2007.超越者の領域にまたひとり
シゲンの戦力値の上昇が、まるで留まる事を知らぬかの如く上がり続けていく。
横に居るイツキと戦った時もシゲンは、今のように『金色』を纏って戦っていたが、今の彼はあの時とは比べ物にならない程の戦力値になっている。
「な、何だよこれ……。俺と戦ってた時は、どんだけ手を抜いていやがったんだよコイツ……!?」
確かに同じ『金色』を纏っていたとしても、普段の力を抑えている状態であれば、如何に『金色』で戦力値を十倍にしたところで大した数値ではないだろう。
しかしそれでもこのイツキを相手に手を抜いていたという事実を知り、彼自身の心を苦しめる結果となった。
今のソフィの『五割』の解放状態からの『三色併用』を用いている事によって、すでに4兆を優に超えている数値を叩きだしているが、シゲンはそんなソフィの戦力値を遥かに上回っていく。
(まさかシゲン殿の本来の力がこれ程までとは……。それもまだ上昇は留まるところを知らぬ。これは戦闘特化の状態を持った上で、更に魔王形態を戦闘状態にしたとしても、それでも攻撃を受けきるにはまだ足りぬか……?
)
ソフィは決してシゲンを侮っていたというわけではない。
単にこれまでの『自己』による戦闘での経験と、魔神が昔から口にしていた『世界の崩壊』の一件が常に頭を過っており、この今の状態でも『充分過ぎる』というある種、洗脳的な考えによって、結論を生み出させてしまっていた。
だが、そんなソフィ自身が作り出した常識の『枠組み』をシゲンは粉々に打ち砕いて行く。
更に上昇は続いて行く最中だというのに、そこから更にシゲンは『鉄紺』と『金色』が同時に存在している状態から、綺麗に交ざり合っていく。
――『青』と『金色』の『二色併用』。
それは、これまでとは比較にもならない程の爆発的な戦力値の上昇。
すでにシゲンの戦力値は『10兆』を超えた。
――が、それでも全く数値の上昇の勢いは衰える事はなく、ガンガンと今も上がり続けている。
「ば、馬鹿な……っ!」
遂にイツキは目を丸くしながら、如実に驚きの声を口に出すのだった。
すでに現段階で序盤から中盤時に『王琳』と戦っていたソフィと同等か、若しくはそれを上回る程の戦力値であった。
「クックック。どうやら我は相当に目を曇らせておったらしい。たかがこの程度の『力』の解放で、シゲン殿の攻撃を受けようとしていたとはな」
「――」(む、無理もないわよ、ソフィ。こ、こんな力をこれまで隠し持ちながら平然としている人間なんて、想像しろというのが不可能だもの……!)
その魔神の言葉の真意とは、これ程までの強さを有する人間が『下界』に居る事に対しての驚きではなく、全く想像すらさせない程の謙虚さを用いながら、何食わぬ顔でこれまで魔神やソフィと共に同行してきていたという事実に対しての驚きなのであった。
どれだけ隠そうとしたところで、王琳や煌阿達といった強さを持つ者達を前にすれば、自衛や自尊心などをひっくるめて何処かでボロが出る筈であり、それは矜持という観点からも隠す事は難しいと言えるだろう。
それもこのシゲンは、現段階でもあの『煌阿』を単独で打ち破れる程の強さを持っているというのに、今こうしている間にも更に爆発的に強くなっている途中である。
魔神は先程までのシゲンを見て、充分に『超越者』に近しい領域の強さだと考えていたが、すでに今のシゲンにその認識は大きな誤りだったのだと強引に認めさせられていた。
――シゲンは『超越者』に近いかもしれないではなく、間違いなく『超越者』の領域と断言が出来る。
そして遂にシゲンの戦力値の上昇がピタリと止まり、変化が止まった事も直に目で判断も出来るようになった。
「ソフィ殿。待たせてすまない。だが、これでこちらも準備は整った」
『鉄紺』の『青』と、天からの贈り物である『金色』を同時に併用させたシゲンが、ソフィに準備が整ったことを知らせるのだった。
副総長ミスズを含めた全妖魔退魔師が、口を揃えて総長のシゲンには勝てないと口にする理由が、この場に居るソフィとイツキにも分かった。
前時代の妖魔退魔師組織どころか、これまでの妖魔退魔師の歴史上で『シゲン』を上回る『人間』は存在しなかった筈である。
最早シゲンは『妖魔退魔師』の枠組みではなく、卜部官兵衛やシギンといった最強格の『人間』の枠組みの範疇に入る事は間違いない。
そんなシゲンに直接視線を向けられたソフィは、自ずと戦いたいという気持ちが膨れ上がってしまうのであった。
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