1994.大魔王ソフィVS大妖狐王琳18
ヌー達が目指す空の上に居るソフィは、相手がどういった出方をするかをそれなりに長い時間窺っていたが、先程までとは幾分と事なり、速度で場を掻き回すといった行動を取らない王琳に違和感を覚え始めていた。
(こやつも以外に食えぬ奴だな……。どうやら先程とまで比べて大きく力の上昇を果たしたようだが、今度は開幕から我にあれだけ厄介だと思わせた、我達の使う『天雷一閃』のような『雷』の一撃を今度は全く使おうとする素振りすら見せぬ。単に使うつもりがなくなったのか、それとも我が対策を取ると考えてあえて使わぬつもりなのか?)
ソフィは自身が『七割』の『力』の開放を果たしてからこれまでの間、ずっと王琳の攻撃に備える為の行動パターンを考えていたが、その中でも鍵となってくるのが、序盤からずっと苦しめられた『遠放速雷』だと考えていた。
今の王琳が纏っている『二色の併用』が齎す数値の上昇をある程度把握する事が出来るソフィにしてみれば、王琳のオーラの練度を加味した上で、少なく見積もっても先程の『遠放速雷』の十倍以上の威力は有ると思って見ている。
当然それは今のソフィにとっても軽く見れるモノではなく、しっかりと対策を取らなければならないと思える代物である。
だからこそソフィは使われる事を念頭に置いて、用意しているスタックの大半を『次元の防壁』や、軽減を目的とする『魔法』の為の『魔力』として残しているのである。
しかし、ここでもし王琳が『遠放速雷』を使わずに、別の攻撃手法を仕掛けてきた場合、ソフィの用意した『遠放速雷』対策用の『スタック』は全てが無に帰す事となるのだ。
もちろんソフィは『スタック』している魔力以外の『魔法』による対策等も用意をしているが、王琳が『遠放速雷』以上の隠し玉を複数所持している場合、用意した『スタック』分の『魔力』をそのまま完全に腐らせてしまう恐れがある。
王琳の今の状態から放つ『遠放速雷』を無効化する為に用いる『スタック』の魔力は、少なくとも数千億から数兆分は必要となるだろう。何故なら今の王琳の『遠放速雷』が齎す影響が未知数だからである。
どれ程の数の規模、どれ程の速度、どれ程の威力かが分からない上に、それをどのタイミングで王琳が放つかも考えなくてはならない為、ソフィは想定より多めに『スタック』に魔力を割いておかなくてはならないと感じていたのだった。
(これが我が望んでいた戦闘なのだ。たった一回のやり取りに我はこれだけ頭を悩ませておる。これが更に戦闘が進めば、もっと考える事は増えていく事だろう。今から繰り広げる攻防が待ちきれぬぞ……、王琳!)
「クックック……ッ! お主が動かぬのであれば、仕方あるまい。任意的に行うのではなく、あくまで必要だからと考えて我から攻撃をするのは、これまで我が生きてきて初めてかもしれぬな」
空中に埋め尽くすように『スタック』されていた『魔力』が光を放ち始めたかと思うと、大魔王ソフィは自身の胸の前に腕を出し始めると、指を組みながら一つの『魔法』を発動させるのだった。
――魔神域魔法、『絶殲』。
大魔王ソフィの『魔法』の発動によって、何もない場所から次々と『真っ白い光の束』が出現を果たしていく。
この『絶殲』は、煌阿戦の時に意識を失っていたソフィが一度見せたものと同じだが、あの時は王琳だけではなく、妖魔退魔師のシゲンや、複数のこの絶殲を受けるのではなく、見事に相殺してみせた大魔王ヌーの存在があった事で無事に事なきを得る事が出来た。
――だが、今回はこの『絶殲』を王琳だけで何とかしなければならない。
『詠唱』を必要とせず、更には『スタック』していた『魔力』を費やした事によって放たれた『絶殲』は、待機状態になる事もなく、ソフィの『魔法』の発動と同時に、いくつもの『絶殲』が真っすぐに王琳の元へと向かっていった。
……
……
……
「――」(おい、ヌー!! これ以上近づくのはやばいって! ソフィさんの『魔法』に巻き込まれるぞ!?)
地上から空へと飛び上がったヌーとテアだったが、タイミングが悪かったようでソフィ達の元にもうすぐで辿り着くというところで、突然に空中に散らばったソフィの『スタック』が輝きを放ち始めたかと思えば、自分達の居る場所をも巻き込んでしまうであろう『絶殲』の『魔法』を目撃してしまうのだった。
「ちっ! 奴らも何でこのタイミングで動き始めやがる! ついさっきまで奴らは置物みてぇに止まってやがっただろうがよっ! それもさっきまでの戦いより一気に全体を巻き込むような『魔法』を放ちやがって! 俺らに安易に近づくなっていう隠れたメッセージか!?」
もちろんソフィはそんな事を考えて攻撃を放ったわけではなく、この死地に勝手に近づいてきたヌーの被害妄想に過ぎない発言だったが、確かにこのままでは意図はともかく、ヌー達は形もなく消滅してしまう事だろう。
――魔力値が優に10兆を超えているソフィが放った『絶殲』である。
今の大魔王ヌーの耐魔力ではまともに直撃せずとも、単に掠っただけでも消滅してしまいかねない。
「やっちまったか……。仕方ねぇ、ソフィ達の不興を買う事になるが、生き残る為にまたアレを使うしかねぇっ!」
大魔王ヌーがこの場面で唯一生き残れる可能性があるとすれば、彼が口にした通りのとある『魔法』を展開するしか道はない。
それは『多次元防壁』という、ヌーが生み出した個から全の全ての極大魔法に対して、任意に相殺を実現させる事が可能な対『極大魔法』の極地と呼べる『時魔法』であった。
「テア! しっかり掴まっていやがっれ……――!?」
――大魔王ヌーがテアにそう告げた後、自分達の身をソフィの『絶殲』から守る為に『多次元防壁』を展開しようとしたその瞬間だった。
自分達の方にも向かってきていた複数の『絶殲』は、ヌーの『多次元防壁』が発動する前だったというのに、音もなく全てが完全に消え去るのだった――。
――『透過』、魔力干渉領域。
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