2017.妖魔神であった頃の神斗の姿
シギンは口喧嘩を始めたヌーと神斗を見て大きく溜息を吐いた。
(妖魔山に居る頃は、神斗もそれなりに威厳のようなものを持っているように感じていたが、蓋を開けてみれば何処にでもいるような人間と変わらなかったようだな……。いや、そもそもが妖魔神という立場を貫こうとすれば、本来の性格を表に出す事が出来なかったということであろうか? もしそうであるのならば、こうしてヌー殿と言い合っている神斗の見方も多少は変わってしまうな)
先程まで冷めた目で神斗達の口喧嘩を眺めていたシギンだったが、自身の思案が進んだことで、その目を少しだけ温かなモノに変えるのだった。
先程シギンを慮るように肩を叩いて頷きを見せていたテアもまた、ヌーに温かな視線を送っている。
それを見たシギンは、テアがヌーに寄せている関心の本質もまた、自分の抱いているモノと似ているのだと確信し、契約者以上の感情を持っているのだなと改めて理解するのだった。
「神斗よ、その辺にしておけ。お主はヌー殿と口喧嘩を行う為に来たのではないだろう? つまらぬ争いで私の限られた時間で必死に得ようと考えていたであろう『魔』の概念領域を吸収する、貴重な時間を失ってしまってもよいのか?」
「それは非常に困る。仕方ないな、ヌーとか言ったっけ? 君のお粗末な『魔』の概念領域を少しだけマシなものにする事に協力してやるから、僕もシギンと一緒に『リラリオ』の世界に連れて行ってくれ」
「は、はぁ……!? お、俺の持つ『魔』の概念知識を粗末なモンと抜かしやがったか!? こ、この俺様がいったいこの領域に来るまでにどれ程の……っ――!?」
馬鹿にされたと感じ取ったヌーが、神斗に対してこれまで自分が『魔』の概念に関して、どれ程の努力と研鑽を行ってきたかを事細かに説明しようとした瞬間だった――。
神斗が自身にオーラを纏った後、腕を組みながら睨むような視線をヌーに向けると、たったそれだけで彼は金縛りにあったかのように身体が硬直し、更には声が出せなくなった。
「いくら虚勢を張ったところで君の『魔』に於ける防衛力……『耐魔力』はそんなモノだ。少しでもこれまで戦いの経験を積んできたのであれば、今のこの状態の僕と命のやり取りを行えば、結果がどうなるかは君如きでも想像が出来るだろう?」
――神斗は煌阿にあっさりと身体を乗っ取られはしたが、それでもあのあらゆる種族のあらゆる猛者揃いの『妖魔山』で『妖魔神』として、長年頂点の座に君臨し続けてきた存在である。
神斗の妖魔ランクは『10』に達しており、強さという一点においては、目の前に居る大魔王ヌーを遥かに凌駕している。
先程までの口喧嘩を行っていた時とは違い、こうして本気で殺意の視線を向けられてしまえば、ヌーがあっさりと動けなくなってしまうのも無理はなかった。
「僕をシギンと一緒に連れていけ。そうすれば間違いなく今より強くしてやるから」
同じ言葉を口にした神斗だが、今度はその同じ言葉の中に比べ物にならない強さがこもっていた。
――そこには、まるで『保証』してやると言わんばかりの神斗の言葉の力強さがあった。
「くっ……!」
何とかうめくだけの声を出せるようになったヌーだが、それを横で見ていたシギンが溜息を吐いた。
「全く、お主はもう少しはマシな頼み方が出来ぬのか? これではヌー殿に頼み事を聞いてもらうのではなく、脅して強引に従わせようとしているではないか」
「おっと……、それはすまないね。妖魔神であった頃の態度が、そっくりそのまま出てしまっていたみたいだ」
その彼の言葉にヌーは、妖魔神として山の頂点の座に君臨していた『神斗』の姿の片鱗を垣間見る事ができたのだった。
ようやく硬直が解けて普段通りに動けるようになったヌーは、シギンにすら強さの面で追いついていない筈の目の前の神斗であっても、自分との間にこれ程までに差が存在するのだと、改めて理解して悔しそうにするのだった。
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