2024.九大魔王エヴィは、真意を確かめる
「話は分かった……。ヒノエ殿がそこまで真剣に考えた上で、こうして我に直接話をしてくれた事を嬉しく思う。まずはお主をリーネに会わせると約束しよう。だからひとまずはその先の話は保留にさせて欲しい。まだ我は探さなければならぬ仲間たちが居るし、他にも『リラリオ』の世界で色々と抱えている問題もあるのでな。リーネと会った上でしっかりと話をしてもらい、それから色々とまた共に考えようではないか」
「! い、一緒に連れて行ってもらえるんだな!? 本当に感謝する、ソフィ殿!」
そう言って再度頭を下げるヒノエであった。
「そうと決まれば、早速準備をしてくるよ!」
勢い良く立ち上がったヒノエは、この部屋に来た時の緊張感は何処へやらといった様子で、満面の笑みを浮かべたまま、部屋を出ていくのだった。
「クックックッ! やはりヒノエ殿は明るい方が良いな」
(そう言えばセルバスの奴が、煌聖の教団の奴に跳躍ばされた我の仲間の居る世界を知っていると言っていたな。確かその世界の名はヨールゲルバとか言っていたか……。次はヌーの協力も期待が出来ぬだろうしな……。セルバスの奴は『概念跳躍』で自分以外の者も跳躍ばせるのだろうか……? 一度その件も含めて色々と詳しく聞いておいた方が良いだろうな)
ヒノエが出ていった後、再び部屋に一人となったソフィは、最後の『九大魔王』の配下の居場所を考え始めてそう結論付けるのだった。
……
……
……
「君、ヒノエって言ったっけ。ちょっと待ってもらえる?」
ヒノエがソフィの部屋を出た後に上機嫌のまま自分の部屋へと戻ろうとしたが、廊下の角を曲がったところで一体の魔族に呼び止められるのだった。
「ん? アンタは確かソフィ殿の……」
「少しソフィ様と話がしたくてここに来たんだけど、ちょうどその時に君とソフィ様の会話が聞こえちゃったんだけどさ、君はここから離れて僕達の世界で魔王軍に入るっていう話は本気で言っていたの?」
ヒノエの言葉を遮りながら食い気味に被せてきたエヴィに、彼女はさっきの話を聞かれていたのかと少しだけ気まずさを表情に出したが、直ぐにそれならそれで構わないとばかりに表情を戻した。
「もちろんさ、本当は今でもソフィ殿と男女の仲になりたいというのは本音にあるけど、一度断られちまったからな……」
「どうして断られたのに、諦めるどころか全てを投げうってまで魔王軍、いや、あの御方の配下になろうと考えたの?」
「そんなのソフィ殿の傍に居たいからに決まっているだろ? ここで別れちまえばもう二度とソフィ殿に会えなくなっちまう。今の私はもうそれに耐えられない」
互いに真剣な表情で問答を行い始める。
エヴィはヒノエの言葉に真意を確かめようと、更に射貫くような視線を向けた。
「どうやら嘘を言っているわけじゃなさそうだね」
そして視線で確かめるようにヒノエを睨みつけていたエヴィは、ヒノエが言葉通りに本気で言っているのだと理解出来た様子で、小さく溜息を吐きながらそう口にするのだった。
当然だとヒノエが口にしようとしたが、実際に声を出す前にエヴィは言葉を続けた。
「君が本気だという事は認める。でもソフィ様の魔王軍はその全てが『魔族』だ。中には『煌聖の教団』の関係で人間を嫌う者も多い。君が思う程、すんなり受け入れられると思わない方が良いよ? たとえソフィ様が君を魔王軍の連中に好意的に紹介をしたとしても、表面上は仲間として扱われるかもしれないけど、実際は誰も君を相手にしないかもしれない。ずっと孤独になるかもしれないんだよ? 人間と魔族は常識そのものが異なるし、そもそもあの世界は常に戦争状態に突入する可能性を秘めているんだ。内にも外にも気を向け続けなきゃいけない環境に、君は自ら飛び込もうとしているんだ。それは君が考えているより遥かに苦痛かもしれな――」
「それでも私はソフィ殿と共に居たい、同じものを見て感じたいと心から考えている。アンタは私に考え直させようと脅しているのかもしれないが、もう私は決めたんだ。決めた以上は引き返すつもりはない。孤独でも何でもソフィ殿の為に、この私は私の生涯とこの刀をあの御方に捧げてやる!」
エヴィはヒノエのその言葉に、先程までの真意を確かめるような視線から、まるで得体のしれないものを見るような目をするのであった。
やがて少しの間が経ち……。
「なるほどね……。どうやら君の覚悟は本物のようだ。それにどんなに脅しても君のその考えは変えそうにないな。いいよ、分かった。今の君の言葉をソフィ様の側近の『九大魔王』として信じてあげる。だけど、今の僕の言葉は単なる脅しじゃないっていうのは覚えておきなよ? 君が思うよりもソフィ様と、ソフィ様の生きてきた世界は甘くはない。この僕でさえ本当に死ぬ思いで必死に生きてきたくらいだからね」
「ご忠告、痛み入る。だが、それでも私は考えを曲げるつもりはない。私がソフィ殿の組織で寿命を迎えた時、あの時のこの女の覚悟は本物だったんだなとアンタに思わせてやるから、今日の事を絶対に忘れないでもらいたい」
「ふ、ふふ……。君は信じられないくらいに気が強いね。分かったよ、ソフィ様が君を受け入れようとしたのに、部外者の僕がしゃしゃり出た事を謝るよ。僕だけは君を信じてやる。だから魔王軍に入って困った事があったら、僕を頼っていいよ? 今回のお詫びに魔王軍の居場所くらいは作るのに協力してあげる。ま、君のその性格だったら、案外僕が何もしなくても直ぐに受け入れられるかもしれないな。ま、よろしくね!」
そう言って何と『大魔王』であるエヴィの方から、ヒノエに親交の意を込めて手を差し伸べるのだった。
きょとんとした表情を浮かべていたヒノエだが、直ぐに笑みを浮かべると差し出されたエヴィの手を固く握り始める。
「ああっ! これからよろしく頼むぜ? 先輩よぉ!」
そして握手をしながらもう片方の手で、エヴィの肩をバンバンと叩き始める。
「ちょっ、痛いって……! アイタタ! ちょっと、もう手を離して……、君、何なのその馬鹿みたいな腕の力!」
「へへっ、遠慮するなよ先輩! そらっ!!」
「ひゃっ……!!」
ヒノエは痛がるそのエヴィの様子に、何処か少しだけ性格が似ているスオウを思い出して、彼に対する態度と同じものを向けながら、痛がるエヴィの手を更に強く握りしめるのだった。
「ちょ、調子に乗るな! も、もう分かったってばっ! じゃ、そういう事だからよろしく! またね!!」
エヴィは自分自身を砂に変えながら、慌ててヒノエの拘束から逃れると、捨て台詞のようにそう告げて、一目散にこの場から去って行くのだった。
「待たね……か。どうやら少しは認めてもらえたみたいだな……」
ヒノエはそう言って誰も居なくなった廊下で、先程までのエヴィとの会話を思い出していたが、やがて――。
「さて、これから忙しくなるだろうし、私も気合入れていかねぇとな!」
両手でパシンと自分の両頬を叩いて気合を入れた後、堂々とした足取りで我が道を歩き始めていくのだった。
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