表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2050/2211

2033.奇妙な予感

 ヒノエとスオウの両組長が最後の挨拶を交わすところを見ていた各々が、この世界から離れる者達に思い思いの挨拶を交わし始めていく。


 当然それはソフィも同様であり、妖魔退魔師の総長であるシゲンや副総長のミスズ、ゲンロク達とも別れの挨拶を行っていく。


 そして挨拶に一区切りをつけたソフィが辺りを見渡すと、セルバスの隣でシグレも涙を浮かべながら、ミスズと別れの挨拶を済ませているところであった。


「本当なら貴方を立派な妖魔退魔師に育て上げて、私の後継として『特務』で働いてもらいたいところでしたが、仕方ありませんね。しかしこれだけは忘れないで下さい。貴方の剣の才はこの私が保証します。もし、剣の道を捨てきれなかった時は、この私の型を練習させた時の事を思い出しなさい。貴方なら私の『霞の構え』を完全に使いこなせる事でしょうから」


「み、ミスズ副総長! わ、分かりましたっ!」


 …………


 そして他のところでもシギンがゲンロク達と挨拶を行っていたり、真剣な表情を浮かべているヌーが、エイジと話をしている場面もあった。


 ふと話の内容が気に掛かり、ソフィはヌー達の話に聞き耳を立て始めるのだった。


「小生が伝えられる事は全てお主に伝え終えた筈。それを活かす事が出来るかどうかはお主次第だ」


「ああ……。お前に教わった事は今も忘れてねぇよ。もう二度と会う事はねぇだろうから、最後に言っておく。お前のおかげで俺は強くなれたと思っている。人間に感謝なんざした事ねぇ俺だが、お前だけは別だ。この先何年経とうがお前という人間が居た事は俺は絶対に忘れねぇ。感謝しているぜ、エイジ」


 そう言ってヌーはエイジに向けて手を差し出し、その手をエイジが握って互いに固く握手を交わすのだった。


(な、何と……! ヌーの奴がエイジに、いや他者に対して感謝の言葉を告げるところを見る事になるとはな。いやはや、何とも感慨深い事だ……)


 そしてヌーとエイジ達を見ていたのはソフィだけではなかったらしく、シグレとミスズが話をしている横に立っていたセルバスもまた、遠目ながら驚いた様子を浮かべてヌーの方を見ているのだった。


 そのままセルバスはソフィの視線に気づいたようで、直ぐに彼もソフィがヌーの事を見ていたと悟り、互いに気持ちを理解し合っているかの如く、両者共に同時に頷き合うのだった。


「今でも信じられませんよ。あの大魔王が人間何かに感謝しているところを見る事になるなんて……」


 そうソフィに口にしたのは、先程まで耶王美と仲良く会話を行っていた大魔王エヴィであった。


「クックック、そうだな。我もお主のように何度もこの世界でヌーの奴を見て驚いてきた。しかしなエヴィ、確かにあやつはこの世界に来た事で色々と大きく変わったのは間違いないのだろうが、あやつの元々の性根は他者想いで真っすぐな奴だったのではないかと最近我は思い始めているのだ」


「えぇっ!? ソフィ様……、さ、流石にそれは……」


「お主はまだあやつとの関係が浅いから分からぬだろうが、この世界で共に旅をしてきた我は、あやつが今のようにエイジと話をするところや、テアと接しているところを多く見てきて、どうも奴自身の本当の性格はそこまで悪いものではないと思えてな。あの世界で生き抜くために、仕方なく非情になっていたのではないかと、ここ最近で我にはそう思えるようになったのだ」


(確かに『アレルバレル』の世界で生活を続けていれば、どんな性格の奴もひねくれてしまうのは間違いないと思うし、僕自身もそれは自覚があるけど、でもあの大魔王ヌーが本当にソフィ様が口にするような性格だったとは流石に思えないなぁ……。でもソフィ様がそう言うなら、信じるしかないよね……)


 普段であれば直ぐにソフィに賛同するエヴィであったが、流石にあの『ヌー』が、本当は仲間想いで真っすぐな性格だったかもしれないと告げられて『まさしくその通りだと思います』とは、口に出来なかったようである。


