないか」
だからこそ、ソフィもまたイツキの出した答えに真摯に応えるのだった。
「言質は取ったぞ? せいぜい俺に利用されてくれ」
そう言ってイツキは笑いながら、ソフィに向けて手を差し出す。
「よかろう。その代わり、必ず強くなった姿を我に見せると約束せよ」
ソフィもまた返す言葉でそう告げて、差し出されたイツキの手を握って互いに固い握手を行うのであった――。
「任せろよ、そんでアンタにいつかあの時の借りを返してやるぜ!」
普段は一人だけの静かな玉座の間だったが、今はイツキという人間の言葉によって、この見慣れた部屋が、少しだけ違う場所のように思えたのだった。
――そしてソフィは、その場所を『非常に居心地が良い』と感じられたようである。
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