2049.アレルバレルの世界の者達と、ノックスの世界の者達
「それにしてもこの場に『ディアトロス』殿や『ブラスト』の奴が居ないというのが惜しいな。ソフィ様の紹介にあった通りなら、アンタは間違いなく大賢者『エルシス』に匹敵する程の『魔』の概念理解者だ」
「ええ、間違いなくそうでしょうね……。それにエルシス殿にしても貴方にしても、いつも驚かされるのは『人間』が恐ろしい『魔』の力を秘めているというところね。そちらの『イツキ』殿も『金色の体現者』という話だったわよね。本当に驚きよ……」
エイネとイリーガルは、ノックスの世界からソフィと共に一緒にやってきた者達を見渡しながら、何と恐ろしい世界があったものだとばかりにしきりに話し始めるのだった。
「しかし俺が一番驚いたのは、人間の女剣士……アンタだな」
「えっ!? わ、私の事かい?」
ヒノエがエイネ達の話に同意するように『そりゃ驚くよなぁ』と呟き頷いていると、突然にイリーガルがヒノエの方を向いて話し掛けてきた為に、イリーガルに対して反応が遅れてしまい、二度見しながら自分を指差しながら声を上げるのだった。
「ああ……そうだ。ただ立っているだけで分かる。俺たちの間合いを正確に理解してそこに立っているんだろう? 俺には分かる。この場で俺が何の前触れもなくアンタに襲い掛かったとしても、それに対処が行えるだけの距離感を保ちながら、常に腰に差している刀を抜きやすいように鞘の向きまで合わせてある」
「へぇ……。これは驚いたな。そこまで分かるのかい? この短時間でそんな注意深く見られているとは思わなかったよ。私の立ち振る舞いを一目で見極められたのは、本当に何時ぶりの事かねぇ……」
ヒノエは両手を上げながら、イリーガルに感服したとばかりにそう告げるのだった。
「俺は古くからソフィの親分の忠実な配下にして、魔王軍の『九大魔王』という立場に居る者だ。もし何か気になる事や困ったことがあったら何でも俺に聞いてくれ。アンタの助けとなろう」
普段は寡黙であまり自分から話をしないイリーガルが、どんどんと話し掛けている様子を見て、リーシャは慌ててエイネの元に駆け寄り、こっそりと耳打ちをし始めるのだった。
(ね、ねぇ、エイネさん! あのイリーガル様が、初対面の人にあんなに話しかけてるのあたし見た事がないよ!)
(え、ええ……、私もよ。彼の武人としての何かが、あのヒノエって子に刺激されたのではないかしら……?)
(よく分からないけどぉ、あのヒノエって人間も徒者じゃないわねぇ!)
コソコソとリーシャとエイネが内緒話をしていたが、魔族である者達には全て彼女達の会話が筒抜けであり、当然イリーガルもエイネ達の話を聞いていた。
「別に武人として何かを刺激されたというわけではないが、当然ヒノエ殿と戦ってみたいという気持ちは芽生えた事は確かだ」
「あ、あはは……っ! 聞いていらしたんですねぇ? そ、そうですか、イリーガル様がそのように仰られるなんて珍しいですねぇ?」
リーシャは参ったとばかりに両手を胸の前に上げながら、取り繕うようにそう口にするのだった。
「そう言えば妖魔退魔師の者達の中で、我はヒノエ殿が戦っているところを見た覚えがない気がするな」
「あ、あれ、そうだったかな……。退魔組の連中とやり合った時に、ソフィ殿と私は行動を共にしていたと思うんだけどなぁ」
ソフィの言葉には直ぐに反応を示したヒノエは、過去を思い返しながら慌ててそう返事をするのだった。
「その時はソフィ殿が俺と戦っていた時の話だろうよ。どうせ俺がソフィ殿にぼっこぼこにされている最中に連中とやり合ったんだろうさ」
退魔組の話題が出た事でこれまで静かに立っていたイツキが、かつてのソフィと戦った時の事を思い出して、嫌そうな表情のままで会話に参加してくるのだった。
「あ、ああ……。ワリィな、そうだったかもしれねぇな、は、ははは……!」
大地に崖が出来る程の惨状を生み出す壮絶な戦いを繰り広げた末に、ソフィに完膚無きまでにやられてしまったイツキの心情を気にしたヒノエは、苦笑いを浮かべるのだった。
