2020.親しき仲
「まぁ、事情は分かった。俺としても少しでも強くなれる可能性があるなら、今は素直に縋っておきたいところだしな。だが、さっきも言ったが俺は元の世界に戻って直ぐにフルーフの野郎と戦わねばならん。こっちの用事が済むまではソフィの元にでもいやがれ。アイツも一度は俺と同じ『アレルバレル』の世界に戻るだろうが、どうせ直ぐに『リラリオ』の世界へ向かうだろうからな」
「待て、お主……。ソフィ殿に何の説明もなしに、そんな勝手に決めて大丈夫なのか?」
「あいつは『リラリオ』の世界でも何とかって国の王をやっていやがったしな。てめぇら分くらいの住む場所の用意くらいは出来やがるだろう。こっちの事情が済んだら直ぐに迎えに行ってやるから、てめぇらもさっさと自分達の用事を済ませておけ。ついたら直ぐに『ノックス』の世界に運んでやるからよ」
あまりにも突拍子もなく、重要な事をあっさりと決めていくヌーに、流石の『神斗』や『シギン』も顔を見合わせるのだった。
「一応は俺からソフィの奴に伝えてやるが、それでも気に入らないというのなら、もう好きにしろ。そもそも『根源の玉』で向かうつもりだったんだろ? それと比べたら元の世界に戻れるだけマシだと思うがな」
確かにヌーの言う通りであり、シギンも無理を言って頼みを聞いてもらっている身である為、本来は文句を言える立場ではない為、渋々ながらも最後には首を縦に振って頷くのだった。
そしてこの場の話が纏まりをみせた、まさにその瞬間だった――。
「「!?」」
神斗とシギンが驚いた様子を見せた後、同時にヌーの背後の方に視線を送り始めるのだった。
「あ? 何なんだよ、突然?」
「お主には感じなかったか? ソフィ殿とシゲン殿が向かった場所で、今恐ろしい程の『魔力』の高まりが感じられたのだ」
「いや、これに気づけという方が、難しいかもしれないな。どうやら外側に漏れ出ないように、幾重にも『結界』を施している内側からの一瞬の『魔力』の高まりだった。今は僕にも何にも感じられない。でも一度感じたせいで違和感だけが残り続けてる。あまり気分のいいモノじゃないなこれは……」
どうやらシギンと神斗が口を揃えてそう告げたという事は、間違いなくソフィ達の方で何かとんでもない事が行われているという事だろう。
だが、シギン達の話を聞いて直ぐに『オーラ』を纏い始めて『魔力感知』を行ったが、今は神斗の告げた通りに『結界』に阻まれて全く感じられなかった。
どうやら魔神が関係している事は間違いないだろう。しかし少しは強くなったつもりでいたヌーは、この目の前の両者が直ぐに気づけたというのに、自分だけは全く気付く事が出来なかった事に、悔しさを隠せずに舌打ちをする。
「だが奴らがここで話をしていた通りならよ、シゲンの奴がソフィに腕試しを行うって事だった筈だろう? 魔神の『結界』のせいで、一体向こうではどういう展開になっていやがんのか分からねぇが、ソフィは力の開放を行わなければならない程に、シゲンが脅威だったって事か?」
そんな事をこの場で口にしたところで、誰にも分からないという事はヌーも承知の上であったが、それでも自分より先にソフィの『魔力』を感じ取れた目の前の両者であれば、何かに気づけているかもしれないとヌーは考えて発言を行ったようである。
だが、流石にシギンも神斗も実際に見ているわけではない為、互いに黙ったまま同じ方角に視線を送っているだけであった。
そしてそんなシギン達の話の後からある程度の時間が経った後、ようやくヌーにもその異変を察知出来たのだが、その数秒後には大きな爆音がこの妖魔退魔師組織の建物の中にまで届いてくるのであった――。
「ちっ、行くしかねぇな。おい、行くぞテア」
「――」(分かった!)
ヌーがテアを連れ立ってその場を離れていき、後に残されたシギン達は改めて顔を見合わせるのだった。
「これだけ離れていて、更にこの揺れ具合だ。もしかすると『結界』ごと突き破られたのだろうか」
「問題はそれをどちらが行ったのか、だね。本来であれば、先程の『魔力』の高まりからも『黒羽』がやったものだと考えるけど、あの妖魔退魔師も中々に侮れないと一目見て思ったんだよね。仕方ないから僕らも向かおうか?」
「ああ……。当然そうなるだろうな。やれやれ、あれだけ長い期間、私は妖魔山に居たというのに、ここ数日の方が心が休まらぬ時を過ごしている気がする」
「さぞかし、そんな老体には堪えるだろうねぇ?」
「馬鹿な事を申すな。流石に瞬発力だけはどうにもならぬが、肉体の老化だけは何十年もさせてはおらぬ」
どうやらここ数日の間に、シギンと神斗はそれなりに軽口を言い合える程に親しくなったようである。
「それはすまないね。余計な事を口にした。さて、僕達もそろそろ行こうか」
「ああ、そうするとしよう」
ヌー達に遅れる形ではあるが、ようやくシギン達もサカダイの妖魔退魔師組織の建物の中を駆け始めていくのであった。
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