表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2013/2215

1996.大魔王ソフィVS大妖狐王琳20

 ヌー達が『隠幕(ハイド・カーテン)』の魔法で姿を消しながら、ソフィ達の居る空に辿り着いていたが、ソフィはそちらに気づくことなく王琳の方に意識を向け続けていた。


 勿論、ヌーが使った『隠幕(ハイド・カーテン)』の効果のせいもあるのだろうが、それ以前にソフィは王琳の『透過』によって、準備を行っていた『スタック』の魔力の大半を使わされてしまい、王琳による咄嗟の行動に対する対策を自前の『魔力』のみで行わなければならなくなり、今は王琳の行動に注視しているのだった。


(何故、あの絶好のタイミングであやつが仕掛けなかったのだろうか? 今のあやつ程の強さであれば、我に手痛い一撃を加えられただろうに、それをしなかったのが今でも不可解だ……)


 ソフィは先程放った『絶殲(アナイ・アレイト)』を無効化されたことで、内心では王琳にその隙を突かれて再びあの『雷の矢』を使われるだろうと考えていたが、実際には愚直に突っ込んでくるだけであった為、逆にソフィは王琳の行動が不気味さに映るのだった。


(しかしそれにしても……。今の我は相当に力を出しているつもりだが、全く先程までの戦いと比べても違和感を感じぬな。すでにこの場所でなければ世界に歪みが生じる程の影響を及ぼしているだろうに、この状況下にあってもあやつが浮かべる表情は変わらぬままだ。無理をしているような様子もなく、全く気負っている素振りも見せぬ。どうやらこれぐらいであれば、あやつにとっては普段通りに出せる力の範疇なのだろう)


 これだけ何度も拳を交差させながらも、互いに致命傷となる一撃を入れられずにいるのには、実力が拮抗しているからに他ならないが、実はこれは見た目以上に凄まじい攻防が行われている。


 たとえば牽制に使うような王琳の拳一つとっても、まともに直撃すればこの妖魔山の中腹を任されていた天狗族の『帝楽智(ていらくち)』を一撃で消し飛ばす事を可能とし、また先程のソフィの『絶殲(アナイ・アレイト)』をあっさりと消して見せたように、王琳の『透過』は相手の『魔』の概念技法を瞬時に消し去る事も可能である為、そちらに多量の『魔力』を費やしながら大きく溜めを作る事になる『魔』の概念技法そのものが、彼にとってはそれ自体が絶好の隙と捉えられてしまい、王琳の相手にとっては手痛い反撃を受ける事にも繋がるのである。


 つまり魔法使い主戦型であるソフィにとっては、本来であればこの王琳とは非常に相性が悪い相手の筈なのだが、ソフィはソフィで近接攻撃を主とする王琳の攻撃とまともに渡り合いながら、まるで同じ近接戦士のようなやり取りを行っているのであった。


 ――如何に大魔王の戦闘スタイルの概念が、人間の冒険者達のような前衛も後衛も関係ないものだと考えられているのだとしても、王琳程の戦士の権化と呼べるような妖狐を相手にする『魔法使い』もなかなか存在しない事だろう。


 王琳もそれが分かっている為、幾度となく『魔』の概念技法を主戦型と捉えているソフィに対して、通常であれば絶好の隙と考えられる攻撃に対して、素直に真っすぐ詰めに行く真似をしないのであった。


 ――それが明確となったのが、この戦闘の流れを作るに至った最初の『絶殲』の隙である。


 そしてその隙をつかなかった王琳の行動こそが、ソフィが迷いを生じさせている最大の要因であった。


 図らずもこの事があって、ソフィはこの肉弾戦に意識を割かされてしまっていて、この戦いの開幕の時や、意識を失って『自我』となった時のような『極大魔法』を乱雑に使うような真似もしなくなったのだ。


 確かに長い目で見れば、隙を生み出さないという点では『魔』の概念技法を多用しないのも正解の一つではあるし、こうして王琳と真っ向から殴り合いが行えている点から省みても、戦闘を行っているソフィに対して間違いを指摘する事は出来ないと言えるのだが、それでも彼の主戦型は『魔法使い』である以上、一番彼の特質にして恐ろしい部分が『封じられてしまっている』という考えも否定が行えないのも事実である。


 いくらソフィが自分とまともに肉弾戦で渡り合う事が出来ていたのだとしても、王琳にとっては好都合な展開だと言えてしまうだろう。何故ならあくまで互角以上ではなく、互角に渡り合っているだけに過ぎないからである。


 ソフィを相手にする上で本当に怖い部分が来ないのであれば、王琳は互角の肉弾戦をこのまま続けても何ら不利になるような不都合が生じない。


 ――そしてこの展開を生み出す事こそが、王琳の本当の目的であった。


 あの力を開放したばかりに行った、ソフィの開幕の『絶殲(アナイ・アレイト)』を『透過』で消滅させた時、ソフィの思考通りに『遠放速雷(エニア・エクレル)』を放っていれば、間違いなくソフィに甚大なダメージを負わせられたかもしれないが、大魔王ソフィには『救済』という『魔』の概念が存在する。いくら王琳であっても瞬時に自身の体内で完全回復を行われる以上は、王琳であっても外側から完全に妨害を行う事は出来ない。


 つまりあの場面で王琳が『遠放速雷(エニア・エクレル)』を用いて一時的な有利を生み出したところで、それで王琳の勝ちが確定するわけではない以上、後の展開を考慮すれば、今の展開の方が格段に都合が良いというわけであった。


 更にそれだけに留まらず、今のやり取り中にソフィに少しとはいえ、迷いを生じさせるような攻撃を行わせている事から省みても、あの場面で『遠放速雷(エニア・エクレル)』を放つより遥かに良い展開を生み出せたと断言が出来るだろう。


 そして王琳はこのまま肉弾戦を続けるつもりはなく、ソフィが気づかぬ内に、実はじわりじわりと彼は本命となる『遠放速雷(エニア・エクレル)』をソフィに直撃させる為の布石を生み出しつつあるのであった。


 ……

 ……

 ……

『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