1998.大魔王ソフィVS大妖狐王琳22
「ソフィの奴、あれを使いやがるつもりだな……」
『隠幕』を用いながら空の上に上がってきたヌーは、同じ空の上に居るテアにも聞こえる声でそう告げた。
「――」(アレっていうのはお前が『死の結界』って呼んでる相手の『魔法』とかを封じるソフィさんの『結界』の事?)
「ああ。実際には『魔法』だけじゃなく、魔瞳といった『魔力』を用いた『魔』の概念技法全てを無効化するんだがな。そして防ぐだけじゃなく、相手が使った『魔』の技法に応じた『魔力』もそのまま奪いやがるから、威力が大きければ大きい程、術者は次に使うのに必要な『魔力』が足りなくなり、結果的に勝負がそのまま付いちまうんだ。かといって『魔力』の消耗が少ない『魔法』なんざ使ったところでどうにもならねぇしな。ソフィにとって対魔法使いとなる相手なら、あれが発動した時点でもう負けようがねぇ」
そこまでテアに対して口にしたヌーだが、胸中で『まぁ、別に相手が魔法使いじゃなくても、あの野郎は負けようがねぇがな』と付け足すのだった。
「――」(でもそれならさ、何でこれまでソフィさんは使わなかったんだ? 先に展開しておけば良かったんじゃないの?)
「王琳の使う『透過』はソフィの『死の結界』の外側に居れば、直ぐに消し去る事が出来やがるんだよ。別にソフィの膨大な『魔力値』からすれば、何度も張り直す事も可能だろうが、使うたんびに消されちまったんじゃ、何の意味も為さねぇからな。無駄だと考えてこれまで使わなかったんだろう」
テアはヌーの考えに理解を示しかけたが、そこでふと新たな疑問が生まれるのだった。
「――」(つまり今ソフィさんが使おうとしているって事は、王琳が決め手となる『魔』の技法を用いるって確信しているって事か?)
「……」
先程までは断言するような言葉を口にしていたヌーだが、このテアの質問には直ぐには返事をしなかった。その事にテアは不思議に思い、視線をソフィ達からヌーの方へ向けた。
「どうだろうな……。色々と可能性は思いつくが、今のソフィがどういう理由から『死の結界』を使おうとしているのかが俺にも分からねぇ。単に意味もなく発動させるとは思えねぇが、まだ王琳は『透過』を使えられる外側にいるし、どちらかと言えばこのタイミングで『死の結界』を使えば、隙が生まれるのはソフィの方だ……」
相手がソフィの『死の結界』すらもあっさりと消滅させられる『透過』を使えなければ、ソフィの狙い通りに勝負は運び、そしてどんでん返しもなしにこのまま勝負がついて終わりだと言えただろうが、どうにもヌーにはまだ、この勝負がこれで付くとは思えなくなっていた。
(テアに質問をされるまでは、俺もこのまま勝負がついてもおかしくねぇと考えていたが、確かにこのタイミングの『死の結界』を使うのは不自然だ。王琳の野郎がもう少しソフィに接近を果たしてる状態だったなら『死の結界』の効力が確立していただろうが、まだあの距離なら王琳の野郎なら解除も出来るんじゃねぇのか……? ソフィは使ったんじゃなくて、焦りから使わされたのか……? いや、まさか、あのソフィだぞ……?)
これまでどんな相手であろうが、圧倒的な余裕を持ったままで勝負全体をコントロールして圧勝する。それがヌーの知る『大魔王ソフィ』という魔族だったが、ここまでの王琳との勝負ではこの段階に至ってさえ、多くの大魔王との戦いで見せてきたソフィの作り出す戦いの局面とは、全く掛け離れているように感じられるヌーであった。
大魔王ヌーはテアとの会話の中で抱いた少しの違和感から、小さくはあれども疑惑へと変貌を遂げる過程というものを如実に感じ始めるのだった。
(これはソフィの策略なのか? それとも王琳の野郎が作り出した罠なのか? いったいこれはどちらが仕掛けているというんだ……?)
大魔王ヌーは、今のこの状況が如何に重要な局面なのかをようやく理解し、これはどちらの狙い通りなのか、そしてこの後は、実際にはどちらが有利になるのかと疑問を抱く事となるのであった。
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