2032.別れを前に本音を語る、妖魔退魔師組長と元組長
そしてノックスの世界を離れる当日を迎えた朝、部屋にソフィを呼びに来たミスズに案内されて、妖魔退魔師組織の大広間に足を運ぶのだった。
すでに大広間には多くの人間達が集っており、その中にはエイジやゲンロクといった妖魔召士の顔ぶれもあった。どうやらソフィ達を見送る為に、数日前からここに集うように予定されていたのだろう。
エイジは大広間にソフィを連れて戻ってきたミスズの顔をみるなり、彼女に笑みを向けながら手を軽く挙げた。
ミスズは少しだけ顔を赤くしながらも、嬉しそうにエイジに手を振り返していた。どうやらここ数日の間に、更に二人の仲は進展していたようである。
そしてソフィがエイジとミスズの様子を眺めていると、そんな彼の元に近づいてくる女性の姿があった。
「おはよう、ソフィ殿!」
「うむ、おはようヒノエ殿……、む? お主目の下に隈が出来ておるようだが、昨晩は眠れなかったのか?」
「あ、ああ……。実は今日の事を考えている内に緊張しちまってさ、ははっ、気づいたらもう朝になっちまってた」
「クックック、そうであったか。実は我も昨日色々あって眠れておらぬのだ。途中で眠らぬように気を付けねばならぬな」
「えっ……? あ! そ、それなら私がずっと横に居て、ソフィ殿が寝そうになったら起こしてやるよ!」
どうやらソフィが話を合わせてくれたのだと考えたようで、ヒノエは上手くそれを口実にソフィの隣に居ようとするのだった。
「ふむっ、では逆にヒノエ殿が寝そうになったら我が起こしてやろう」
ソフィがそう返すと少しだけヒノエは驚いた後、頬を赤らめながら嬉しそうに首を縦に振るのだった。
「やれやれ……。あのクソババアがここまで変わっちゃうなんてね。ちょっと前までなら信じられないや」
いつの間に隣に立っていたのか、スオウは腕を組みながら感慨深そうに、ヒノエの顔を見ながらそう口にするのだった。
「て、てめぇクソチビ! いつの間に現れやがった!!」
ヒノエは慌てて表情を取り繕うと、照れを隠すように大きな声を出すのだった。
「いつの間にも何も……、ソフィ殿がここに現れた時に一緒に歩いて来たじゃないか。全くもう、本当に今の君はソフィ殿以外は視界に入らないって感じだね。そんな調子のままソフィ殿の世界に行って、迷惑を掛けないように気を付けなよ?」
「わ、分かってるよ! 手前はいちいち煩いんだよ!」
「そりゃ、最後くらいは煩くさせてもらうさ。これでも君とは長い付き合いだったんだから……、さ」
「チビ助……」
「ソフィ殿、実はヒノエ組長はこうみえて本当に繊細な性格をしているんだ。さっき本人も言ってた事だけど、眠れなかった本当の理由とは、この世界を離れる事に関して相当に悩んで出した結論な筈なのに、結局時間が経ってからまた自分が残していってしまう組員の事や、組織の事を考えて一晩中悩んでいたんだと思う。でもそれは優柔不断だって意味じゃなくて、彼女は純粋に選んだ道と反対の事を真剣に考えて、自分が出来る事はもう何も残されていないかって悩んで考えられる優しい人間なんだ。だからソフィ殿……、貴方になら任せられると思っているから、あえて言わせてもらう。このヒノエ組長を連れて行くなら、しっかりと最後まで面倒を見てやって欲しい。彼女は思い付きなんかじゃなくて、真剣に悩んだ末に出した結論だろうから」
スオウはそう言って、最後にはソフィに頭を下げてお願いをするのだった。
ヒノエは口をパクパクさせながらも、スオウにいつもの軽口を言えなくなってしまうのだった。
「スオウ殿、ヒノエ殿の事は安心するがよい。我が責任を以て彼女を連れて帰るとお主に約束しよう」
「ありがとう。でも本音を言うとそこまで心配はしていないんだ。俺は最初からずっとソフィ殿の事を信用しているからね……、ヒノエ組長、元気でね? たまには俺達の事を思い出してよ」
「ああ、もちろんだ。今までありがとうな、スオウ組長。後の事はアンタに任せたよ!」
そう言ってヒノエとスオウは、数年ぶりに互いの名と役職で呼び合い、笑顔でハイタッチを交わすのだった。
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