1985.大魔王ソフィVS大妖狐王琳9
王琳が空を昇るように駆け上がって行くと、遂に先に空へと上がっていたソフィの姿を視界に捉える事が可能となった。
やはり王琳の今の本来の妖狐の形態は、人型を取っている頃よりも移動速度がかなり増しているようだ。それは相対するソフィだけではなく、王琳自身の体感にも表れていた。
(このまま一直線に奴の間合いに入り込めば、先程の二の舞になる恐れがある。奴の目を撹乱させる為に大きく移動距離を取って奴の思惑の裏をとっ……!?)
王琳が目指していた場所へ向けて、軌道を変えようと足を動かし始めた瞬間、王琳の向かおうとした地点に先に連続して『魔法』で出来た炎の玉を飛ばしてきたのだった。
王琳は空の上で慌てて軌道修正を行い、何とか速度が付く前に停止する事が出来た。
動きを先読みされたと判断した王琳は、苦々しい気持ちを抱きながらソフィの方を一瞥すると、そこにはこれまで見た事がない『存在』が出現していた。
――魔神域魔法、『炎帝の爆炎』。
その『存在』は意思を持った炎が、具現化して人型を取っているかのような姿をしており、ソフィを守るように立っている事からも、彼が何らかの『魔』の技法を用いてこの場に出現させたのだろうと王琳に窺わせた。
王琳の予想の通り、このソフィを守り立つ人型の炎の『存在』は、彼が『魔法』を用いた事で出現を果たした炎の番人である。
この『魔法』の名は『炎帝の爆炎』と言って、術者の『魔力』の大きさにより生み出される『炎の番人』の攻撃力と耐久性が異なる事からも、精霊達の『理』で生み出される炎の魔法よりも上とされる『超越魔法』に該当する。
この『炎帝の爆炎』の行える攻撃手法だが、使役する時の術者の『魔力』に応じて出現する炎の番人が、連続して放つ炎の玉が主となる。
この魔法を好んで使う魔族は多いが、その大半はあくまで『超越魔法』の範疇に留まる程度の火力であり、この炎の番人だけで『大魔王』の領域に居るような魔族を屠る事は本来は有り得ない。
あくまで術者が他の魔法を発動させるまでの時間稼ぎに使ったり、動きが速い敵を仕留める為の目晦ましに使ったりする『魔法』である。
だが、先程も述べたようにこの『炎帝の爆炎』は、詠唱者の『魔力』によって強さが変わる為、大魔王ソフィがこの場で使役した『炎帝の爆炎』が放つ炎の威力は『超越魔法』で収まらず、炎の玉一発の火力でさえ『魔神級』が相手であっても甚大なダメージを負わせる事が可能な程の威力に変化していて、まさに『魔神域魔法』に分類されるに値する代物になっていた。
そして王琳にとっては更に不幸と言える展開になったと言えよう。
何故なら、この『炎帝の爆炎』によって生み出されたモノは、単なる『炎の魔法』というわけではなく、質量を伴った炎の番人だからである。
その名が形を成しているかの如く、炎の番人はソフィを守るように立ちながら攻撃を行っている為、王琳も先程の目論み通りに間合いに入る事が、易々とは行えなくなってしまったのであった。
単にこの炎の番人を消滅させるだけであれば、王琳程の戦力値を持っていれば何も問題はないように思えるが、真に厄介な事はソフィの間合いの中で僅かにでも隙を見せる事にある。
先程の交わし合った拳の一撃でさえ、あれ程の威力を持っているソフィなのだ。無防備の状態であの拳以上の威力の『魔法』を無距離で放たれてしまえば、妖狐本来の姿であるといっても耐えられるかは、王琳にも未知数となる。
何より意思を持つこの『炎の番人』を『透過』で消し去ったとしても、一時的には脅威を取り除けたとしても、結局は大魔王ソフィの『魔力』が続く限りは常に生み出され続ける筈である。
王琳は炎の番人が次々放つ炎の玉を回避しながら、先程までの攻撃の計画を続けるかどうか思案を続けていたが、ちらりと一瞥したソフィが何やら両手を空へと翳し始めたのを見て、ここは無理をする場面ではないと結論に至り、その場から一度完全に離脱する結論を下すのだった。
――そしてその王琳の判断が、まさに九死に一生を得るのだった。
王琳が攻撃の計画を変更しなければ、間違いなく向かっていたであろう場所に、天から雷光が降り注いだのである。
――魔神域魔法、『天空の雷』。
――魔神域魔法、『天雷一閃』。
そして天から降り注ぐ雷光は一つだけではなく、一つ目の降り注いだ雷にまるで追従するかのように、二度目の雷光が天から降り注いだのであった。
それも一度目の『天空の雷』とは比較にもならない『天雷一閃』と呼ばれる二発目の雷光は、あっさりと王琳の居る空の高度から地上へと到達してしまい、先程王琳が激突して出来た大穴より、一際更に大穴が出来てしまう程であった。
あのまま王琳が炎の番人を無視して、ソフィの間合いへと入ろうとしていたら、間違いなく雷の魔法攻撃の餌食になってしまっていただろう。
しかし雷光を避けられたからといって、これで無事に済んだと安心が出来るわけではない。
大魔王ソフィにとっては、この程度の連続魔法で魔力の消費を気にする筈もなく、避けられたのであれば、当たるまで繰り返せばいいと判断しているかの如く、次々と追撃の準備を行い始めていく。
再び人型の時の王琳が窮地に追いやられた時のように、数百を越える魔法陣が空中に出現していく。
「ちっ!」
脅威なのは新たに生み出されていく魔法陣だけではなく、先程使役された『炎帝の爆炎』も決して侮る事は出来ない。
先程と全く同じ光景を繰り返したかの如く、隔絶されたこの空間の空に雨雲が次々と生み出されている。
つまり王琳が、一度でも番人の放つ炎の玉に足を取られた瞬間に、再び天からの雷の一撃が彼の身を焼く事になるのだろう。
王琳は考える事が多すぎる現状に、どんどんと精神を削られて余裕を失っていく。
「これがソフィの本当の戦闘スタイルってわけか……!」
結局、王琳はソフィが『六割』の開放を行って、魔王形態を変えた直後から攻撃に転じる事が一切出来ずに、回避一辺倒となってしまった。
王琳は連続して放たれる番人の炎の玉を回避しながら、先程考えていた通り、ソフィの戦闘に於ける防衛力は生半可ではないと改めてそこに思い至るのであった。
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