2021.妖魔退魔師総長シゲンと、元妖魔神の神斗
ソフィ達が特務の施設を出ると、すでにその前に『エイジ』や『ゲンロク』、更には副総長のミスズに組長格の『ヒノエ』の姿もあった。
流石にあれだけの大穴が開く程の衝撃であれば、それまでの『結界』内での出来事には気づけなくとも、何かあったのだと分かるのは当然であったようだ。
この場に集まった者達は、ソフィもシゲンも無事な様子を見て安堵している姿を見せた。
流石にあれだけの衝撃であれば、ソフィが居れば何も問題がないと頭の何処かでは考えられていても、実際に無事かどうかを確かめようとするのも無理はないだろう。
「総長、無事で良かったです……が、どうやらこれはまた、サカダイの領主に怒られそうですね」
「ふふっ、我々の代で行った功績を考えれば、まだまだ釣りがくる程だ。それよりミスズ、今後の特務の稽古時には俺も参加させてくれ。少しお前達を相手に試したい事が出来た」
「えっ! そ、総長が特務の修練に!? それは総長が直々に我々に剣を教えて下さるという事でしょうか?」
「そうではない。むしろ逆だな。ミスズが教える剣を色々と、一から受けてみたいと思っただけだ。別に俺から特務の者達に教えるつもりではない」
「っ……!?」
突然のシゲンの言葉に、ミスズは絶句せざるを得なくなったようである。
「副総長、どうやらソフィ殿は総長の気持ちすらも動かしちまったようですね!」
隣で話を聞いていたヒノエも感服したかのようにソフィを見つめた後、バシバシと遠慮なしに副総長であるミスズの肩を豪快に叩きながら大笑いをするのだった。
「ちょっ、い、痛いですよ、ヒノエ組長……! 貴方が自分がどれだけ恐ろしい腕力をしているのかを自覚して下さい! 肩が外れたらどうしてくれるんですかっ!!」
シゲンの言葉を受けて驚いた表情を浮かべていたミスズだが、涙目になりながらヒノエに叩かれた自分の肩を擦りながら愚痴を零すのだった。
「ははっ! それは、すんません! でも副総長、私はもう数日後には組長じゃなくなるんです。そろそろ呼び方にも注意して下さいよ?」
その言葉にシゲンとミスズは、同時に互いの顔を見るのだった。
「まだ今は、貴方は組長のままですから……」
そう言って、擦っていた自分の肩を強く握るミスズだった。
そのミスズ達のやり取りに、何も詳しい事情を知らないソフィやエイジ達も機微を感じ取り、無言で彼女達を見つめるのだった。
「さて、総長もソフィ殿も無事だったようだし、私は先に戻りますね。ソフィ殿、また後で時間が許す時でいいから私の部屋に来て欲しい。少し話があるんだ」
「む? 分かった……」
「それじゃ!」
ヒノエはシゲンやミスズに会釈を行った後、足早にこの場から去って行った。
そんなヒノエと入れ替わるように、ヌーと神斗がこの場に現れるのだった。
「よう、ソフィ。また派手にやらかしたもんだな? 最初の話ではソイツがお前に色々と試す筈だったんじゃないのか?」
ヌーはシゲンの方を見て顎でしゃくると、ソフィにシゲンとの腕試しの一件を詳しく話させようとするのだった。
しかしソフィから話を聞こうとしていたヌーに、ソフィが口を開く前にシゲンが先に言葉を出し始める。
「何も間違ってはいないぞ、ヌー殿。ソフィ殿は最初の取り決め通り、俺の剣に付き合ってくれただけだ。まぁ、その結果でああなった事は否定は出来ぬが、おかげで俺は自分の立ち位置というものをよく理解出来た」
「そうかよ……。どうやらお前の剣とやらは、相当に危ないモンらしいな?」
「確かに彼の言う通り、君の剣は危険そうだ。それに煌阿や王琳達が居なければ、その危ない剣は僕達に向けられていたって事なのかな?」
そう言って突然に割り込むように声を上げたのは、あの山で妖魔神であった神斗だった。
「ソフィ殿たちが居なければ、そうだっただろうな」
そう言葉を返したシゲンの神斗の見る目は、抜き身の刀のように光り輝いていた。
そんなシゲンの目を神斗も今度は無言で見つめ返す。
ソフィ達がこの世界に来る事がなければ、もしかするとやり合う事になっていたかもしれない二人は、まさに一触即発といった空気の中で互いに睨み合っていた。
「そんな現実が来なくて良かったかな。どうやら君の相手をするのは少しばかり骨が折れそうだし」
そう言って先に視線を外したのは、妖魔の神斗であった。
彼も単に口にしただけでそれ以上の意味があったわけではなく、このまま更に空気を悪化させる前に先に身を引いて見せたようである。
「こちらとしてもお主の性格を知った今では、そんな現実が来なくて良かったと本気で思っている。願わくばこの先もこちらの刀の矛先を向けなくていい未来が来る事を願う」
「ふふっ、それは王琳次第ではあるね。ま、僕もこのシギン殿から色々と学ばせてもらうまでは、この世界から離れる事にしたし、人里の平穏を考えるなら僕が戻って来るまでは王琳と仲良くする事だね。どうやら王琳もそこに居る黒羽殿との戦いに非常に満足したみたいだし、よっぽどのことがない限りは取り決め通りに守ってくれるはずだよ」
そう言って神斗は笑みを見せたが、その目だけは決して笑ってはいなかった。
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