1987.大魔王ソフィVS大妖狐王琳11
ソフィは王琳がこの八方塞がりと言える状況を打破するべく、何らかの行動を起こそうとしていると考えて、攻撃に備えている『スタック』以外にも新たに防衛用の『スタック』を展開し始めた。
――そのソフィの予測からの対策の判断は、非常に素晴らしいものであった。
これまで通りに炎の番人が、王琳を仕留めようと炎の玉を放った瞬間、その番人の攻撃に対して今まで大きく回避を取っていた王琳は、その場から動かずにソフィを見据えたまま、天に突き上げるように上げていた右腕をソフィに向けて一気に振り下ろした。
「何だ……?」
ソフィの予想通り、王琳が何かを自分に向けて放ったと判断したソフィだったが、王琳の元からこちらに向かうモノを何も目視出来ず、また先程まで感じられていた『魔力』の塊そのものすら感じられなくなった為、一体何だったのかとばかりに、彼は肩透かしを食らいながら小さく呟くのだった。
今もソフィの目の前では、先程までと同様の光景が繰り広げられていて、番人が放った炎の玉が連続して王琳の元へ向かっていく最中であった。
これまでと明確に違うところと言えば、王琳が別の場所へと回避を行おうとする素振りを見せないところにあり、先程何かをこちらに向けて投げたように見えた態勢を取ったままで、その場所に止まっているだけに見えた。
このままでは番人の攻撃が直撃するだろうと考えたソフィだったが、まさにその直後、彼の考えは裏切られる事となった――。
「むっ……!?」
ソフィは王琳の遥か後ろから、何かが迫ってくる『魔力の塊』を感じ取って視線を王琳からそちらへと移した。
ソフィが誰よりも早く迫りくるモノを感じ取れた事は、流石と言わざるを得なかったが、しかしそれでも遅いくらいであった。
彼が王琳の背後に視線を移した時は、まだ視界にちらっと何か光るモノが見えただけだったが、それが何なのかをソフィに思い至った時にはもう、王琳の遥か後方にあったモノは、王琳の居る場所を抜き去っていった。
炎の番人が王琳に向けて連続で放っていた炎の玉は、一つや二つではなく、弾幕と呼べる程の数であったのだが、その『雷の矢』が通る軌道上にあった炎の玉は、まるで浄化させられたかの如く『雷の矢』に呑み込まれていき、やがては『雷の矢』は音もなく、ソフィを守り立つ炎の番人の直ぐ前にまで迫って来ていた。
ソフィは次の攻撃に備えていた計画を全て破棄して、迫りくる『雷の矢』と呼べるその代物を無力化する為に準備していた『スタック』を使用する。
最早、この速度では新たに無詠唱で『魔法』を発動させるのも遅すぎると、ソフィが判断した為である。
――神域魔法、『次元防壁』。
ソフィに向けて迫って来ていた『雷の矢』と呼べるソレは、あっさりと炎の番人を貫き消滅させた後、ソフィの身体すらも呑み込みかけていたが、ソフィが『スタック』させていた『魔力』のおかげで、無事に『次元防壁』の発動が間に合って、王琳が放った『雷の矢』を次元の彼方へと消し去る事が出来た。
(あれは開幕に奴が放ったのと同じものに見えたが、今のはまるっきり異なっておった。確かに最初に見た時も尋常ならざる速度であったが、今のは開幕のものとは全く異なる速度だった……、っ!?)
「――ソフィ、何を防ぎ切った顔をしている。本番はこれからだぞ?」
王琳の声がソフィの耳元に届く頃にはもう、全方向からソフィに向かってきていた数発の『雷の矢』が、一斉にソフィの身体を貫いていた。
「――」(ソフィ!!)
ソフィや王琳の居る空の上より、更に遥か空の上で戦闘の行方を見守っていた魔神は、王琳の攻撃によって光に呑み込まれて見えなくなったソフィに向けて叫び声を上げた。
あの『力の魔神』が、これ程までの叫び声を上げるのは非常に珍しい。それもソフィに対して焦燥感を隠そうともせずに声を上げたのである。
――どうやら『超越者』である王琳の『雷の矢』の破壊力は、天上界に君臨していた『力の魔神』でさえ、叫び声を上げざるを得ない程の威力のある攻撃だったようである。
今の王琳の放った数発の『雷の矢』は、先日魔神がソフィの放った『絶殲』を防ぐ事を諦めかけた時と、威力そのものが限りなく近くまで迫っている程であった。
それが如何にとんでもない事なのか――。
世界そのものを崩壊させる程の殺傷能力を持った『魔』の技法が、大魔王ソフィに一発ではなく、何発も直撃したのだ。
如何に大魔王ソフィの耐魔力が優れていようと、無抵抗のまま直撃した以上は平然としていられる筈がない。
――そう、間違いなくそれは、普通では有り得ない筈なのだ。
だが――……。
ソフィを包み込んでいた眩いばかりの光が弱まっていき、その姿を視認出来た時、この場所を見る事が出来た者全員の表情が、驚愕の色に染まる事となった。
――何と、大魔王ソフィは無傷のままで嬉しそうに笑みを浮かべながら、眼光を鋭くさせて王琳を見ていたのであった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!




