1995.大魔王ソフィVS大妖狐王琳19
煌阿戦の時に意識を失っていたソフィが放ったモノと全く同じ威力の『絶殲』が、あれだけ数多くこの空の上で放たれたというのに、その一切が完全に王琳の手によって全て消し去られてしまった。
そしてそれだけに留まらず、王琳はその場から一瞬の内に移動を開始する。動きに全く迷いがないところを見るに、どうやらソフィがこの攻撃を行うというのも想定の中の一つの内だったのだろう。
今の『二色の併用』を纏った妖狐の姿の王琳は、接近した大魔王ヌーの目でも追う事は不可能となり、一体何処に行ったのかと彼は王琳を探す為に必死に周囲に視線を這わせる。
そして拳と拳がぶつかり合う音が遠くの空の方から聞こえてきた事で、ヌーとテアは同時に背後を振り返る。
すでにソフィが『絶殲』を放った場所から両者共に移動を行っており、更にヌー達が捉えた場所からもすでに移動が行われていて、今の三色併用を用いた大魔王ヌーでさえ、目で追うどころか映す事も叶わなかった。
「や、野郎共……! こ、この俺がこの距離で見ていても目で追えねぇってのかよ! い、一体どれほどの差が俺と有りやがるってんだっ!!」
現在の強くなった筈の自分が、目の前で戦っている大魔王ソフィと大妖狐王琳の前では、他の有象無象の連中と何ら変わらないという現実を目の当たりにして悔しそうにしながら、そんな言葉を口にするのだった。
「――」(ヌー! 『魔力』で追うんじゃねぇ! ソフィさん達の攻撃の衝撃音から探れ! 使うのは目じゃなくて耳だ! 一定のリズムでソフィさん達は動いている!)
「は、はぁっ? 音だと……!? いや、テア分かんねぇよ……っ!?」
ヌーは背後に居るテアの言葉に一度は素直に耳を傾けたが、衝撃音が次々と違う場所から聴こえてきて、結局居場所を探れねぇと口にしながらテアの方を見ると、彼女は何と目を閉じながらも戦場に指を差し始める。
「――」(そこ、次は右だ……)
テアの声に再び衝撃音が鳴り響いた場所を睨みつけたヌーは、本当にテアが口にした通りの場所から次々と衝撃音が聴こえた事で、彼女が当てずっぽうで言っているのではないのだと理解するのだった。
「ど、どうなっていやがるっ!? 何故目を閉じたままで奴らの動きを追う事が出来やがる!?」
「――」(目で視るんじゃないよ、私だってソフィさんや、アイツみたいに目で追う事は出来ていない。音とソフィさんのこれまでの動き方を先読みしているだけだ。この際ソフィさんと戦うアイツの事は無視して音に耳を傾けてみろ。一定の距離でソフィさんが動いているのが分からないか? 右……、上……、ほら、また右だ!)
(あ、合っていやがる……。テアの言う通りの場所から音が聞こえてきやがる……っ!)
テアの卓越した観察眼にヌーは驚き、舌を巻きながらも言われた通りに何度か音とテアが指を差す方向を見ていたヌーにも、次に衝撃音が聞こえてくるだろうという場所をある程度、予測する事が出来るようになってくるのだった。
「ああ、確かにこれは形で捉えると分かりやすいな。ソフィの奴はどうにか王琳の野郎の頭部を狙える位置を確保するように、時計回りに上から振り下ろす攻撃を続けていやがるように思える……」
「――」(ああ、でもそれだけじゃないぞ。気づかないか? ソフィさんは時計回りに動いているだけじゃなく、衝撃音が聞こえる直ぐ後に、一瞬だけ後ろへ距離を取ってる。あれは何かを狙っているようだけど、上手く行かなくて仕方なく移動を繰り返しているように思える。だから右上からの攻撃じゃなくて、その後に一度数メートル分、後ろに下がった場所から衝撃音が続くのが聞こえる)
そのテアの指摘通り、単に時計回りの一定の衝撃音ではなく、その後にワンクッションおいた攻撃音が付随するのが理解出来るヌーだった。
「テア、お前はすげぇな。確かにソフィの奴は、あの一瞬の拳の交差の瞬間に何かをしようと試みてるような距離の使い方をしてやがる」
「――」(私ら『死神貴族』は契約を交わした相手が、何処にも逃げられないように追い詰める事を長年続けて来たからな。目で信用出来ない時は他の五感を頼りに、離れて逃げようとする契約者の思考をなぞりながら、考えている事を読み解いて理解する。ソフィさんの動きが目で見えないなら、聞こえてくる衝撃音が『情報源』として捉えるんだ。後は聞こえてくる場所から数パターンを頭で考えて、自分だったらどう動くかという事と、実際のソフィさんの動きで答え合わせを何度も行うんだ。そうすればある程度絞れてくる。お前の言う通り、ソフィさんはどうやら攻撃を仕掛けて、あの王琳って妖狐の隙がないかを確かめているってところまで私は『先読み』出来た。お前もやり方はもう分かったよな? お前だって私より戦闘の経験は豊富な筈だ。探り方を理解した後は、お前の方がソフィさんのやろうとしている行動が私以上に見えてくる筈だよ?)
――そのテアの言葉に、ヌーは『シギン』が言っていた言葉を思い出した。
「ああ、成程な……。それで恥を気にせずに何度もソフィの野郎に挑めって奴は俺に言いやがったのか! ソフィの動きを知らなければ、目で追えなくなった時に困るのは当然だ。五感全てが『情報源』……。全く、俺よりよっぽどお前の方が優れていやがる……」
「――」(当然だろ? 私はお前という大魔王と契約を交わした『死神貴族』なんだぞ。これくらい出来て当然だろう?)
「ああ、流石は俺のテアだ。認めてやるよ」
「――」(分からない事があったら、何でも私を頼りなさい)
「うるせぇ、調子に乗るんじゃねぇよ!」
戦う相手の攻撃手法や、その癖や特徴などを知っていれば、目で追えなくなった時に他の五感や思考を用いて相手のやりたい事を探る事が出来る。後はその相手との戦闘経験を軸に相手になりきって戦えば、何を頼りにすればいいか分からない状況に陥るよりは、よっぽど建設的な動きを取る事が出来るという事だろう。
確実にソフィの動きを追えるわけではないが、例え先読みが上手く機能しなくとも、確かにテアが攻略法を口にする前と今とでは全く異なった戦いの風景が、ヌーの頭に描かれていくのだった。
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