2010.渾身の一撃を放つ為に
ソフィが『力』の開放を終えた後、今度は視線をシゲンの構えに向けた。
この世界では確かに強い人間達の存在が顕著に目立っているが、その中で『妖魔退魔師』と『妖魔召士』の二種類の戦闘スタイルが際立っている。
もちろん細かく分ければ『妖魔退魔師』側には、下位と呼べる『予備群』。そして『妖魔召士』には『退魔士』という風に分かれてはいるが、大まかに『剣士』と『魔法使い』というシンプルな分け方が出来るだろう。
この世界の者達にとっては、戦いの対象となる相手が魔族や同じ人間というわけではなく、明確に『敵』とされているのが『妖魔』である為、ソフィ達の世界と同じ認識で語られると語弊があるかもしれないが、それでも『戦闘』に関しては近接の役割を持つ剣士と『魔』に特化した『魔法使い』で間違いはない。
そしてソフィは特に『近接戦闘』を行う『剣士』が相手の方が戦いやすいと感じている。
それは有利不利の戦局面という意味ではなく、単にこれまでの過去の『勇者』達との戦いや、剣を扱う魔族と気が遠くなる程の年月を戦い抜いて来たからに他ならない。
もちろんソフィは、対『魔法使い』としての戦闘経験も豊富な方ではあるのだが、戦いの数は圧倒的に『近接戦闘者』の方が上であった。
そもそも大魔王ソフィを相手に同じ『魔法使い』として戦った場合、相手になるどころの騒ぎではなく、もう戦闘の開始時の準備段階の時点でソフィとは勝負にはならないのが常と言えた。
『魔法使い』として戦うソフィを相手にした場合、すでに戦闘開始時の時点で数多の『スタック』が用意されており、その一つ一つの『スタックポイント』の『魔力』でさえ、通常の『魔法使い』の数倍もあるのだ。
そして何よりも戦闘にならない最大の理由が、大魔王ソフィの持つ『特異』と『魔力吸収の地』という『魔法』の存在である。
大魔王ソフィという『魔法使い』に『魔法』を使えば、その全てが無力化されてしまうか、巻き直されて『魔法』そのものが使えなくなる。そして一度術中に嵌ってしまえば、根こそぎ『魔力』を奪われて、下手をすればソフィに対して『魔法』で攻撃した瞬間に、ソフィが何をせずとも勝手に『魔力枯渇』を引き起こしてそのまま絶命してしまう恐れも考えられる。
こういった理由から、大魔王ソフィを相手に戦う『魔法使い』の存在は、その実力が確かな者達ほどに、直接的な戦いを避けてしまい、なし崩し的に『剣士』や『魔法』を使わない『近接戦闘者』が多くなってしまったというわけである。
そしてそう言った理由もあり、今度は『近接戦闘者』と戦う事にも慣れてしまい、ソフィは『魔法使い』だというのにも拘らず、並の剣士や近接戦闘を行う者よりも、更に物理戦闘の面で達人と呼べる程に、戦術面に関しての動きを理解して身につけてしまっている状況にある。
だからこそ、ソフィはシゲンの構えから一体どのような攻撃を行うのか、それを戦う前から予め予測立てを行っていたというわけである。
――ソフィはこの世界で実際に『妖魔退魔師』と手を合わせた経験もある。
それは副総長のミスズであるが、これまでの経験豊富なソフィにしては珍しく、ミスズの戦いぶりに驚かされた。
構えとしては『突き』を主戦型とする『霞の構え』というものであったが、構えから実際にミスズが斬り込んできた時、そのあまりの速度にソフィは当初の計画を捨てざるを得なくなり、咄嗟に『魔法』を放ってしまう程であった。
妖魔退魔師たちは単なる『近接戦闘集団』では収まらないと、大魔王ソフィは考えている。
今の基本となる中段の構えから果たして、どのように彼は変化させるのか。そしてどのような攻撃を繰り出すのかが気に掛かるソフィであった。
当然にこれが殺し合いであれば、こんな至近距離でソフィも悠長に待ちなどしないが、これはシゲンの己の威信を掛けた腕試しである以上は、それを踏まえた上でソフィも動かざるを得ない。
しかしそうであっても、ソフィはわざと被弾を許すわけではない。シゲンが想像以下の実力であった場合、ソフィは何の遠慮もなしに無力化して見せるつもりである。
これは後にも先にもたった一度だけのシゲンに与えられた、大魔王ソフィを相手に実力を確かめられる唯一の機会となる。
果たして、妖魔退魔師総長シゲンは大魔王ソフィという『近接戦闘者キラー』を相手に、どのような展開を齎すのであろうか――。
ゆらりとシゲンは腕を動かしながら、渾身の一撃をソフィに繰り出す為の準備を整い始めるのだった。
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