2008.まさに異例の事態
「――」(貴方が攻撃をするのではなく、この者から攻撃を受けるだけというのが念頭にあったから軽く見ていたけど、流石にこのままではまずいわね……。ソフィ、少しだけ時間を頂戴)
魔神の言葉は至極当然と言えた為、ソフィは神妙に頷くのだった。
「すまぬ、シゲン殿。どうやら我はお主を見誤っていたようだ。今のお主から繰り出される攻撃に対して、流石にこのままというわけには行かぬ。先に準備をしてもらったというのに申し訳ないが、少しだけ待って欲しい」
「構わない。むしろソフィ殿が、万全な状態である事こそが俺にとっては望ましい。こちらはいつでも構わない。気にせずに準備を整えて欲しい」
「お主の期待に応えられるように万全を期すと約束しよう」
そう言うとソフィは新たに『力』を解放する準備を始める。
そしてその横では『力の魔神』も『結界』を強めていくのだった。
これはソフィの『力』の解放に合わせる為の『結界』というよりは、むしろシゲンの攻撃に対しての側面が強いようだった。
この『力の魔神』の展開する『固有結界』は、先程までの単なる被害に対しての『軽減』のための強固な『結界』というわけではなく、世界に対して与えられる事象そのモノに対しての『軽減』となる。
相手方の攻撃に対して同じ『軽減』を図る事が目的である為、一見するとこれまでの魔神の『結界』と『固有結界』は同じモノのように思えるが、実際には全く異なる効力が齎されるのであった。
この『結界』の違いを言い換えると、先程までの『結界』の方は、相手の攻撃技法によって引き起こされる被害に対して最小限に抑える『軽減』が行われるというモノであるが、後者である『固有結界』の方は、被害を与えようとする攻撃技法に合わせて、現存する世界の環境を一時的に変貌させて相手の技法に合わせた最大限の抵抗力を高める事に特化するものである(※厳密には、今ある世界そのモノの環境に手を加えるのではなく、その上に『力の魔神』の『結界』を疑似的に被せているといった方が、意味合いとしては正しくなる)。
相手の攻撃技法に備える『固有結界』であるが、その攻撃技法の威力が高すぎれば、必然的に『結界』で抑えきれずに破壊されてしまう。
しかし前者の魔神の張る通常の『結界』と比較すれば、何倍も世界の崩壊を防ぐ確率は高くなる。そもそも『結界』を張るのが、天上界の守りの要とされている『力の魔神』であり、元々は彼女自身『執行者』なのである。
世界の調停を行う紛う事なき『神格を有する』存在である『力の魔神』が、本気となって『固有結界』を展開する以上は世界の破壊を防ぐ事が出来ると断言出来てもおかしくない筈なのだが、この世界には少しばかり例外となる存在が多すぎた。
何をするか分からない『超越者』が少なくとも、現在において三名。そして少し前の世代の『卜部官兵衛』を含めれば、四名もこの世界だけで存在していたという事になる。
これまでの天上界の観測では、数千年に一度現れる事があれば良い方で、たった一つの時代でこのように次々と現れる事の方が異例の事態と言えるのだった。
王琳はまだ『転生』を行える長寿の妖狐であるから理解は出来るが、妖魔退魔師のシゲンと妖魔召士のシギンは二人とも短命な筈の『人間』という種族なのである。
その人間の二名が、同時に『超越者』として同じ世界に現れる事が、如何に異例の事態であるのか――。
それはこの場では長らく世界を見てきた元『執行者』の『力の魔神』にしか分からない事だろう。
魔神がシゲンという『超越者』の領域に達した人間に視線を送っていると、隣に居たソフィの『魔力』が爆発的に膨れ上がっていくのを感じ取った。
どうやら先程の宣言通り、ソフィもシゲンの攻撃に対抗する為に必要な『力』を開放しようというのだろう。
奇しくもこの短期間で『超越者』と『超越者』がぶつかる異例の事態が、元執行者である神格を有する『力の魔神』の前で行われる事となるのであった。
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