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2030.大魔王ヌーの決心と、理解を示す大魔王ソフィ

 そしてソフィが元の世界へと戻る当日の明朝の事だった。


 部屋で一人寝静まるソフィの元に、ソフィ以外の者が突如として姿を現し始める。


 その来訪者とは、これまでソフィと『ノックス』の世界を共に行動してきた大魔王『ヌー』であった。


 当然に隠そうともしないヌーの『魔力』を瞬時に感じ取ったソフィは、現れて直ぐに目を覚ます。


「このような時間に、一体どうしたのだ?」


「悪いな……。どうしても明日戻る前に、今後の事についてお前と話をしておきたかったんだ」


「ふむ……」


 布団の中から身体を起こし始めたソフィを見て、腕を組みながら立っていたヌーは淡々と言うべき事を口にし始めるのだった。


「明日は予定通りにお前を含めて、この世界から俺たちの居た世界へ『概念跳躍(アルム・ノーティア)』で転移させる。元々の予定とは大きく異なり、シギンや神斗、それにイツキの奴にお前の方のツレを含めた連中を『リラリオ』と『アレルバレル』の世界に転移させる事となったがよ、ここからはてめぇにも俺の都合に合わせてもらおうと考えている」


 こんな時間にわざわざ伝えに来たという事からも、ソフィはヌーが余程に大事な事を伝えようとしているのだろうと察してはいたが、こうした前置きから入り始めたのを見て、相当にヌーの告げる都合というものが、彼にとって重要なものであるのだろうと考えたソフィであった。


「つまり、お主のその都合とやらがつくまで我には『アレルバレル』の世界から離れていろと、そう言いたいわけなのだな?」


 ソフィのその口にした言葉がまさに的を得ていた為に、ヌーは用意していた言葉ごと口を噤む事となった。


 そしてそのヌーの都合というのが、この世界に来る前にヌーが大魔王フルーフと交わした契約の事を指しているという事は間違いないだろう。


「ああ……、その通りだ。奴との決着をつけるまでは、お前にはここの連中共と一緒に『リラリオ』の世界へ居てもらおうと考えている。もちろんお前が『アレルバレル』に居る連中と顔を合わせておきたいと考えているなら、フルーフと接触を行う前にてめぇごと『リラリオ』の世界へ運んでおいてやる。それに勿論、その間にてめぇの魔王城を狙うようなゴミ共が現れねぇように、俺の息のかかった連中をてめぇの城の守護に回すと約束してやる」


 ソフィはそこまでヌーが自分の為に、根回しを行おうと考えていた事に驚きを隠しきれなかった。


 確かにここに来るまでにもソフィはヌーが明らかに変わったと判断していたが、もうここまできてしまうと、この世界に来る前の『最恐の大魔王』と恐れられていた彼とは、全く異なる存在にしか思えなくなってしまう程であった。


「分かっているとは思うが、フルーフの奴は一筋縄ではいかぬぞ? いくらお主がこの世界で新たな『力』に目覚めて強くなったとは言っても、あやつは一つの世界を束ねた実績のある大魔王『フルーフ』だ。最初から苦戦を考えずに都合通りに事を運べると考えているのであれば――」


「ソフィ、あまり馬鹿な事を言うなよ? この俺がそんな事は誰よりもよく分かっているんだよ。アイツはあいつ自身の実力だけではなく、テアと同じ……いや、テアよりも神格そのものが上の『死神皇』の奴までついていやがるんだ。余裕を持ったまま勝てる相手じゃねぇことは、この俺様がテメェ以上によく理解してんだよ……――、ちっ!」


 彼はそこまで言い切った後、舌打ちをしながら自分の手を口元にあて始めた。


 どうやら想像以上に自分が興奮状態にあることに気づいたのだろう。この時間に大声を上げてしまった事に対して、そんな自分に腹を立てている様子であった。


(ふむ……。戦力値が増した事でこやつがフルーフの奴を少しは甘く見ておるかと思っておったが、決してそういうわけではないらしいな。むしろ強くなった事で、正確にフルーフの強さを測る事が出来るようになっておるようだ)


