2025.九大魔王エヴィと、煌聖の教団の幹部だった者
当初の予定とは異なり、この『ノックス』の世界から多くの者達がソフィと共に『アレルバレル』や『リラリオ』の世界へと転移する事となった為、ソフィ達はヒノエ達の日程に合わせて二日後に元の世界へ戻る事に決めた。
渋々ながらもヌーがその事に首を縦に振った理由には、どうやら新たにソフィ達と同行する事が決まった元妖魔神の『神斗』が大きく関係しているのであった。
ヌーが元の世界へと戻った後、テアと同じ神格持ちの『死神』と契約をしている『魔族』と戦うという事を知った神斗が、どうせならこの世界に居る間に、少しでもヌーの『魔』の概念理解度を深めようと提案を行ったようである。
ソフィも特務施設から戻って来た後、色々とこの世界の者達と最後の挨拶を行ったり、ヒノエと話をしたりと忙しかった為に、そこまで詳しい話を聞いたわけではないが、どうやらヌーは『神斗』をイツキとは違い、無条件で転移を許可した様子ではないようで、何やらヌーと交渉を行った上で転移する事に決まったらしい。
それが冒頭の『魔』の概念理解度を深める話に繋がっているようである。
そしてソフィは妖魔退魔師達が使っている広間の奥にある食堂でエヴィと共に食事を行っていたが、そこにセルバスが現れた事で一悶着起きる事となったのだった。
にこやかにソフィと会話を行いながら食事を行っていたエヴィは、この場に見知らぬ人間の女性と嬉しそうに談笑しながら現れたセルバスに違和感を感じて、それまでソフィに一方的に話しかけていた言葉を止めると、じっとセルバスに視線を向け続けるのだった。
「せ、セルバスさん……」
「どうしたんだい、シグレ殿? 何か食べたい物があるんだったら、遠慮せずに何でも言ってくれよ? シグレ殿の食べる姿を見るのが俺のここ最近の一番の楽しみなんだよね」
「あ、あの……、あちらの御方がセルバスさんを凄い目で見ていますけど、お知り合いの御方なのではないですか……?」
デレデレと鼻の下を伸ばしながら、そう告げた後にふひひっと奇妙な笑い声を上げたセルバスの腕を軽く叩いて、セルバスに視線を向けているエヴィの方を見るようにシグレが促すのだった。
「え……? うげっ!?」
そしてシグレの言われるがまま、食堂の奥の方に顔を向けた瞬間、セルバスの顔から血の気が引いていくのだった。
「む? おおっ、セルバスではないか! シグレ殿も一緒か。クックック! 変わらず仲が良いではないか、ん?」
ソフィはこの世界に来てから気に入っている『蕎麦』というモノを堪能しながら、セルバスとシグレが仲良さそうに逢引している姿に満足そうに頷くのだった。
「セルバス……? それって確か『煌聖の教団』の幹部の名か!? や、やっぱりこの『魔力』は何処かで感じた事があるって思っていたんだ! よく僕の前に姿を現したなぁっ!!」
ソフィと同じ蕎麦を遠ざけるとエヴィは、その場で『金色』を纏い始めるのだった。
「あわっ、あわわわっ!! だ、旦那ぁっ! ソフィの旦那ぁっ! 助けてくれぇっ!!」
さっきまでシグレと仲睦まじく会話を行っていた姿から一転、信じられないくらいに情けない声を上げながら、ビクビクと身体を震わせて、ソフィの背中に隠れ始めるセルバスだった。
「お、お前……! この期に及んでソフィ様を盾にしようというのか! ゆ、許せない、単に殺すだけでは済まさない。いくら転生を行おうと、決して逃れる事が出来ない苦痛を永劫与え続ける呪いをお前に与えてやるっ!」
「待つのだ、エヴィ。こやつはもう『煌聖の教団』を抜けておる。そして今では我の大事な仲間となっているのだ」
「……え?」
セルバスに『呪い』を届ける為、その媒体として使おうと、この場に出現させた砂で出来た冷酷な目をした人形達に命令を下し始めていたエヴィは、そのソフィの言葉に直ぐに反応を示した。
「そう言えばここ最近ばたばたしておったせいで、お主にはセルバスの事を伝えていなかったようだ。こやつとは『妖魔山』に向かう前に、しっかりと話を行って今はもう敵ではない」
「そ、そうなのですか?」
いつものようにソフィの言葉で直ぐに手を止めたエヴィだが、それでも訝しむ視線をまだセルバスに向け続けていた。
「おいお前、何でそんな姿をしているんだ? 僕の記憶にあるお前は、筋肉ダルマみたいな奴だったように思うけど……」
どうやらエヴィはセルバスの持つ『魔力』に何処かで感じたなと違和感を感じていた様子だが、ソフィがセルバスの名を呼ぶまでは『煌聖の教団』の『セルバス』だとまでは気づいていなかったようである。
そしてこうしてソフィから事情を聞いて、ようやくセルバスが『代替身体』なのだと理解したのであった。
「お前と同じ九大魔王の『神速』に身体をやられちまったんだよっ! この世界で身体の回復待とうと避難したところに、お前を探しにやってきたソフィの旦那とばったりってわけだ!」
どうやらセルバスはエヴィには包み隠さずに真実を告げた方が良いと判断した様子で、ここに来るまでの経緯をしっかりと説明するのだった。
「リーシャちゃんに? お前、まさかリーシャちゃんを傷つけていないだろうな? もし今度リーシャちゃんと会った時に五体満足の姿じゃなかったら、絶対僕は許さないからな……?」
どうやらエヴィにとっても『リーシャ』は大事な妹分のような存在であったらしく、彼女をリーシャちゃんと呼びながら、もし傷つけていたら許さないと告げるのだった。
「ひっ! ば、馬鹿言ってんじゃねぇよ! もしそうなっていたら、今頃ソフィの旦那にやられてこの世にいねぇだろうがっ!」
「ああ、そりゃそうか……。ちっ、本当は『煌聖の教団』は皆殺しにするって決めてたけど、ソフィ様に免じてお前を生かしてやる。ソフィ様に海より深い感謝をするんだぞ!」
「わ、分かってるって! そ、ソフィの旦那、楽しい食事中のところ、すんませんしたっ! また後日謝罪を行いますから、今だけは勘弁して下さい。今日はシグレ殿と出掛けるのをずっと楽しみにしていたんですっ……!」
セルバスがそう言ってソフィに深々と頭を下げると、隣で呆然と成り行きを見守っていたシグレも慌てて頭を下げるのだった。
「むっ、こちらこそすまぬ。もう我達はここを離れるから、是非ここの『蕎麦』をシグレ殿と堪能していくと良い。店主も迷惑を掛けてすまぬな。ここに代金を置いておくからよろしく頼む。さて、行くぞ、エヴィ?」
「は、はい! お前、今度ちゃんと僕の元に来て、しっかりと説明するんだぞ! お前たちのせいで皆がどれだけ迷惑を……――」
「もうよい。エヴィ、早くついてくるのだ」
そう言ってソフィは彼の襟首を掴み、この場からエヴィを引きずって離れて行くのだった。
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