この世界の者達が新たにこの世界に来た『ノックス』の者達と会話を交わす中、じっと静かにソフィの元から片時も離れぬまま、まるで護衛をしているような立ち振る舞いを続けている六阿狐の傍に、リーシャが近づいて声を掛けるのだった。
「ねぇねぇっ! あたし君を一目見てからずっと気になっているんだよねっ! ソフィ様から軽い説明にあったけどさ、君って『妖魔』って呼ばれる者達の『妖狐』っていう種族何だっけ? そんなに幼く見えるのに、凄い落ち着いているよねっ!」
「えっ、あ……、そ、そうでしょうか? そ、その……、私は元の世界の主にソフィ殿の元を片時も離れるなと命令をされておりまして、そ、その、ソフィ殿の側近である貴方がたからしてみれば、この新参者が、と思われるかもしれませんが、これだけは、ゆ、許して頂けると……っ!」
「全然大丈夫だよっ! そんな事きにしなくていいからさ。ねっ、それよりあたしと友達になってよっ! 六阿狐ちゃんは何が好きなの?」
六阿狐が困った様子で説明を始めると、リーシャは目を輝かせながらそう言って、その後も都度彼女に相槌を行っていた。
どうやらリーシャは、相当に六阿狐の事を気に入った様子である。
「ふふっ、リーシャさんだったかしら? この子は少し前まで貴方と同じくらいの年齢の子ととても仲良くしていたのだけれど、さっきのこの子の話し通り、命令でこの世界に来る事が決まって離れ離れになっちゃったの。だから良ければ仲良くしてあげてね?」
「えっ、そうなんだ……っ! 分かったよ、お姉さん! あたしがその子の代わりになれるかは分からないけど、これからいっぱいお話するよ! よろしくね、六阿狐!」
「は、はい……! よろしくお願いします。 そ、それと、あ、ありがとうございます、耶王美様っ!」
「ふふっ、どういたしまして。それじゃ私は愛するエヴィが待っているから、彼の元へ行くわね」
いったい何時から彼女は六阿狐達の会話を聞いていたのだろうか。上手く行くようにとばかりにリーシャ達に優しく声を掛けた後、耶王美は自然な形で来た時と同様に離れて行くのであった。
「耶王美さんってエヴィ先輩と凄い仲が良さそうに見えるけど、実際にはどういう関係なの?」
「えっと、とても仲睦まじいご様子でしたよ? 確か耶王美姉さまは、エヴィ殿の事を掛け替えのない同志とか、運命の相手だとか言っていた気がします」
「ふーん、運命の相手……ね。また今度耶王美さんとも話をしてみるよ。それよりさ六阿狐ちゃん、私には敬語は必要ないからさ、普段通りに喋ってくれると嬉しいな。元居た世界に仲が良い子が居たんでしょ? その子と話をしていると思って接して欲しいって思うんだけど、どうかな?」
「えっと……。す、直ぐには無理かもしれませんが、ど、努力しま……っ、するね?」
「えへへ、ありがとう!」
ソフィはリーシャ達がその後も楽しげに会話を行っているのを見て、どうやら無事に打ち解けられたようだと判断し、安心するように頷いて見せるのだった。
「ふふっ、上手く行って良かったって顔だね? 君は化け物みたいな強さをしているのに、こういう優しい一面を見ると非常にアンバランスで面白いよ」
いつの間にかソフィの近くに現れた神斗が、腕を組みながらソフィと同様に周囲を見渡しながらそう話しかけてくるのだった。
「クックック、お主は混ざらなくて良いのか? まぁ、お主と一番に気が合いそうなのは、今は『リラリオ』の世界に居るのだがな」
「へぇ……? 君が僕を見立ててそう言ってくれるなら、相当にその子とは気が合いそうだね。女の子だったりするのかな?」
「いや、見た目も中身も相当の爺で間違いないな」
「……それは僕に喧嘩を売っているのかい?」
「ははははっ、お主らは存外に息が合っているではないか。横で聞いていて思わず声を掛けたくなってしまったぞ?」
ソフィと神斗の寸劇じみた会話を傍で聴いていた『シギン』は、思わずと言った様子でソフィ達の会話に参加してくるのであった。
……
……
……
各々が親し気に喋り始めているそんな横で『セルバス』と『シグレ』は互いに見つめ合いながら、こちらは独自の世界を繰り広げているのであった。
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