 そしてソフィがエヴィと話をしている間に、ヌーもエイジとの会話を終えた様子であり、直ぐに視線を向けていたソフィ達に気づいてこちらに向かってくるのだった。


「何だよ? 何を見ていやがった……?」


「クックック、お主がエイジとえらく仲が良いなと思って見ていただけだ。まさかお主がエイジに向けて、感謝の言葉を口にするとは驚いたぞ?」


「ちっ! うるせぇな、世話になった奴に感謝の言葉を口にするのは何もおかしくねぇだろうがっ! そこに居る『天衣無縫(エヴィ)』と一緒にすんじゃねぇよっ!」


「は? ちょっと待て、何でそこで僕を引き合いに出すんだよ?」


 突然の非難めいたヌーの謂われのない言葉に、心外だとばかりに怒りを露にするエヴィであった。


「てめぇは少し前に自分で言った言葉も覚えてねぇのか? てめぇ、この世界でずっと行動を共にしてきていたあの妖魔召士の野郎に対して、勘違いでいきなり殺そうとしていやがっただろうがっ! 少しでも世話になった野郎に気持ちがあるなら、普通はあんな言葉を直ぐには出せねぇんだよ!」


「何? イダラマの事を言っているのか? あれは裏切られたと思ったから言っただけだよ! だから勘違いって気づいた時に直ぐに僕は謝っただろう!」


「だからそれがおかしいんだって言ってんだよっ! そうかもしれねぇって思った事でも直ぐに結論を出さずによく考えるのが普通だろうが。てめぇは『転置宝玉』の刻印を見ただけで勝手にあの人間に騙されたと結論付けて、そのまま殺そうとしたのは事実だろうが。もしあの場でソフィがあの野郎の代わりに釈明していなければ、そのまま殺していたんだろ?」


「それは……」


「別にお前の生き方を否定してるつもりはねぇよ。あの世界でお互い生きてきた以上は、てめぇの行動も理解は出来るからよ。だが、理解は出来ても一緒にされるのは違うだろうって言いたかっただけだ。俺の言っている事が分かるか?」


「ああもうっ! うるさいなぁっ! 分かったからもうあっち行け!」


「ああ!? てめぇは本当にクソガキだな! 正論言われて言い返せねぇなら、大人しく黙っていやがれ!」


「くうう……っ!! こ、この……っ!」


 エヴィが『金色』を纏い始めると、慌てて事の成り行きを見守っていた『耶王美(やおうび)』が、エヴィの元へと走ってきて、そしてテアもまた慌ててヌーの盾になるべく、エヴィの前に出て来るのだった。


「両者その辺にしておけ。今居る場所がどういう場所なのかは分かっているのだろう?」


「す、すみません!」


「ちっ! 悪かったな」


 一時は一触即発といった空気になったが、ソフィのそう告げた後の笑っていない目を見たエヴィとヌーは、直ぐにその空気を変え始めるのだった。


 …………


「やれやれ、これから大変になりそうだな」


「そうだね。それでも君が付いて行くつもりなのは、変わらないんだろう?」


 遠くからヌー達の様子を眺めていた『神斗』と『シギン』が言葉を交わし始める。


「ああ……。サイヨウに会って現在の『真鵺(しんぬえ)』が、一体どういう状態なのかを確かめておきたいからな」


「『真鵺』か。僕としては、出来ればもう会いたくないなぁ」


「なに、お主は無理に会わずとも良いだろう。それに煌阿の奴とは違い真鵺は、サイヨウに『式』にされている身である筈だからな。流石に『式』の状態では奴も逆らえぬさ」


「それでも油断だけはしない方が良いよ。彼は『魔力』も『魔』の概念も化け物だけど、それ以上に頭の機転も効くし、何より彼の口車に乗せられたら非常に面倒な事になるからね。その点では間違いなく『煌阿』よりも厄介だと断言しておくよ」


 煌阿を引き合いに出してそこまで言い切る神斗に、シギンも改めて表情を引き締めるのだった。


「妖魔神であったお主が『いち種族』の長を相手に、そこまでの評価を下すとはな。とりあえずは肝に銘じておくとしよう」


「そうすると良い。まぁ、君から『魔』の概念を享受するまでは、何があっても僕が助けてあげるから安心していいよ?」


「ふふっ、言うではないか」


 この後に『真鵺』が居るという『リラリオ』の世界へ向かう事となった『神斗』と『シギン』だが、彼らは軽快な会話とは裏腹に、決して口には出さなかったが、このまま『真鵺』の元に向かえば取り返しのつかない何かが起きるような、そんな奇妙な予感めいたものを感じ取っている様子であった。

『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