2043.精霊女王との再会と深い関心
ヌーの『概念跳躍』の魔法によって、再びアレルバレルの世界へと戻ってきたソフィ達。
常に争いが絶えない『魔界』ではあるが、このソフィの魔王城がある中央大陸だけは、何千年も平和と呼べる状態が続いており、近くの森の中の湖ではソフィに保護される形ではあるが、かつてのように平穏に『精霊族』が暮らしている。
「ソフィ!」
そして戻ってきたソフィの元に多くの光が集まって来ると同時、彼を呼ぶ女性の声が聞こえてくるのだった。
「む?」
自分の魔王城を見上げていたソフィだが、自分を呼ぶその声に後ろを振り返ると、人間の幼子と呼べるくらいの年齢の風精霊を多く引き連れた精霊女王の『ミューテリア』が、嬉しそうにソフィの元へと駆け寄ってくるのだった。
「おお、ミューテリアか!」
「戻ってきたのね、ずっと待っていたのよ!」
「クックック、すまぬな。お主も知っていると思うが、煌聖の教団の手によって別世界へ送られてしまった者達の救出に向かっていたのだ」
ソフィの説明に隣に立っているエヴィの顔を見て、顔を綻ばせているミューテリアだったが、その周りに居る見知らぬ者達を警戒してだろうが、顔には出してはいないが、ソフィの元に近寄ろうとする精霊達を必死に自分の背中へと下がらせていた。
大事な我が子を守るように警戒を行うミューテリアを見たソフィは、直ぐにこの場に居る者達の紹介を始めるのだった。
…………
「そういう事だったのね……。警戒してごめんなさい、妾の名は『ミューテリア』。ここに居る魔族ソフィと盟約を結んだ『精霊族』の女王です」
「せ、精霊族……?」
「アンタもアンタの背中に居る子供たちも羽が生えているし、人間じゃねぇとは思っていたけど『精霊』っていう種族なのか……! は、初めて見たぜ」
羽をぱたぱたと動かしながら空を飛んでいる精霊や、恐る恐る自分に視線を向けている子供の精霊を見て、ヒノエは興味深そうにそう口にするのだった。
「私たちの世界では『精霊』という種族は存在していないからな。しかし貴方やその子供の精霊達からも妖魔退魔師達より遥かに多くの『魔力』を感じられる。もしかすると貴方がたもこの世界の『理』の『力』を用いる者達なのだろうか?」
ヒノエとはまた少し違う意味で、興味深そうに精霊族を見ていたシギンがそう告げると、ミューテリアは少し困った様子を浮かべた後、何処まで話をしていいのかとばかりに、助けを求めるようにソフィに視線を送るミューテリアだった。
「ミューテリアは我達の使う『理』とは異なるこの世界の『理』を独自に使っておる。そもそもが、我達が使っている『理』は、古くに人間の大賢者であった『エルシス』という者が生み出した『理』でな、今ではこの『アレルバレル』の世界の大半の者達が、このエルシスの生み出した『理』を用いているのだが、それより更に遥か昔には、この『ミューテリア』が生み出した『理』こそが、この世界の原初の『理』だったというわけだ」
「昔の話だけどね。今ではもうこの世界の上位層に対しては、何の影響力もない『理』に過ぎないのだけれど……」
この世界の『魔』の概念の原初の『理』は、かつてのリラリオの世界と同じく『精霊族』達のものであったが、後に大賢者『エルシス』が編み出した神聖魔法の基となる『理』が魔族達に広まっていった事で、今ではこの世界の『理』と言えば、ミューテリア達『精霊族』のものではなく、人間の大賢者『エルシス』の『理』のものとなっている。
しかしそれでも人間界では精霊族の名残があり、今でも一部の人間達は『精霊族』の『理』を用いた魔法を使い続けているのも事実である。
それでも人間界の多くの者達もまた、煌聖の教団のミラの扱う『魔法』が主流となってしまっている為、今ではもう『精霊族』の『理』は珍しくなりつつあり、信仰も薄れ始めているというのが実状であった。
それでも何とかしっかりとまだ『理』が体現出来ているのには、すでにこの世界の一部として当たり前のように浸透している『精霊族』の『力』である『レプリアー』と、精霊族によって選ばれる『勇者』の恩恵のおかげであった。
だが、全盛期の精霊族の『力』に比べると、今ではもうその影響力も失われており、精霊族の『理』を用いた『魔法』は種類こそ多種多様ではあるが、そのどれもが『超越魔法』までに留まってしまっている。
戦闘面においては最早、エルシスの『理』を用いる魔界の魔族達や、煌聖の教団の大賢者ミラがエルシスの『理』の改変を用いた『理』には火力面で遠く及ばず、精々が『高等移動呪文』や精霊族の代名詞と呼ばれる『四大元素』の『力』を使った『魔法』でしか『理』の存在を示せてはいない。
この世界の『精霊族』の『理』に関して、大魔王領域に居る者達からすれば『使えないよりはマシ』程度に過ぎなくなってしまっているという事なのであった。
その事に関しても精霊女王は、情けなく感じつつ正直にそして、包み隠さずにシギン達に打ち明けた。
だがその話を聞いたシギンは、ミューテリアの生み出した『理』に失望するどころか、目をキラキラと輝かせて口を開いた。
「しかし貴方が生み出した『理』があったからこそ、ソフィ殿達が扱うような天候を司る『魔法』が生み出されたという事で間違いがないのであろう? み、ミューテリア殿! もし、もし良ければ私にも貴方がたの『理』を教えては頂けぬだろうか! 私は貴方がた精霊族の生み出した『理』に非常に関心があるのだ。是非ご教授願いたい!」
「えっ……!?」
ミューテリアはそのシギンの言葉に驚き、思わず無意識に子供たちを守る為に後ろに回していた手を口元に持っていくのだった。
「クックック……。本当にシギン殿は変わらぬな。実はお主こそが『魔』の概念の権化と言われても驚きはないぞ」
「むっ、す、すまぬ。確かに不躾であった……。ミューテリア殿、突然の言葉申し訳なかった。しかし私は本当に貴方の『理』を大変素晴らしく考えている。暇な時で構わぬからまた私と話をしてもらえないだろうか……」
「え、ええ……。わ、妾なんかで良ければ、いつでも……」
そう言ったミューテリアの表情は、まだ驚きの方が大きい様子であったが、すでに忘れ去られつつある自身の編み出した精霊族の『理』に関心がある様子を見せられて、内心ではシギンの言葉に強く惹かれつつある精霊女王なのだった。
「本当にソフィ殿じゃないけどさ、君って変わっているよね。でもそういう君だからこそ、そこまで『魔』の概念理解度を深められたんだろう。そしてまた今後もどんどんと知見を広めていくんだろうね……」
呆れるように神斗はそう言って、シギンの肩に手を置きながら溜息を吐くのだった。
…………
「どうでもいいけどよ、話の続きはリラリオの世界でやってくれねぇか? それにまずは魔王城の中に居る連中にも話をつける方が先だろうがよ」
そして何とかここまで我慢して空気を読んで黙っていたヌーは、顔を引きつかせながらそう静かに言葉を漏らすのだった。
……
……
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