 ――大魔王フルーフは、間違いなく強い。


 一つの世界を束ねた実績があるという以上に、世界の『(ことわり)』を生み出した存在と戦うという事の方が、圧倒的に『魔神級』の立場に居る者にとっては厄介なのである。


『魔』の概念において『(ことわり)』を無から生み出す事の出来る存在と戦う事は、まさにその世界そのものを敵に回す事に等しいからである。


『アレルバレル』の世界だけに留まらず、あらゆる世界で『精霊』の生み出した『(ことわり)』は広まっており、その精霊族の『(ことわり)』から生み出された四元素の『魔法』は世界中に知れ渡っている。


 それはつまり、この『精霊』が生み出した『(ことわり)』が、世界そのものに甚大なる影響を及ぼしている事に他ならないのである。


 精霊が生み出した『(ことわり)』から更に伝わった『魔法』は、あらゆる種族の『魔』の概念のお手本となっている。当然にその生み出された『魔法』から独自の進化を遂げていった歴史も存在するが、そもそもその基本は『精霊族』の『(ことわり)』が主である事は間違いない。


 基となる『概念』があるからこそ、一から二、二から三へと成長を遂げていく事が現実に可能となる。


 だが、その基の『概念』がないゼロとなる『無』から新たに『(ことわり)』を生み出すという事は、その生み出した者の脳内にある『想像』から『創造』へと形を模していき、自らの手で自在に創り変える事を可能とするのである。


 謂わば『魔』の概念に関して言えば、一つの世界の『秩序』そのものを生み出す事に等しく、そこから新たに別の種族が組み替えていく歴史が誕生していったとしても、無から一へと生み出されたそもそもの『基盤』となるモノに関しては、その世界に居る者には誰にも真似を行う事が出来ないのだ。


 レパートという世界の『魔』の概念の『(ことわり)』そのものを生み出したフルーフは、まさしく一つの概念にとっての『神』であり、神格を持たぬ指導者たる存在の最高峰に位置すると言っても過言ではない。


 そんな大魔王を相手にする以上は、たとえ戦力値が如何に圧倒しているヌーであっても、決して油断をしてはいけない相手である事は相違なく、その事をちゃんと理解した上で今ここで深刻な表情を浮かべて決断の言葉をソフィに向けているのだ。


「分かった。では、我達を『リラリオ』の世界へ送ってくれ。丁度都合が良い事に『シギン』殿の目的は、リラリオの世界に居る『サイヨウ』であるし、我も『リーネ』の元へ向かいたいと考えていた。それにヒノエ殿も『アレルバレル』の世界ではなく、我と目的が同じ『リラリオ』の世界へ向かいたいと告げていたのだしな。だから我はお主の提案に背くつもりはない。存分にお主の都合を済ませるがよいぞ?」


 ソフィはヌーがどういう心境でここに立っているかをしっかりと理解している。


 だからこそソフィは、この両者の戦いに水を差すつもりはなく、ヌーからの言葉に逆らうのではなく、肯定するのであった。


「ああ……、そうさせてもらう。安心しろ、こっちの都合が済んだらしっかりてめぇを『アレルバレル』の世界に戻すと約束してやる。そのまま『リラリオ』の世界に居るつもりだったとしても、一度だけはてめぇの目的通りに従ってやるよ。何ならセルバスが言っていたまた別世界に行く事にも協力してやってもいい。だからフルーフと戦う間だけは邪魔をするな」


「うむ、分かった。約束しよう」


 ソフィとヌーは両者共に視線を交わし合うと、互いに頷き合うのだった。


 ……

 ……

 ……

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― 新着の感想 ―
ここで例のソフィがリラリオに行くことは例の事件及び騒動解決に乗りだすことになりそうですね。おそらくまだ魂のストックを蓄えているであろう存在もまだ本格的には動き出してないと思いますが、果たしてどうなるや…
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