2047.最高級の酒と、レグランの実
アレルバレルのソフィの魔王城の中、九大魔王達を交えた会議はそれなりに時間を要したが、無事に今後の予定なども含めて話し終えるのだった。
途中あの極悪非道で暴虐の限りを尽くしてきた大魔王が、敵である筈の大魔王ソフィの配下の九大魔王『リーシャ』に謝罪を行うという予想外の出来事もあり、この会議に参加した多くの者達が驚きを見せたが、主である大魔王ソフィが動揺を見せずに笑っていた事もあり、それ以後は大きく話題に挙がる事もなかった。
ただあの謝罪の後直ぐまでは、あまりの他の者達の動揺っぷりに、ソフィが非常に嬉しそうにしていたのが、九大魔王達にとっても印象的に残るのだった。
「それでは我達は当面の間、リラリオの世界へ向かう事とする。向こうの世界の我の拠点に『ディアトロス』や『ブラスト』に『ユファ』も居る為、お主達も旧交を温めておくといい」
最後に告げたソフィの言葉に、分かりやすくエヴィが嬉しそうに顔を綻ばせた。
それは同じ九大魔王の中でエヴィが特に仲が良かったのが、この場に居る『リーシャ』を除けば『ディアトロス』と『ユファ』だからであろう。
エヴィから見た『リーシャ』は妹のような存在。そして『ディアトロス』は同じ『呪法使い』にして、自分より『呪法』の分野の『魔』の概念理解度が深められている大先輩の存在。
――そして最後に『ユファ』は、エヴィがこの世の何もかもを諦めて、この世から脱却しようとしたところを『諦めるな』と叱責する形で、自殺しようとしていた彼をこの現世に留めてくれた大恩人なのであった。
…………
大魔王ヌーは会議が終わった後、この場に居るソフィの陣営に居る者達の顔を見渡した。
(ソフィと共に行動が出来ると分かったら、全員があっさりとこの世界から離れる決断をしやがるか。本当にこいつらは自分達が如何に『アレルバレル』の魔界中から、どんな風に思われているかに興味を持っていやがらねぇんだな。自分達の魔界での地位よりもソフィと生きていく方が重要ってわけか。俺にはそこまではまだ理解が出来ねぇな……)
これまで自分以外を信用せずに、このアレルバレルの世界を支配する事だけを意識して生きてきたヌーにとってみれば、ソフィの配下として生きていく事を決めたとはいっても、ここに居る魔族達は各々が世界を支配出来る程の力を有している『大魔王』達なのである。
他者の下に付く事を決めた『九大魔王』の面々と、自分が『王』として君臨する事以外の考え方を持たない『ヌー』とでは、今回のような行動一つとっても、理解がし難いと考えたようだ。
しかしそれでも『ノックス』に行く前よりかは、僅かながらにヌーにもソフィが慕われている理由が理解出来るようにはなってきていた。
それは彼自身が当人に告げたように『共に居て悪くはなかった』という言葉に表れていた。
『ノックス』の世界で経験した数々の出来事は、大魔王ヌーの今後の価値観に大きく影響を及ぼしたであろう事は間違いがなかった。
他の大魔王達の話を聞きながら思案の海に潜っていたヌーだったが、やがて小さく息を吐くと椅子から立ち上がるのだった。
「さて、お前らの意思は理解した。それぞれ準備もあるだろうから、明日の昼頃にまたここに来る。ソフィ、てめぇを跳躍ばす場所の座標だが……、いや座標じゃ伝わらねぇか。てめぇが支配していやがった国ではなく、俺があの世界に向かった方の場所でいいな?」
「うむ。リラリオの世界にさえ送り届けてくれたなら、後は我が何とかしよう」
「ああ……。それじゃ、また明日な?」
「ヌーよ、わざわざ出て行かぬとも、今日のところは我の城に泊って行かぬか? 色々とお主と話しておきたい事もあるのだが……」
「……」
ソフィの突然のヌーに対しての申し出に『九大魔王』の面々は、各々が喋る言葉も止めて、成り行きを見守り始めるのだった。
「悪いな、俺にもフルーフとやり合う為の準備がある。それに中央大陸を守る連中の手筈も整えなきゃならねぇしな」
「そうか……。そうだったな、忙しいところを呼び止めてすまなかった」
ヌーに申し出を断られたソフィは、少しだけ寂しそうな表情を見せながらそう口にするのだった。
やがて背を向けて城の中を歩き始めていくヌーだったが、部屋の外に出るタイミングでその足を止めたかと思えば、ソフィの方を振り返って口を開くのだった。
「全てが片付いたら……、いつかは酒に付き合ってやる。せいぜい最高級の酒を用意して、俺を饗す準備をしておくんだな」
「「!?」」
まさかのヌーの返事にエイネ達は、これまでより一際大きく驚くのだった。
「クックック! 良いだろう。その時はお主に『レグランの実』の素晴らしさを伝えてやろう」
(レグランの実……、何だそりゃ……?)
突然に謎の食べ物の話題を出されて戸惑いの表情を浮かべたヌーだったが、ドヤ顔をしているソフィに訊ねるのも気が引けたのか、そのまま無言でソフィを見つめていた。
――やがて。
「……分かった。それじゃ、俺はもう行く。ああ、それと精霊女王の居た森には、俺が契約している『悪魔精霊』に色々と世話をさせておいてやる。女王の奴にそれも伝えておけ」
今度はソフィの返事を待たず、そのまま部屋を出ると同時に『転移』して、テアと共に魔王城から消え去るのだった。
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