2046.ここにもヌーの変わりようを悟る者達
ソフィの魔王城の中は十分な広さがあるが、それでも侵入者を惑わす『結界』なども張ってはおらず、広さを活かした迷路のような造りになっているというわけでもない。
入り口から真っすぐと廊下を進んでいき、それぞれ魔王軍の配下達の居る部屋を通って道なりに進んでいけば、直ぐにソフィの居る玉座の間に辿り着く事が出来る程にシンプルな造りとなっている。
当然に待ち構えている魔王軍の配下達は、その誰もが億の戦力値を有しており、かつてこの城に攻め込んで来た勇者マリスとその仲間達だけでは、到底倒す事は出来ない程の強さを持ち合わせている。
しかしソフィ自身としては、そのように配下達を仕向ける必要性すら感じておらず、城の中に侵入してくるというのであれば、そのまま自分の前まで通していいとも考えている程であった。
あくまでそうしない理由としては、幹部である『九大魔王』の面々が、それでは他の大魔王達に対してこの城の警備の脇が甘いと思われるから、あくまで体裁だけでも保って欲しいと強く願われた為に配置しているようなモノなのであった。
そもそもここに侵入してくる者などすでに魔界では存在しておらず、数十年に一度だけ『人間界』から、マリスのように『勇者パーティ』が攻め込んでくるくらいのものである。
この大魔王ソフィに正面切って戦おうとした『魔族』など、直近を思い返せば大きな戦争を引き起こした大魔王『ヌー』くらいのものである。
本来であれば誰もがアレルバレルの世界を狙おうとする程、この世界には大きな野心を持った魔族達ばかりが集まっていたのだが、ソフィが表舞台に出て来てから早数千年が経ち、その間に起きた『第一次魔界全土戦争』や『大魔王ロンダギルアの変』に『大賢者エルシスとの一戦』などを通して、魔界全土が中央大陸に居る大魔王ソフィを敵に回せば何もかもが終わりだと強引に理解させられてしまい、この中央大陸だけは『魔界全土』で一番平和な場所になり果ててしまったというわけである。
そんな平和となった中央大陸にある魔王城の中、ソフィは現在の人数全員で話を行うのに適切な部屋を選ぶと、全員を椅子に座らせるのだった。
…………
この魔王城でソフィの帰りを待っていた者達全員と、ソフィは軽くではあったが改めて挨拶を交わし終える。
本来であればエヴィと無事に再会を果たした事や、ソフィの帰還を祝して盛大に祝いの場をこのアレルバレルの世界で設けたいエイネ達であったが、この後にソフィと行動を共にしていたヌーが大魔王フルーフと交わしている契約が残っている為、ソフィがそれを優先する事を決めた事で、また『リラリオ』の世界へ移動を果たした後に皆で再会を祝おうという事になったのであった。
そしてノックスの世界へ向かう前には、この場に居なかった者達の紹介も軽くではあるが行われた。
しかし詳細はこちらも『リラリオ』についてからという事になった為に、エイネ達がヒノエ達の事に関して理解出来た事は、その名前とノックスで世話になった者達だという事だけであった。
だがエイネやリーシャは、直ぐにヒノエという人間の女性と、六阿狐という妖魔の妖狐がソフィに向けている視線と態度の理由に敏感に気づいており、これはどういう事なのだろうかとソフィに対する疑念を持ちつつ、しかし口には出さずに事の成り行きを見守っているのだった。
「ひとまずの我からの話は以上だ。後はこの後の事だが、実はヌーが世界間転移に協力してくれるという事なのでな、お主らさえ良ければこのまま我と共に『リラリオ』の世界に移動してもらいたいのだ。もちろんここに残る理由があるという者には強要はせぬが、フルーフとヌーが契約の元に戦闘を行う間は、場所を変えてもらう事になる。なので最初にも言ったが、出来れば我と行動を共にしてもらえると助かるのだが……」
ソフィはこれまでにあった事や、これからヌー達が行う事についても軽くではあったが、全ての説明を終えるのだった。
「もちろん私はソフィ様の元へ行きます」
そして一番最初に『九大魔王』のエイネがそう決意を表明すると、直ぐに隣に座っているミデェールも頷いた。
「僕もエイネさんと一緒に、ソフィ様と『リラリオ』の世界へ向かいます」
エイネと恋人関係にあるミデェールは当然のようにそう告げて、それを聞いたエイネも大きく頷いて見せるのだった。
「当然、俺も親分と一緒に行きます。せっかくこっちの世界に戻してもらった身ですが、フルーフ殿達の事情がある以上はそれを優先してもらって構いません」
次にこちらも『九大魔王』の一角である『イリーガル』が決断するのだった。
そしてこの場に残っている幹部で九大魔王は、リーシャのみとなった。当然に皆の視線は、そのままリーシャに向けられた。
「本音を言えば、あたしはフルーフ様と一緒に気持ちで戦うレアと一緒に居てあげたいんですけどぉ……、でもあたしが残ったとしても、さっきの話の通りだとレアと一緒には居てあげられないんですよねぇ?」
「うむ。こやつとヌーの戦いの場からは、お主であっても離れてもらう事になるな」
「で、ですよねぇ……。でしたら私もソフィ様と一緒に行かせて頂きます」
リーシャはエイネとは別のもう一人の姉代わりであるレアが、辛い立場なのを重々承知であった為、出来るならば残って最後まで、気持ちだけでも一緒に戦いたいと考えた彼女だったが、それが叶わないと知って残念そうに顔を俯けながらソフィと共に行く事を決めたのだった。
そこで腕を組んでリーシャの言葉を聞いていたヌーが、小さく息を吐いた後に言葉を出し始めるのだった。
「奴との戦いには部外者は誰も入れたくねぇんだ。神速、わりぃが今回ばかりは遠慮してくれや……」
――次の瞬間、場は水を打ったように静かになった。
そしてしばらく経った後に、まるで止まっていた時間が唐突に動き始めたかのように場は騒然となった。
「え、えぇっ!?」
「あ、あの最恐の大魔王がリーシャに謝っただと……!?」
「嘘っ! し、信じられない……」
あの極悪非道な最恐の大魔王である『ヌー』が、リーシャに対して申し訳なさそうに謝った事に、九大魔王の面々は驚きで口々に声を上げるのだった。
その事に対してヌーは小さく舌打ちをするだけで、それ以上は何も言わずに押し黙っていた。
そして周りの反応を楽しむかのように、ソフィだけは嬉しそうに笑っていたのだった――。
……
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